私がつくるニットのお洋服をご紹介します【muuc 2024AWコレクションより】
ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、ファッションアートの衣装制作をしたり、最近は海外ブランドのデザイナーを務めたりと、あくせく活動をしたりしています。
風が冷たくなり、だんだんと秋冬物のお洋服が必要な時期になってきましたね。私はファッションデザインの中でも特に「ニット」を得意としており、自社ブランドでは毛糸を作るところからデザインして、さまざまなニット製品をお作りしています。
ありがたいことに、例年この時期は大変忙しく走り回っております。
さて、いわゆる「セーター」と呼ばれるものでも、素材やデザインによって表情が大きく変わるのがニットの魅力のひとつ。そこで今回は、主に私のブランドの今シーズン新作ニットをご紹介しながら、改めて私が普段どのようなお洋服を作っているのかお話ししてみようと思います。
少し長く、専門的な話にもなりますが、ご興味ある方はぜひご覧ください。
※なお、以下で触れる各アイテムは、オンラインストアからもご購入いただけます。各商品のリンクもご案内していますので、併せてご利用くださいませ。
1. 花柄ジャカートニット
muucオリジナルのジャカード編みによるアイテムです。時代が移り変わっても、美しく。時代や年代が変わっても愛される、ヴィンテージ服にもなれるような花柄ジャカード柄を意識してデザインしました。
こちらはベストとカーディガンの2型で展開しています。
前身頃では、希少な天然モヘアとシルクを掛け合わせた高級糸を採用しています。ツヤのある質感、柄には立体感が生まれ、とても表情が豊かなニットになっています。
この糸の繊維は細くしなやか。それゆえ光沢感と発色性に特に優れています。さらに、一般的なモヘアは芯糸に化学繊維をつかうことが多いですが、芯糸にも贅沢にシルクをつかうことで、さらなるやわらかさと程よい光沢が生まれます。後ろ身頃にも、上質で柔らかい高品質なウール100%の糸を使用しました。
色はレッドとグレーの2色展開。
グレーは、シルク糸による柄の立体感が、いっそう際立ちます。さまざまなシーンやスタイルにも合わせやすいように、シックな色合いになるようデザインしました。
ヴィンテージのような懐かしい風合いを目指したレッドは、葉部分にあえて段染め糸をつかうことで、色が重なり合う美しさを強調しました。一般的にはシンプルなリブ編みが用いられることの多い袖先や裾先にも模様編みを施し、ディテールにもこだわりました。
軽くてふんわりやわらかい着心地で、チクチクすることもありません。
ベストは前身頃の着丈が短めなので、ハイウエストのスカートやボトムスと合わせるとスッキリしたシルエットにすることができます。また、本来はベストとの相性はあまり良くないワンピースの上から着ても膨らまず、とてもカッコ良く着ることができます。
カーディガンはmuucの定番的な形&シルエット。ボタンをしめるとプルオーバーのような見せ方で着られることも、この形の大きな魅力です。前のボタンを閉めたときの柄合わせが美しく、とてもステキに着られます。
いろいろなスタイリングで差し色&差し柄になってくれる、上質な普段着として、日々大活躍してくれると思います。
2. リーフ模様・アルパカシルクモヘヤのニット
華やかさと上品さを兼ね備えた美しいリーフ模様編みを施したニット。カーディガンとプルオーバーの2型展開です。
素材は、南アフリカのキッドモヘア、ペルーのアルパカ、オーストラリアのウールを合わせて起毛加工した、毛足感のある、やわらかい風合いが魅力的な高級毛糸を使っています。
アルパカモヘヤ糸に、さらにシルクモヘヤ糸を1本引き揃えて編むことにより上品な光沢もプラスされ、よりふわっとした質感に仕上げました。高級ウール糸にも引けを取らないほど「軽い」「暖かい」「毛玉になりにくい」「チクチクしない」というきわめて高い機能を誇るうえに、「発色が良い」というとても大きな魅力をも備えた糸です。
素材が軽く柔らかいため、ゆったり、ふんわりの着心地ですが、着合わせをしやすいようコンパクトなシルエットにしています。ボトムスにインしてもスッキリ着られます。
色は、鮮やかで跳ねるようなネオンピンクと、光沢感のあるライトグレーの2色展開。
鮮やかなピンクは、やわらかな質感や精巧な編み地の美しさが際立ち、奇抜さも全くなく高級感が漂う印象です。デニムパンツなどカジュアルなボトムスとの相性も良く、どんなスタイリングで合わせても良い差し色になってくれるでしょう。
ライトグレーは光沢があり、シルバーグレーと呼びたくなるような美しさ。普段使いもしやすいです。
カーディガンのボタンは、ボディに合わせて製品染めしたシェルボタンを採用するなど、ディテールにもこだわりました。
3. ケーブルパッチワーク・ウールカシミヤのニット
カシミヤ混のシェットランドウール地によるケーブル編みのニットです。形はベーシックなプルオーバーセーターと、襟元にファスナーのディテールが入ったベスト、そしてファスナーの付いたニットブルゾンの3型展開です。
柄の模様には、技法の異なる5種類の編み方(ダイヤ・葉っぱ・枝・縄・縄レース)を、パッチワーク風にデザインしています。どこか懐かしく、やさしい雰囲気とモードで大人な表情とを併せ持ったニットに仕上がりました。
弾力性や耐久性があるシェットランドウールに、軽くて保温性が高くツヤ感もあるカシミヤをブレンドした糸を使用し、それぞれの特徴を活かして編み上げることで、軽く暖かい、ふっくら&もっちりの質感が実現しました。バルキーな風合いながら、気持ちの良い肌ざわりです。
