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《夢儚散文35 孤独の愚流目》

今日で35年と8ヶ月童貞。
この歳月は仏陀が悟りの境地に至った年齢だそうな。
随分と捻くれて生きてきた自負がある。
むしろこだわりとも言えるし、執念とも言える。一途とも言えるし、一心とも言えるのかも知れない。

幼稚園生の時だったかな。
元気っ子でよく笑う優しいハルカちゃんのことを好きになって、キッスを求めたんだ。
子供ながらにこの好きと言う感情をどう表現していいか分からず、たまにテレビで流れていたドラマのキッスシーンを見て「これが好きを表現する方法なのか‼︎」と思い込んでハルカちゃんに迫ってみたんだ。
ドラマだと、見つめ合う2人→近づいていく→ブチュと言うキッスには3つのステップがあることは理解していた。
忘れもしないあの日、砂場で一緒に遊んでいたハルカちゃん。いつ見ても可愛い。
オレッチはじっと見つめたんだ。目を見つめ続けたんだ。そうしたらハルカちゃんもオレッチを見つめ返してくれたんだよ。その時思ったね。
第一ステップ完了と‼︎
オレッチはすぐに第ニステップへ移行。
作っていた砂山を跨いで、ズイズイズイっとハルカちゃんに迫った。
オレッチちょっと太っていたし、背もデカいから、ハルカちゃんはオレッチを少し見上げていた。
これがリアル上目遣いか‼︎モノスゴイ可愛いなぁって思った。
ドラマだったら上目遣いをしてくれたら確かキッスしてもいい合図!と第三ステップへ‼︎

最初のキッスの感想は、目の前が真っ暗になって綺麗な星が飛んだ。もはや宇宙的ッ‼︎キッスって宇宙と繋がるんだと思っていたら、全身全霊のビンタされてたみたいで、ハルカちゃん背が低かったからちょうどいい角度でアゴにクリティカルヒットして、オレッチ膝から崩れ落ちて、うつ伏せにぶっ倒れて顔面が砂場にメリ込んでいたんだよね。

それが初キッス未遂の思い出。それ以降オレッチの性癖はビンタされないと感じない体になってしまった気がする。ハルカちゃんのせいというかおかげと言うか。
その後の恋愛はむしろビンタされることを目標にしていた。
お付き合いしたいわけじゃないビンタされたいんだ。
ビンタされるためにはどうすればいいのか考えた。小学生4年生ときのナナちゃんのビンタも良かったなぁ。
好きな子にはちょっかい出してしまうのが健全な男子たる心情。
ちょっかいといえばスカートめくりだ。オレッチは毎日腕を逆回転に回して鍛え上げ、タイミングを見計らっていた。
あの日、授業が終わった後、ナナちゃんが廊下で同級生と話をしていたんだ。ちょうどナナちゃんが窓際にいて窓に手をついてお尻をオレッチの方へ向けたんだよね。
好機‼︎って思って、プルプルプルプルゥーって雄叫びをあげて練習してきた両腕を全力で回転させる踊りを始めたんだ。そして偶然を装ってナナちゃんのピンク色のスカートに手が当たると思いっきり跳ね上げた。
水色の白のシマシマのパンツが見えたね。
その後、起こった出来事はナナちゃんの両隣にいた女子のビンタ2連発と最後にナナちゃんの渾身のビンタ。オレッチはやったやったぞ‼︎ハルカちゃんぶりのビンタだ‼︎それも三発もって多幸感に包まれながら廊下へ倒れ込んでいたね。
あまりの悦に震えていたら、同級生に保健室に連れて行かれた。脳震盪したんじゃないかって心配されてね。
保健室から帰ってきたらクラス全員の女子からの冷たい目線&無視が始まったんだ。同級生の男子からは「勇者」と言うあだ名が付けられたっけ。女子に無視をされ続けていたら、ふと気づいてしまったんだ。オレッチは新しい喜びに気づいてしまったんだ。「放置されることの快感」を‼︎
開かれた心感覚の扉!冷たい目線、悪い噂話、無視されることの快楽。特にナナちゃんの態度が凄かった。オレッチ空気になっていたんだよ彼女の前では。
視界に入ってももう見えていないんだ。オレッチに焦点があってないんだよね。その頃SF小説が好きだったので、まさか透明人間になれる日が来るとは夢にも思わなかった‼︎と興奮したことを覚えている。

