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《夢儚散文34 時間の逆転》#掌編小説
「カップの自動販売機あるだろ。忘れもしないあの日は猛暑でよぅ。
水分‼︎水分‼︎氷‼︎氷‼︎ってカップ自販機に金入れてさ、コーラのボタンを押したんだ。
そしたら、目の前で世にも奇妙な不思議な出来事が起こったんだ。この話の続き聞きたいか?」
トオルがファミレスでコーラを飲みながら語り始めた。
ダイスケとミカは顔を見合わせてから、トオルの方を向き直ると同時に「知りた〜い」と言った。
トオルはストローを煙草のように持って吹かし始めた。全く煙草を吸わない男のくせに、軽くイキって見せている様子だが、鼻毛が出ていることにミカは気付いて内心笑っていた。
「世界ってよぅ!逆回転することってあると思うか」
トオルはコーラのグラスにストローで灰を落とす仕草をした。
「え、時間ってずっと前に進んでいるんじゃ無いの」
ダイスケはフライドポテトをつまみ、口の中に放り込み、咀嚼して呑み込むと口を開けた。
「ほら、これが時間が進むってもんでしょう。もうポテトは戻らない」
ニヤニヤしながらそう語ると、「これ結構美味いな」と呟き続けた食べた。
ミカは顔を傾げながらトオルに言った。
「確か、アインシュタインが時間は存在しないみたいなこと言って無かったけ、時間は絶対的なものではなく、相対的なものだとか。頭悪いからあんまりよく分かんないけどね」
トオルはそれを聞くと、右手を軽く横にふってチッチッチッと小馬鹿にするように舌を鳴らした。
「分かって無いなぁ君達。俺は見てしまったんだ!遭遇してしまったんだ‼︎、時間が逆転する瞬間によぅ‼︎」
「嘘だろ。最近そんな映画見たぞ! 何だっけ、えーとTENETってやつ。あれ凄い展開で面白かったよね」
ダイスケは無邪気に興奮しながら言った。
「最近、アニメの世界でも映画でもタイムリープもの流行ってるよね。トオルも流行りに乗っちゃってるってこと?」
ミカはトオルの気になる鼻毛を見ながらそう言うと、トオルは鼻息を荒くして語った。
「お前らそれは創作物だろ!違う、違う、違〜う!俺は体験したんだぞ‼︎ 目の前でよぅ!聞きたいか?この話」
鼻毛が小刻みに揺れると、同時に笑いを堪えるミカの肩もプルプルと揺れた。
「時間が逆転って、時間を止めるってよりスゴイな。時間を止めるキャラって漫画でも最強だったりするじゃん。それを超えるなんてトオルカッコいい〜」
ダイスケもミカに合わせて、ヨイショしながらおちょくった。
「ま、まぁな。まぁ俺が逆転させたわけじゃないだけど、お前の言葉を聞いて、あれは俺が逆転させたのかも知れないって思って来たぞ!そうあれは俺がやったんだ‼︎」
「おぉ〜トオル様スゴイっす」
ダイスケとミカは小さく拍手して手を合わせた。
「そろそろ、話の本筋に戻ろうか…」
トオルはストローを使わずにコーラを美味しそうにゴクゴクと飲み干し、グラスを力強く置こうとするが、根は小心者なので丁寧に紙のコースターの上に置いた。
「あぁ〜やっぱコーラはこの喉越しが最高だな」
ダイスケは勢いよくストローでコーラを啜り、ジョロジョロと飲み干し音が聞こえると、大きなゲップをした。
「あぁコーラは喉越しだよね。分かる分かる〜」
ミカは迷惑そうにゲップの息を手で払い、鼻をつまんで言った。
「それでそれで、話の続きは…」
「アインシュタイン先生が言う特殊相対性理論ではよぅ、光の速さに近づくと時間が遅くなるって言っているんだ。つまり、逆転したってことは俺はあの瞬間光の速さを超えたってことなのかも知れないな」
トオルもフライドポテトを摘んで見せると、パッと口に中に放り込んで呑み込んだ。
そして口を開けてドヤ顔をしているのだがミカは鼻毛にしか目がいかなかった。
「いい加減じらすなよ〜そろそろその出来事教えろよ」
ダイスケもフライドポテトを同じように一本口に放り込むと、唇を窄めてゆっくり口先から出し始め、くぐもった声で「時間が逆転」と言った。
「もう汚いなぁやめてよね」
ミカは呆れ顔で言った。
「さぁそろそろ語っちゃおうかな〜」
トオルは体を傾けて右足をあげて足を組むとテーブル肘をついて語り始めた。
「あの夏の出来事は一生忘れない。喉の渇きと、熱中症気味でやっと辿りついた自動販売機。氷をガリガリすることが好きな俺はカップの自販機を見つけた時、狂喜乱舞した。
それでな、財布見たらさ、小銭がギリギリあったんだよ。あとは一万札しかないのよ。
一杯のカップコーラを求め、震える手で小銭を入れてよぅ。俺は押したんだよ!押しのコーラのボタンをさぁ!押したんだよ‼︎
そしたらな、カップの自販機って見えるだろ、
注がれているシーンがよぅ。あの待ち時間が好きなんだ。喉がよぅゴクリとなるあの『待て!』をされている時間。あの時、うちで飼っているチャウチャウのメリーちゃんを思い出すな。『待て!』ってあんな待ち遠しいって心境なんだと。
でなっ!そこから始まるんだ摩訶不思議な時間がよぅ。あの光景は絶対忘れられない。
俺は屈んで、『待て!』しながら見ていたら何が起こったと思う。まずよ、カップが出て来ないで氷が出てきたんだよ。バラバラってさぁ。その上にコーラが注がれたんだ。一瞬で、え!え!え!何!何!何!ってパニクっていたら最後に氷の上にカップが乗っかったんだよ。
おい‼︎逆転してるじゃ〜んって思ってよぅ。
仕方なくカップ取り出して、微妙にコーラ味になった氷を入れて哀しく食べたって話なんだけど、どう思う?」
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