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TRPGはHPが減るほど攻撃力が減った方が面白い

追記

TRPGを愛する皆様のおかげで記事が結構伸びていて、多くの方から「ネクロニカ」のシステムってこれだ、という感想がよせられております。
じつはわたしネクロニカ遊んだことなくて……
学生だから新しいルールブックを買うお金なくて……
どこかに親切なTRPGあしながおじさんいないかな……


要約

GPTくんいつもありがとう!!!!!

この記事では、ニカイドウレンジ氏のツイートをきっかけに、「HPが減少するほど攻撃力が低下するシステム」とその逆の「HPが減少するほど攻撃力が増加するシステム」の利点と欠点が議論されています。

要約すると、筆者はTRPGにおいて「HPが減少するほど攻撃力が低下するシステム」が優れていると主張しています。その理由として、以下の2点が挙げられます:

  1. プレイヤー全員の平等な参加機会の確保: HPが減少すると攻撃力が低下することで、ボスが特定のプレイヤーに集中攻撃することを防ぎ、すべてのプレイヤーが最後までゲームに参加できる機会が保たれる。

  2. ボス戦の緊張感の維持: ボス戦が後半になるにつれてボスが相対的に強化され、プレイヤーに持続的な緊張感を与えることができる。

また、TRPG『シノビガミ』を例に挙げ、HPが減少するほど攻撃力が低下するシステムが、ゲームデザイン上どのように機能しているかを説明しています。このシステムにより、プレイヤーが戦線から離脱せずに最後まで参加できるため、ゲームの緊張感と楽しさが維持されると結論づけています。


文脈

先日、ニカイドウレンジさんのツイートが話題になった。

ツリーにあるように、このツイートの射程範囲は、

・特に世界設定やキャラ設定などに特色がない、一般的な設定のゲーム 
・一般的なRPGあるいは一般的なアクションゲームを想定 -
・仕様的には「HPの残りパーセンテージが攻撃力にかけ算される」というイメージ。(HPが6割だったら攻撃力が0.6倍になる)

上記の3点であり、電子RPGを念頭に置いている。しかし、ツイッター上では非電源ゲーム、TRPGの界隈でも議論が盛り上がった。

当該ツイートには数千件の引用RT、返信がついているので、そのすべてを紹介することはできない。ここでは筆者が独自にまとめる。

・最初の攻撃で戦闘の大勢が決してしまい、消化試合が頻発する
・プレイヤーが不利になればなるほど状況が悪化し、逆転ができない
・後半ほど盛り上がりに欠け、尻すぼみになっていく
・プレイヤーに極端に消極的な戦術を強いる

一方で、ニカイドウ氏があげたシステム(以下 減少弱体システム)の反対、すなわち、「HPが減るほど攻撃力が増える」システム(以下 減少強化システム)は、逆転のチャンスを増やすものとして肯定的な評価が多い。たとえば、たいたい竹流氏の以下のツイートはその典型である。

筆者は本稿で、彼ら彼女らと正反対の立場を示す。TRPGはHPが減るほど攻撃力が下がった方が面白い。その理由として、以下の2点があげられる。

① プレイ参加機会の平等な確保

② ボス戦の緊張感の維持

①は、ゲームに参加しているプレイヤーにはなるべく等しく、なるべく多い活躍の機会が与えられる方が良い、という価値観に、②は、ボス戦の勝敗は早期に予測できない方が良い、という価値観に由来している。しかし、①と②はゲームデザインの上では、双方向的に結びつく。

本稿は、冒険企画局のTRPG『シノビガミ』を「HPが減るほど攻撃力が低下する」TRPGの傑作として紹介し、論をすすめる。

なお、知らない人向けに説明すると、『シノビガミ』は、HPが減少するほど、攻撃および回避、そしてサポート技能の判定が困難になっていく。プレイヤー協力シナリオと、対立シナリオが存在し、どちらも同じデータでプレイするシステムである。GMの操作するボス敵は「HPが減少しても弱体化しない」が、プレイヤーの操作するキャラクターは弱体化する、という差異があることを記憶にとどめていてほしい。


①プレイ参加機会の平等な確保


一人のプレイヤーが複数のキャラクターを操作する電子RPGと異なり、多くのTRPGは一人のプレイヤーが単独のキャラクターを操作する。そのため、ターン制のTRPGにおいては、すべてのプレイヤーがゲームを楽しむために、すべてのキャラクターが等しく行動の機会を与えられなければならない。

減少弱体でもなく、減少強化でもない、HPと攻撃力が関連しないシステムのことを考える。
この場合、ボスがプレイヤーの戦力を低下させるためには、次の3つの方法を取るしかすべがない。

  • α キャラクターを戦闘不能にし、プレイヤーたちの手数を減らす。

  • β 状態異常を駆使し、キャラクターの能力を低下させる。

  • γ キャラクターのリソースを枯渇させ、行動不能にする。

βは、状態異常はゲームデザインではなく、レベルデザインの領域に属するという問題がある。敵を強化するために場当たり的に状態異常を設定した結果、特定のビルドが一撃で機能不全に陥るなどの問題を引き起こす。

α、γ は、「そのキャラクターを操作するプレイヤーが途中でゲームから脱落し、仲間外れになる」という結果を招く。これはTRPGにおいてもっとも避けなければならない事態である。

しかも、このゲームシステムの下では、ボスは「一人のプレイヤーを集中攻撃して手数を減らす」戦略がほとんどの場合で最適解になる。それどころか、集中攻撃以外にプレイヤー側が弱体化する要素がない。結果として、ボスが集中攻撃を行う(か、HPが減少するほどに自己強化するか)しない限り、戦闘開始時に以降の戦況が確定し、緊張感がなくなってしまう

