村松啓市、仕事を語る。
「インタビューを受けるのは苦手」だという村松さんに、今回は「仕事」に関する思いを語っていただく、という企画を提案してみました。すると意外にもOKが出ました。その背景にあったのは「伝える」ということを大切にしていこうという、村松さんの決心でした。
こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回は村松さんご本人のインタビューです。テーマは「仕事」についてです。
■新しいものに飢えている
−−−こんにちは。
村松:こんにちは(笑)
−−−苦手ですよね、自分のことを「語る」のは。
村松:苦手です(笑)でも頑張って答えますよ。
−−仕事は楽しいですか?
村松:楽しいです(笑)悩んでいることはたくさんありますけど、不満はないです。
−−−満足?
村松:んー、好きなんですよね、仕事が。今の僕の仕事は主に2つで、自分のブランド「everlasting sprout」や「AND WOOL」のように、自分の表現が自由にできる創作と、外部企業などからのオファーでおこなう依頼に合わせた創作です。どちらも大好きなんです。自由な創作では、工場さんや制作チームの良さを引き出しながら、自分らしいアプローチができますし、オファーの仕事は、一人では思いつかないようなアイデアや感覚を勉強することができます。どちらも刺激的で自分を成長させてくれます。
−−−じゃあやっぱり、満足?
村松:まあ、そうですね(笑)ただ、常にチャレンジしたいとは思っています。
−−−新しいことをやり続けたい?
村松:もちろん、そうです。やりたいこと、実現したいことがたくさんあるので、少しずつ叶えていきたいと思っています。そのためには、必然的に新しいことに挑戦し続けることになるでしょう。ある種の危機感みたいなのを いつも感じているのかも知れません。
−−−今、少し面白くなくなってきている?
村松:そんなことはないです。ただ、少し叶えていくと仲間が集まってきてくれて、力を貸してくれる。たくさんの人が各々もっている良い面を出してくれる。そして、みんなで夢を叶えていくのは、とても楽しいし、新しい挑戦も面白いです。せっかくなのでたくさん挑戦して、いろんな壁をも壊していきたいと思っています。
■ジャンルの違う人からも学んで吸収する
−−−壁を壊したい?
村松:そうです。世間や業界や自分自身の中で「当たり前」になっていることを、良いことにつながるなら、どんどん壊していきたいと思っています。
−−−壁を壊すことは怖くない?
村松:怖くないです。僕は「将来デザイナーになれるだろうな」なんてところからは、程遠いところから出発しているので、「何もないところからデザイナー活動を始めた」という気持ちが強いんです。だから、常識云々に関しても、あまりとらわれていないのかもしれません。
−−−仕事に向き合う上で、影響を受けた人や尊敬している人はいますか?
村松:誰に対しても「この人はずごい!」と思ってしまうようなところはあります(笑)どんな人からでも学ぶところがあれば、とにかくそれを吸収しちゃえってなりますね。ジャンルを問わず。
−−−例えば、どんなジャンルの方ですか?
村松:糸職人さんや染色の職人さん、近所でお茶を作っているお茶屋さん、野菜を育てている農家さん……みんなとても刺激をくれて、たくさんのことを吸収させてもらっています。だから僕、静岡にいるんですよ。ここでしかできないことを、自分は今できていると思います。
−−−田舎の職人さんや農家さんとも仕事をしながら、都内の最先端のファッションブランドの仕事も請け負っていますよね?
村松:はい。ありがたいことにいろんなお仕事をさせていただいています。企業さんや、仲間のデザイナーたちが、私がやろうとしていることに力を貸してくれるのは本当にありがたいです。オリエンタルラジオの中田敦彦さんのブランド「幸福洗脳」のニットも作っていますよ。
−−−制作依頼がきたとき迷いませんでしたか?
村松:全然!関われてうれしいと思いました。お手伝いしながら勉強もできちゃうなと思ったので、一石二鳥だと(笑)
−−−村松さんと中田さんは全然違うタイプですよね?
村松:わからないです(笑)でもきっと、僕の考えていることと中田さんの考えていることって、そんなに遠くないと思います。いつも学ばせてもらっています。とても中田さんの考えには共感する部分が多いです。
■「ボーダレス」になんでもやる
−−−中田さんに一番共感するところはどこですか?