「シェットランドウール」というと、硬くてゴワつきチクチクするというイメージを持つ方もいるかもしれませんが、こちらのニットは、やわらかくしなやかでチクチクしないと、すべて真逆です。
色はブルー・ベージュ・ブラウン・ネイビーの4色展開です。
プルオーバーは、ゆったりした着心地ながら、腕周りはスッキリ見えるようにデザインしています。華やかな模様編みですが、カジュアルすぎたり、着ぶくれして見えることもありません。
ベストは、アームホールが広くて腕を動かしやすく、袖にボリュームがあるインナーとも違和感なく合わせていただけます。しっかりした生地なので、首元を立ち上げてもカッコ良いです。
ブルゾンは、着丈を短めにすることで、コンパクトなニットジャケットになるようデザインしました。カーディガンとして、ショートジャケットとして、幅広くご活用頂けます。上質でしっかりとしたウールニットで、東京ぐらいの気候であれば真冬以外は十分アウター使いもできると思います。
4. ウォッシャブル・エクストラファインメリノウールのニット
ブランドの定番的なトップス兼インナーニットプルオーバーです。今季24AWは、シンプルなタートルネックタイプに加えて、首元・袖先・裾先に模様編みが入るハイネックニットをお作りしました。
糸は、イタリア・ビエラスタイルのレシピに基づき作られた、エクストラファインメリノを採用しています。ふっくらとしつつもつるっとした表面が特徴の糸で編まれていて、肌触りはとてもやさしく、ほど良い光沢もあり高級感があります。
色はホワイト・グレー・グレイッシュブラウンの3色展開です。グレイッシュブラウンは、チャコールグレーがほんのりブラウンがかっているような色味です。ホワイトは生成りで、グレーもややブルーみがあり、それぞれ定番色ベースでありつつもその独特な色味が魅力的です。
もともと、ブラウスやワンピースの下に着るインナーニットを想定して作っているので、まるでコットンニットのようなつるっとした爽やかな質感で、もちろんチクチクは一切なく、安心して素肌に合わせて頂けます。
一方で、上質感のある生地に身頃のしなやかなシルエット、また模様編みのディテールなどで、これ自体を一枚着の薄手のトップスにしていただいても素敵に着られます。
ベーシックアイテムかつご家庭で洗えるウォッシャブルニットでもあるので、秋から春先まで長く活躍してくれます。(洗濯機をご使用の場合は、洗濯ネットに入れて手洗いコースで優しくお洗濯ください。)
5. 「ジャパンウールプロジェクト」国産羊毛を使った畦編みニット
『ジャパンウールプロジェクト※』から生まれた、貴重な国産のウール糸を使い製作したニットです。
※ジャパンウールプロジェクトについて
20年ほど前までは日本でもウール糸の製造が行われていましたが、海外からの安価な輸入品が使われるようになり、国内工場の閉鎖などから国産羊毛を活用できずに廃棄処分されてしまう状況が長く続いていました。国産羊毛の廃棄問題や輸入に伴うエネルギー負荷の観点から、今改めて「国産ウールを復活させよう」という取り組みが始まっています。それが「ジャパンウールプロジェクト」です。私たちのブランドもこの取り組みの一部に参加しています。
ただ、もともと食用として飼われている国産の羊は、ヨーロッパやオセアニア産の「毛糸になるために飼われている羊」による毛糸とは、特長が異なるため、ニットデザインに気をつかいました。
国産羊毛の良さを引き出し、かつ荒さをしっかりカバーして良質なニット製品にしなければならない。ここはニットの専門家の腕の見せどころです。国産羊毛の特徴でもあるコシの強さを残しつつ、近年好まれる傾向にある"柔らかいニット"に仕上げるために、オーストラリアのメリノウールを70%ほど糸に混ぜる調整をしました。また、老舗のニット工場によるリンキングという技法によって縫製しています。高い技術を要し、非常に手間もかかりますが、ニットの魅力を最大限引き出す方法です。
ここまで上記でご紹介してきたシリーズの糸はいずれも高級糸で、やわらかく軽く気持ち良い特長をもった毛糸でしたが、ジャパンウールは国産羊毛の持つ性質的にバルキーでコシの強さを感じます。
ただ、このバルキーな質感こそが、かえってヴィンテージニットで見られるような、素朴で凜とした雰囲気を携えます。この素材感に合わせ、ベースはシンプルな畦編みにし、衿や裾にさりげなく模様編みを入れることで上品な印象を演出しています。シルエットがしっかり出るので、カジュアルになりすぎずビジネスシーンでもスタイルよく着ていただけます。
色はオフホワイト・ベージュ・ライトグレー・チャコールグレーの4色展開、形はシンプルなセーターとベストの2型展開です。
デザインポイントのレザータグは、取り付け作業を就労支援事業所に依頼するなど、就労支援の活動にも繋げています。
手間暇もコストもかかりますが、国産羊毛の文化を未来につなげるためにも、なるべく多くの方に手に取っていただけるよう価格をギリギリまで抑えました。
ジャパンウールプロジェクトについては、ぜひ今後の展開も含めて注目していただきたいです。
▼最後までお読みいただき、ありがとうございます。
20年前に、専門学校:文化服装学院で初めてニットデザインに触れた時、何かが弾けたような感覚がありました。布とは違う自由さ、無限の可能性に魅了されて…そこから今に至るまで、ずっと夢中になってニットの制作に携わっています。
日本各地にて、ポップアップショップなど行っておりますので、もしもタイミングが合えば是非実物をご覧いただければ幸いです。
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