一方で、減少弱体システムであれば、ボスはプレイヤーの戦力を低下させるために、キャラクターに分散的に攻撃を行うようになる。その結果、集中攻撃が減り、特定のプレイヤーが早期脱落する展開を避けやすくなる。他方、このシステムの下では、「半殺し」のまま満足に行動できないプレイヤーが生まれてしまう。その点をシノビガミは「感情修正」や「奥義」、「遁甲符」といった判定不要で味方をサポートできるシステムの存在でカバーしている。また、シノビガミにはプロットシステムが存在し、プレイヤー側の戦線離脱が比較的容易である。そのため、HPが減少したキャラクターは後方に離脱し、支援に徹しやすい。ボス敵も、わざわざ弱体化して逃げたキャラクターに追撃を加えるより、戦線にいるキャラクターを攻撃の的を変更する、という戦略に至りやすい。

PvPの場合はこの特徴がいっそう顕著になる。「複数 VS 複数」の対人戦を想定したとき、もし、「HPが減っても攻撃力が低下しない」システムであれば、一人に狙いを絞って集中砲火し相手陣営の手数を減らす、戦略がより多くの場合で最適解となる。もちろん、最初に倒されてしまったプレイヤーは大いに退屈になる。HPと共に攻撃力が減少するからこそ、分散的な攻撃が有効になるのだ。

万が一、減少強化システムを採用してしまった場合はこのメリットが全て反転する。

ボスは「中途半端にプレイヤーを攻撃すると、戦力が減少するどころか強化され、ボス撃破が後半ほど容易になってしまう」ので、一つのキャラクターへの集中攻撃を突き詰めてしまう。PvPも同様である。

また、回復役キャラクターに複雑な判断が集中する、という点でも望ましくない。

電子RPGは、一人のプレイヤーに全キャラクターの行動の選択権と責任が集中する。しかし、TRPGはそうではない。回復役のプレイヤーと攻撃役のプレイヤーが、「回復する代わりに攻撃力バフを失うか。回復せず攻撃力バフを継続させるか」をめぐって意見が対立し、結果として回復役が存在意義を失いかねない事態は容易に起こりえる。

②ボス戦の緊張感の維持

「最初のラウンドが一番難しくて、その後は難易度が下り坂になる」ボス戦は、羊頭狗肉、竜頭蛇尾、肩透かしの印象を与えるため、避けたいものだ。ボス戦は、できれば上り坂、最低でも平坦な道の必要がある。つまり、後半戦に従ってボスは味方よりも「相対的に」強化されていくべきだ。

そのため、以下の4通りのいずれかが採用される。

  1. 味方が強くなり、ボスは味方以上に強くなる。

  2. 味方は強くならない。ボスは強くなる。

  3. ボスは弱くなり、味方はボス以上に弱くなる。

  4. ボスは弱くならない。味方は弱くなる。

この中で、「①プレイ参加機会の平等な確保」を満たせるのは、3か4だけである。理論上、この二つはまったくどちらでもよいのだが、TRPGのゲームバランスは「味方がほぼ確実に勝てる」方が望ましい。すると、最初から味方に比べて戦力の劣っているボスが一方的に弱体化してしまう可能性があるため、3は採用されず、4が採用されている、と理論化できる。3よりも4の方が処理が軽い、という影響も大きい。

①の繰り返しになるが、減少強化システムでは、ボス側がプレイヤーを各個撃破しない限り、難易度は下り坂に落ちていく。確かにこのシステムでは、HPを極限まで減少させたキャラクターが脱落するかどうかの段階で大きな緊張感が生じうる。だが、もしその段階でキャラクターが脱落してしまうと、「もっとも戦力の高い状態」のキャラクターが脱落してしまうのだから、「もっとも戦力の低い状態」のキャラクターが脱落する減少弱体システムより、遥かに戦力の低下幅が著しくなってしまう。この急速な谷のせいで、一人でもキャラクターが脱落した時点で、プレイヤー側の敗北に一気に傾きすぎるため、望ましくないといえる。

筆者は「TRPGのボス敵は、プレイヤーを倒すために全力で行動すべきだ」と主張したいわけではない。むしろ、プレイヤーに適切な緊張感を適度に与えるためにこそ、集中砲火以外の選択肢をボス敵がとれる減少弱体システムの方がふさわしいと考えている

補論

BローズやガープスといったTRPGシステムが、初撃全力決着型になってしまったのは、ボス側にも減少弱体システムが採用されていたからと考えられる。前述の通り、TRPGの戦闘はプレイヤー有利からスタートするので、その天秤を余計に傾ける結果になったのだろう。

補論2

「HPが減少するほどプレイヤーは不利に追い込まれている」という前提はまず疑った方がよい。HPは単にボス撃破のデッドラインを示すものであり、究極的にはカウントダウンタイマーと同じである。そして、敵から受けるダメージと回復の差分を計算すれば、戦闘開始直後にデッドラインは計算できる。HPが減ることで悪影響が生じなければ、プレイヤーは不利に追い込まれていない。たとえば電子RPG『ドラゴンクエスト』の高レベル戦闘では、敵に殺されてはザオリクで復活させるという展開が続くが、それは、ザオリクによって生き返った味方はそのラウンド行動できない(=手数が減る)こと、復活した仲間にかけたバフが消滅すること、などで押し込まれる展開が発生するから不利なのである。行動不能にならないHPの減少は不利状況ではない、裏を返せば、行動不能にしなければ不利状況は作れない。

補論3

ところで、世の中には敵側にだけ減少弱体システムが採用され、プレイヤーは戦闘ラウンドを経過するたびにバフが充実するため、後半戦にしたがってプレイヤーが一方的に有利になっていくなんとか2.5というシステムがあるんですがなんとかなりませんかねと神戸方面に向けて鳴いておきます


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