《夢儚散文16 世界》
続き
静寂と暗黒の世界を私は彷徨い歩いた。
始めは恐る恐る手探りをしながら、足先で道を確かめ闇のなかを五感を研ぎ澄まして歩んだ。しかし、ここはいくら歩き進めてもただ真っ平らだった。私はヤケクソになって、思いっきり叫びながら走ったりもしたが、何も躓かないし、坂道も無いし、手に触れるものは何も無かった。
不思議なことにどのくらい時間が経ってもお腹は空かないし、トイレもしたくならず、歳をとることも無かった。
何も無いただ平らな黒い世界。
唯一在るものはなんだろうと考えたとき、私の心だけがあるような気がした。
立ち止まり、「白い世界での私の心」と「黒い世界での私の心」。白と黒のイメージを連想してみた。
「純粋、無垢、神聖、清潔、始まり…、恐怖、孤独、無、死…」
対極的な世界を思った。
今、私が作り出している印象の世界。
「幸と不幸も、善と悪も、光と影も、自由と不自由も、完全と不完全も…」
そんな思索に耽っていると、ここにいる「私の感じている世界」もひとつの幻想であると言う疑念が生まれ、その気づきは私を高揚させた。
「ならば幻想の上に幻想を描いてみよう。
思い込みには思い込みでね」
暗闇に画材道具が散らばった。
私はがむしゃらに筆を掴み取り、パレットに様々な色の絵の具を片っ端から絞り出して描き始めた。
大きな木、カラフルな鳥達、海、白いフクロウ、黒蛇、そして私と私。
それらがこの世界に絵描かれると友達が増えたような気がして、生きる勇気が湧いてきた。
私は口笛を吹きながら、彼らと相談しながら描き続けていると、暗闇が耳元で囁いた。
「世界が少し賑やかになってきたね」
私はそれを聞いて、
「黒の下地もまんざらじゃ無いね」
と言って笑った。
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