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《夢儚散文13 私は木》

体の細胞と言う細胞が針のようなアンテナを突き出すとき、私の感じているこの世界は変容していく。
耳へ飛び込んでくる音は旋回する七色の立方体となり、魚群のように目の前を泳いでいる。
そのひとつひとつが拡大と縮小と増殖と減少を繰り返し、心臓の鼓動のリズムと共に踊りながら私の全身へダイブしてきた。

波紋が広がるように身体に振動を伝えると、細胞のアンテナの先が双葉へと変化していった。

葉からはほのかに青リンゴと蜂蜜を足して発酵させたような甘い香りがしていた。
その香りに私は包まれると抱擁された気持ちになり、ゆっくりと深呼吸をしながら全身に浸透させた。
それが満ち溢れ始めたとき、私の胸がパズル状になり、その細かなピースが小鳥の群れが羽ばたくように空間へ飛び去っていった。

開かれた胸の中にある鼓動する心臓。
それはオーロラのような淡い輝きを放ち、その光は双葉の英気となり天へ向かって育っていく。

「細胞ひとつひとつは種、全ては生きている。そして新しい可能性の始まり」

下半身から玉虫色をした細やかな根が無数に現れた。重力へ従うように地へ向かって伸び、地は私を中心に五百円玉ほどの丸いタイルに変化して、それがドミノのようにパタパタとひっくり返ると薄い水色の蜂の巣模様となった。
その六角形の中心には丸、三角、四角の黒い穴が開いていて、私から伸びていく根が蛇のような動きをしながら、そのひとつひとつの穴へ入り込んでいく。
生命力の熱が根を通し体温が上がるのを感じる。
そして細胞から生える植物は螺旋状に絡まり合い融合していく。
そして巨大火山の噴火のような勢いで私の体はひとつの木となった。

空へ広がる枝は脳神経状に広がり、クリオネのような透明な葉が鈴虫の囁きにリヴァーブをかけたような音に合わせて生い茂っていく。
葉は心臓の鼓動と連動しながら光の強弱を繰り返し、色調も七色に変化させていた。

「生きている。生命を感じる…全身で私を味わう。私は根であり、幹であり、枝であり、葉である」

地から吸い上げられる栄養、そして天から与えられる光、全ては自然と渾然一体であるとの思いが芽生え、「私と世界」と言う分離した考えを持っている私の意識に気づいた。

そんな境界なんて幻影でしか無く、ただ、この世界という「ひとつ」であることを感じ、「私」に囚われているちっぽけな考え方を息を吐きながらこの世界に手放した。

樹冠に丸い目が無数に現れた。
漆黒の瞳孔とラメの混じったガラス玉のような深いブルーに輝く虹彩。それを中心に菊の花びら状の金色の華が手をゆっくり開くように開花した。

華はあらゆる鳥を魅了した。
その開花に誘われて空に微細な粒子がいたるところで結合を始めると、それが黄色い大きな口ばしをした水色の鳥となり、赤い足が長い黄緑色と赤い水玉模様の鳥となり、銀色で虹色の目と翼の鳥となり、ピンク色と白の縞々の鳥となった。
その他、特殊な鳥で言うとラベンダー色のカエルの顔をした鳥や藍色のライオン顔の鳥、顔がアゲハ蝶の鳥までいた。
鳥達は蜜を吸いに華に群がると、私は色彩豊かな賑やかな大木となった。

続く

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