そして、中学二年の時のあの出来事は、さらなるオレッチを高みへ引き上げてくれた。
人は「生きがい」がないと生きていけないって最近ネットの記事で読んで、あぁオレッチ
生きがいがあるから童貞でも生きていけてるんだって思ったのよ。
あれはたしか中二の夏休みの夜。
確か満月が綺麗だねってお父ちゃんとお母ちゃんと眺めたことを覚えている。オレッチが大好きなハンバーグをお母ちゃんが作ってくれて、家族で仲睦まじく美味しくいただいて、お父ちゃんが好きなプロ野球中継をダラダラ見て、風呂入って寝るというありふれた日常だったんだけど、うちって貧乏だったから、平屋六畳二間しかなくって、寝室の部屋で家族三人で川の字で寝ていたんだ。
その日の正午にいきなり網戸を開いて、黒い目出し帽を被った男が上がり込んできて、そいつが包丁をもってるんだよ。
「お前ら動くな」って言って、お父ちゃん、お母ちゃんの順番でビニールのガムテープで手足結ばれて、身動きも声も出せなくなっていくのよ。次はオレッチの番だって思ってもう初めての体験で心臓バクバクしたんだよね。そしたらさ、オレッチ勃起してたんだよね。恐怖と興奮の回路が、オレッチバグっているんだなってハッとしてね。
むしろ早く縛ってくれって思っていたんだ。
ガムテで縛られていくごとに、興奮と共に心が満たされていくのを感じて、幸せのカタチには色々あるんだなぁって思っちゃった。

うち貧乏だったから、両親の財布から2万円ぐらい奪って強盗はすぐに去って行ったんだけど、三人がお昼前の宅急便の人が来るまで身動きが取れなかった。帰り際、強盗も窒素で死んじゃ困るかもって思ったのか逃げる前に口元はヒモにしてくれたね。
あれ猿轡って感じで、さらに興奮したんだよね。

あの体験によって、オレッチは人との感覚の大きな違いを悟った。
人生において究極のM男であることを悟った。
この社会ってオレッチみたいな根暗でデブで偏屈な男には厳しい社会。
だが‼︎しかし‼︎
オレッチには自己愛と言う究極の愛が存在しているのだ‼︎
『イキガイ‼︎オレッチナイスガイ‼︎』
ビンタされても前向きだし、放置プレイされたら嬉しいし、身動きが取れなくなると快楽を得られる。ある意味ニュータイプと言うか異能者と言うか、現代社会に適応するために神様が与えてくれたスキルなのかも知れないと思い感謝した。
むしろ神様からも愛想を尽かされたいとも思っちゃうお茶目な自分がいることにも気づき、そんな自分のスキルを「ウルトラポジティブ」と呼ぶことにした。
このスキルの発動を一心に意識することは並大抵のことじゃないかも知れない。選ばれし者だからこそ発動できる。

それから人を観る目ってのが変わったんだ。
オレッチはオレッチの価値観で生きているんだけど、みんな当たり前にそうなのかなって思っていたら実はそうじゃない人がなんて多いこと。
「え、なんでそんなことで悩んでいるの。そんな事を考えるカロリーがあったら、こう考えたらいいじゃん。あ、それは無理なんだ。へー」
って友達をさらに失って行ったんだけど、「一流は孤独を愛し、二流は群れを愛する」と言う格言を見つけて、やっぱオレッチ一流だったのかって思ったね。

思い返せば30歳を超えたところから能力がさらに高まっていた気がする。
「30歳まで童貞でいれば魔法使いになれる」
これを実践した勇者だけが辿り着ける境地。
選ばれし勇者‼︎
ある意味、オレッチは現代と言う異世界に転生してきてチート過ぎるウルトラポジティブと言うスキルを得た使者。この世界のゲーム設定がオレだけ違う。
無欲の勝利と言うか…あ、もっとビンタされたい欲求はあるけど、放置プレイと言うスキルでカバーできたりするところが無敵。そもそも敵とか無いから。敵を作らない。嫌われたりするけど、オレッチは嫌っても無い。オレッチの心はオレッチが手綱を握っているんだ‼︎  イエイ‼︎ウルトラポジティブ‼︎

で、35年と8ヶ月生きてきて、選ばれし勇者として、何か伝えていかなくてはと、ある使命感が湧き上がってきている。
何を残せるのかと思った時に、今この文章を書いている。仏陀も教えを残したように‼︎

オレッチを見習いたまえ。
人生ってまんざらじゃないんだ。
世界の目線は変えられるんだ。
ビンタされても、無視されても、拘束されても、喜びへと舵を切ることができるんだ。
彼女もできず童貞だと魔法使いになれるんだ。
大丈夫なんとかなる!
オレッチを思い出せ。

そこでウルトラポジティブの魔法を君たちに授けよう。
人生辛くなったら唱えるんだぞ。

『運たかめ、忍々マシマシ、奇才マシマシ、慈愛マシマシ、虚空マシマシ』

オレッチラーメン二郎好きなんだけど、この注文の感じ、なんか心が太れそうだろ‼︎

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