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《夢儚散文4 電車の男》#散文
子供の頃、電車の窓を眺めるのが好きだった。
窓を眺めると決まってプラットフォームである男が姿を現し準備体操を始める。
そして発車ベルと共にクラウチングスタイルになり電車並走を始めた。
フォームを過ぎるとジャンプして家の屋根へと移り、ビルがあればよじ登り、電信柱から電線の上も綱渡りしていく。
川も泳ぎ、時には転んだり、工事現場の穴へ落ちたり…重力に飽きて空を飛ぶこともあった。
無敵なその男は自由自在だった。
足だって伸びたり、手だって大きくなったり、巨大化して雲を突き破ってでんぐり返しをし始めることだって可能だった。
イメージの自由さ。
新しいイメージが浮かぶことに気持ちが高揚した。
ある写真家に質問をした。
「良い写真を撮るためにはどうすればいいですか?」
年老いた写真家は言った。
「ひとつの被写体を撮り続けてみなさい。出来るだけたくさんの視点を探してみなさい。その視点があなたの世界を深める」
イメージを深めること。
この世界の視点を深めることに繋がる。
実はあの男はそんな視点を教えるためにプラットフォームに舞い降りてきたのだろうか。
今ここから始まる。そして、
次の駅へ、そしてまた次の駅へ。
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