村松:お人柄を直接たくさん知っているわけではないですが、泥臭く努力して結果を出そうという「姿勢」みたいなものはとても好きです。
−−−村松さんもそうですか?
村松:僕、多分「ボーダレス」にしたいんですよ。つまり、さっき言った「壁を壊したい」っていう話です。人から「自分らしくない」と言ってもらえるようなことを、どんどんやらざるを得なくても頑張ってやっています。
−−−それはなぜですか?
村松:これも、さっきの話につながるんですけど、そういうことをしないと「新しいものが生まれない」と思っているし、多分、みんなにとって良い環境を作れることにつながるような気がしています。「ある種の危機感」と言ったのはそれです。だから、静岡の職人さんや農家さんと協力したり、クラウドファンディングをやってみたり、中田さんの「幸福洗脳」のニットを作ったり。在宅ワークの雇用を生む取り組みを広げようという活動の一環として、就労継続支援B型施設の方に、ニット制作を手伝っていただいたりもしています。
−−−「ボーダレス」になんでもやる……確かに中田さんもそうですね。
村松:多分、自分や、自分の周りや、社会だったりに良いと思うことをやりたいんだと思います。
■「ブランドイメージ」を守ることも大切
−−−壁を壊すと言っても、ブランドイメージは大事ですよね?
村松:もちろんです。
−−−ご自身のブランドのイメージで一番大切にしていることは?
村松:言葉にするのが難しいですが、何よりも「自分らしさ」でしょうか。僕の個人的な感覚ですが「ウェット感」や「上品さ」みたいな感覚も、僕のブランドに関しては重要だと思っています。
−−−そのイメージは守りたい?
村松:ブランドはお客様やショップの皆様に支えれているので、期待して下さっている方たちを裏切るわけにはいきません。ただ、基本的に僕は世の中のいろんなことが好きだったり、やりたいことがたくさんある?せいで、イメージ戦略を後回しにしてしまうことのほうが多いのかなぁ。。。だから、ブランドのイメージをいい意味で固めるために、これから頑張っていこうと、最近思っていたところでした。
■「伝えること」に手を抜かない
−−−ブランドイメージを固めるために必要だと思うことはなんですか?
村松:「伝えること」です。
−−−「作品」で表現するのではなく「言葉」で?
村松:「作品」で伝えることが一番大事ですが、「言葉」で伝えることも同じく大事です。
−−−村松さんは言葉で伝えることは得意ですか?
村松:苦手です! そもそも、人とコミュニケーションをとるのが苦手なので。学生の頃にデザイナーという職業に憧れたのも、そういう一面があったからかもしれません。現実は、デザイナーだからこそ初対面の人にプレゼンする機会が多く、人とコミュニケーションをとらなければならないことばかりだということを、後から知ったのですが(笑)
−−−アーティストやクリエイターも言葉で伝えることが必要?
村松:どうでしょうね……難しい質問です。僕は今、言葉で伝えることが自分には必要だと思っているのですが。創作されたものを見た人に、言葉で伝えること以上に何かが伝わったり、理解が深まったり、共感が生まれたり……創作する人の考えや背景を受け取る人に自由にイメージしてもらえたり、そういう世の中であってほしいなとは思っています。
−−−その上で「言葉」で伝えることが必要だと思っている?
村松:ほとんど言葉で説明しなくても、感覚的に通じちゃったり、理解してくれちゃう人って、ときどきいるんですよね。でもそこに甘えちゃいけないなぁと。世の中はそういう人ばかりではないので。
−−−だから今回のインタビュー企画もOKした?
村松:そうですね(笑)伝えたいという気持ちが強いからだと思います。「伝えること」をもっともっとやらないといけないと感じていますので。
−−−最後に「伝えたいこと」で言い残したことは?
村松:たくさんの方に支えられて、力を貸してもらって活動しています。たくさんの人に感謝しています。そして、僕たちの活動を待って下っている方たちに、いろんなことを届けたいと思っています。いろんなことが準備中で、 たくさんの方を待たせてしまっておりますが、もう少しだけお待ちください。
−−−ありがとうございました。
村松:ありがとうございました。いやー、ドキドキします(笑)
(聞き手:カミュ)
*お知らせ*
5月26日(日)、普段は静岡で活動されている村松さんが、東京蔵前駅近くのギャラリーで、「AND WOOL」商品の展示イベントを開催します。入場無料、全商品試着OK、写真撮影OKです。ぜひお越しください。