1本の糸から始まる物語。学生起業を選びファッションショー開催するまで
ファッションデザイナーの村松です。ファッションブランドの『muuc』や、ニット文化を広げるプロジェクト『AND WOOL』を運営したり、サスティナブルブランド『CARL VON LINNÉ』のデザイナーをしたりしています。
今回は、私が運営しているブランド「muuc(ムーク)」の前身となるブランド「everlasting sprout(エバーラスティング・スプラウト)」の立ち上げから、初期のころに取り組んでいたことなどについてお話ししたいと思います。
※stand.fm で音声配信しています。
就職ではなく起業という道を選択
私がファッションブランドを立ち上げたのは、2004年の春。当時は私もまだ学生で、同級生の仲間と共に始めたのが「muuc(ムーク)」の前身となるブランド「everlasting sprout(エバーラスティング・スプラウト)」でした。
私は、文化服装学院という学校を卒業して、イタリアで1年間留学して、帰国後に自分のブランドを作ったわけなんですが、まず、お金も知名度もないし社会も知らない自分が、なぜデザイナーとしてどこかに勤めるのではなく起業をしたのかについて、少しお話ししたいと思います。
私は学生のころから「ニットデザインができる」という特殊能力を持っていて、学生時代や留学時に、東京コレクションのブランドだったり、パリコレクションに出展しているブランドのお手伝いをさせてもらった経験もあります。ブランド運営やファッションビジネスは、どこか身近な存在になっていました。
自分がファッションデザイナーとして存在しているということだったり、自分のデザインの可能性を追求して、一般のお客様はもちろん、企業の方たちにも知っていただくためには、自分のブランドを作るのが一番だと思ったんです。あとは、やっぱり憧れというものもありましたね。
そんなわけで、同級生の仲間とともに、私含め3人でこのブランドを立ち上げました。
当時は私はディレクターという立場で、すごく才能のあるデザイナーと、すごく貴重面で洋服の研究を怠らないようなパタンナーと一緒にチームを組んで活動していました。
ニットだけのファッションショーを開催
ブランドを立ち上げたのは、私がイタリアから帰国して、もう一度日本で学生をやっていたときのことです。私が通っていたのは、今では文化服装学院の大学院大学(文化ファッション大学院大学)となっている、服飾専門学校のマスターズクラスのようなところで、学生はおのおの自分で研究テーマを設け、そのテーマに向けて1年間研究をするみたいなシステムだったんですね。
そこで私は「ファッションブランドを起業する」を研究テーマに、活動を始めました。
最初の大きなプロジェクトは、2004年の秋、ニットだけのファッションショーをするというものでした。ファッションの業界でいうと、2005年の春夏のコレクションを発表するという形です。
正直どうしていいかわからないことも多かったけど、当時の私は、通常はそんな簡単に参加できない東京コレクションに学生の身分にもかかわらず参加させていただいたり、イタリアでも評価していただいていろいろなブランドからお声がけしてもらったこともあったので、自分の強みはニットだと、本当に自信を持って、怖いもの知らずに乗り込んでいったみたいな、そんな形でしたね。
さらに、私が通っていた学校には、コンピューターで制御された自動編み機があって、学生は自由に使える環境だったんですね。誰も使ってない時間に自動編み機で洋服を作って、そのまま販売しちゃえばいいかな、みたいなそんな思いもありました。
ニット製品は生産リスクも少ない
自分のファッションブランドを持ちたいと思う方や学生さんたちの参考にもなればと思って少し脱線するんですけど、そもそもニットって糸から製品を作るんですね。その糸は1kgの単位から購入することが可能です。
糸1kgを買うと、だいたいセーターが4、5枚作れます。つまり、4、5枚の単位でニットの服が作れるので、在庫リスクが少ないということです。
さらに、糸の場合、仮にちょっと余ったところで編み方を変えたり、違う糸と組み合わせて全く違う表情の服を作ることもできます。
一方、布を使うとなると、20年くらい前は一反という単位でしか生地を購入できませんでした。一反って50mくらいあるんです。例えば、1着のシャツに2mくらいの布を使うとしたら、25着シャツを作らないといけない。25着単位で作らないといけないから、30着のオーダーが来ても、50着作らないといけなくて、20着残っちゃうみたいな、そういったことが起こりがちです。
私は、本当に売れるかどうかもわからない自分のブランドの服を作るっていうときに、生地で洋服を作るのはリスクが高すぎて危険だなと思ったので、ニットだけのコレクションにするっていうような、そんなイメージでした。
「永遠に芽生える」ブランド名に込めた想い
当時のブランド名は、1本の糸から洋服が生まれるストーリーが始まるみたいなイメージで、「永遠に芽生える」という意味の「everlasting sprout(エバーラスティング・スプラウト)」という名前を付けました。
ニットは、1本の糸から作るループが重なり合って生地の面積を作っていくというような仕組みになっています。
また当時から私のデザインコンセプトの1つで、自然が生み出す有機的なフォルムや質感と、生地や洋服が融合していくイメージをずっと頭の中に持っていました。
ニットそのもののイメージと、私のデザインコンセプトとが、everlasting sproutという言葉のイメージとぴったり合う。あとは単純に、当時は長い名前がかっこいいみたいな思いもありましたね(笑)。
また当時は、ちょうどインターネットも普及し始めたころで、検索したら絶対に出てくる名前がいいのではないかとも思いました。
ですが実際、everlasting sproutって言葉も長いし、覚えづらいし、英語の表記もどう書くのかわからなくなりがちな言葉じゃないですか。たしかに検索したら一発で出てくるけど、そもそも検索しづらいですよね。
さらに、SNSでのタグ付けもしづらい。昔はSNSもありませんから、まさかタグ付け機能みたいなことが必要になってくるとは思っていなかったので。ブランドを続けていくうちに、そういった細かな問題は出てきましたね。
でも、everlasting sproutという名前は、私にとっては本当に最高のイメージで、素敵な名前だったなと今でも思っています。
1本の糸から始まる物語
そんなeverlasting sproutは、1本の糸からストーリーが始まるというコンセプトのもと、一瞬先にファンタジーな世界が広がっていくんじゃないかみたいな、そんなイメージで服を作っていました。かなりアバンギャルドなお洋服でしたし、本当にお洋服好きのためのお洋服っていうような感じでしたね。
なので、当時は日本の洋服屋では全然売れなくて、最初に売れたのは海外のショップだったり、デザイナーさんたちに服が売れたみたいな、そんなスタートでした。
ブランドの立ち上げの時の苦労話だったり、海外と日本の違いなどは、また追ってお話できればいいなと思っております。
それでは、本日はここまで。