原価率65%の国産ブランド「CARL VON LINNÉ」はこうして始まった
ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、国内生産を応援し合うことを目指すファッションブランド『CARL VON LINNÉ』のデザイナーをしたりしています。
※stand.fm で音声配信しています。
今回は、サスティナブルブランド『CARL VON LINNÉ』について、立ち上げ時のちょっとした裏話と、ブランドに込めた想いや大切にしていることなどお話ししていきます。
「みんなで着られる服を作りたい」から始まった
「CARL VON LINNÉ」は、芸人・YouTuberの中田敦彦さんがオーナーとして活動しているサスティナブルアパレルブランドです。最近は奥さまの福田萌さんもこのプロジェクトに参画されています。
中田敦彦さんは、以前「幸福洗脳」というファッションブランドをやっていて、その当時、私も幸福洗脳のお洋服を作るお手伝いをしていました。そのご縁もあって、今CARL VON LINNÉのデザインを担当しているという経緯があります。
幸福洗脳はその名前が示す通り、どちらかというと尖ったブランドで、幅広い方に着てもらえるお洋服ではありません。そんな背景もあり、中田さんの「もっと優しくてみんなが着やすいお洋服を作ってみたい」というひと言から、このプロジェクトは始まりました。
プレゼン前日に提案書を白紙に戻し…
最初は「みんなで着られる服」というコンセプトだけが決まっていた状態だったので、私は、どのようなお洋服を作るのか、全体的な方向性も含めてイチから考えていくイメージで取り組んでいきました。
プロジェクトが本格化してから初めての打ち合わせ。中田さんに向けてプレゼンする機会をいただきました。
プレゼンに向けて、「みんなで着られる服」というイメージに合うように、流行なども踏まえてどんなお洋服を提案しようかいろいろ考えていたんですが、打ち合わせの前日、ちょっと思うことがあって、それまで作っていた提案資料を全部捨て、新しいコンセプトを提案しようと決めたんですよね。
そのコンセプトとは、「アパレルが抱えている問題に向き合っていくブランドを作る」というものでした。
業界の課題を解決するブランド作りとは
アバレル業界は、本当にさまざまな問題を抱えています。例えば、大量廃棄の問題。お洋服って大量に作れば相当コストが安くなるんです。だったら最初から捨てることを前提にたくさん作ったほうが良いとなる。結果、洋服の大量廃棄に繋がるんです。
これは以前から議論されていて、最近ではアパレルが大量廃棄すると税金がかかるようになった国もあったりするほど、社会的な問題になっていました。
そして、捨てちゃうぐらいなら安く売ろうということで、セールもどんどん行われる形になるので、物の価値も壊れていく。そんな傾向にありました。
別の側面から見ると、製造に関わる労働者の低賃金問題というものもあります。海外ですごく劣悪な状況で商品を作っていることが発覚したりだとか、国内でも、例えばすごく手間のかかるものを気付くとほとんどボランティアぐらいの工賃でやっていたみたいなことになっているケースも少なくありません。
私も、昔はよく自分の手を使って物作りとかもしていて、世界的に有名なブランドさんも含めて、いろいろな依頼が来ていました。でも、「これ作ると時給100円ぐらいしかならなくない?」みたいな話も結構あって。ただ、これは販売している先の販売店さんとかデザイナーさんに悪気は全くなく起こってしまっていたりもします。同じアパレル業界にいても、企画販売と製造では見ている世界が違うので、しょうがないことでもあるのかもしれません。
さらに、環境への負荷の問題もあります。アパレルって世界的にも大きな産業なので、すごくたくさんのエネルギーを使うんですよね。水だったり、原料だったり、ものづくりによる環境汚染というものもやっぱり指摘される部分ではあります。
CARL VON LINNÉ 一回目のミーティングでは、そういったさまざまなアパレルの問題に向き合うブランドを作りませんか、というプレゼンをさせていただきました。しかし、私はあまり話すのが得意ではないので、すごく拙い説明になってしまっていたと思います。
でも、中田さんはそんな私の話も親身に聞いてくれて、受け止めてくれました。だったらその問題に向き合ってブランドを作りましょう!って言ってくれて、そこからCARL VON LINNÉのブランドコンセプトが固まり、動き出していきました。
CARL VON LINNÉが大切にしている3つのこと
そんな風にスタートしたCARL VON LINNÉですが、ブランドとして大切にしていることとして、「国内生産」、「予約販売」、「高原価率」の3つがあります。
国内生産
国内の工場さんと応援し合えるようなブランドになろうということが1つ。洋服のタグを見てもわかる通り、日本製って書かれている洋服ってほとんど世の中に出回っていないんですよ。国内生産の洋服って、現在物流の中に流れている商品の2〜3%以下と言われているんですね。だから、一般の消費者も、日本製のお洋服の良さがよくわからないし、もちろん着たこともなくて知らないものは、買い物をするときの選択肢にも選ばれないわけですよね。
ですが、実際に日本製の生地は海外でもすごく評価されているところもあって、例えば海外の高級ブランドが日本の生地を使うということはよくある話です。
CARL VON LINNÉで、お洋服を作っている方の姿を見せたり、商品の良さを知ってもらうことで、こういった産業が日本にもちゃんとあるんだということだったり、日本の優れた技術を伝えて、お客様もそれを身に着けて応援するというような流れになればいいなという狙いもあります。
予約販売
また、大量廃棄をなくし、無駄な環境汚染やエネルギーを使わずに済むように、予約販売をするということ。例えば、次の夏コレクションは4月に予約を受け付け、7月にお届けというようなイメージで動いています。予約販売によって自分たちの在庫リスクも減るし、お買い求めしやすい値段で販売できる可能性がうまれるかもしれない。という狙いがあります。
高原価率
さらに、高原価率。一般的には30%程度と言われる原価率を、CARL VON LINNÉでは異例の65%まで引き上げました。予約販売であることに加え、店舗やオフィスも持っていないこと、知名度があり影響力の強い中田さんがオーナーであるということから、販売や広報にかかるコストが一般的なブランドほどはかからないだろうと考えました。
良い商品をなるべくお求めやすい価格で販売することが実現し、「みんなが着られる服」により近づけることができたのかなと思います。
正直ビジネスとしては大きな利益を生むことは難しいブランドにはなりますが、社会的な意義のある活動として長く続けられたらいいなと思っています。
お洋服を作るだけでなく想いを伝える努力も続けたい
私自身、これまで自分のブランドや、企業さんのブランドのデザイン・企画に携わってきました。CARL VON LINNÉに関わってから新たに得た気づきも本当にたくさんありました。原則予約販売しかできないし、できるだけ良いものを安く売るというすごく難しいことに挑戦しているブランドで、一般的なビジネスやファッションブランドのセオリーが全く使えない難しさを感じながらも、やりがいのある仕事だと思っています。
私は、良いお洋服を作るということはもちろん、こういった形で少しでも多くの人にこの活動を伝えていくことも大事だろうと思い、今回はブランドの成り立ちや大切にしていることをお話ししてみました。
それでは、本日はここまで。
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