援助交際/銀杏BOYZ
もうエモにロックにポップにいろんな方向からあらぬ方向までこすられにこすられたこの曲だが、やはり色褪せない名曲というものである。何を隠そう僕が歌詞というものにはじめて注目したのがこの曲なのである。
「あの娘を愛するためだけに、あぁ、僕は生まれてきたの あの娘を幸せにするためだけに、あぁ、僕は生まれてきたの」と始まるように、主人公は「あの娘」のことが大好きで、「自転車の変速を1番重くして」、スピードを上げて力一杯自転車を漕いでしまうほど恋焦がれているのである(このあたりの純情さはお分かりであろう。)。だが、主人公は「悲しい噂を聞い」てしまう。「あの娘が淫乱だ」という噂である。サビに「あの娘はどこかの誰かと援助交際」とあるように、きっとクラスメイトや「あの娘」の事情も知らないなんの関係もない人が"なぁ、あいつ援交やってるらしいぜ!エロ女だな!"などと笑いながら伝えたのであろうか。それを聞いた主人公は「世界が滅びてしまう」と言うほど落ち込んでしまう。しかし恋をしているので簡単に忘れられるはずもなく、夜になってもまだあの子のことを考えている。2番のサビ前では「ヴィトン、ブルガリ、グッチ、エルメス ティファニー、プラダ、シャネル、カルティエ 僕が全部買ってあげるから」と来る。主人公はきっと「あの娘」にも事情があるのだと察したのであろう。恋焦がれた娘がなんの意味もなく援助交際をする淫乱だとは信じたくないものである。家庭の事情ややむを得ない事情ではなく、物欲ゆえであることから考え出すのが少年らしい純朴な歌詞だと言える。と同時に、もし欲しいものがあるのなら(到底不可能なブランドものばかりであるが)自分が買ってやるから、頼むからそんなことはしないでくれと切に願う主人公の気持ち、なんの役にも立てないただ純情な自分の悔しさ、さまざまな気持ちが伝わってくる。その後、サビを挟んで1番と同じように「僕の愛がどうか届きますように」と祈ったあと、「どうか幸せでいておくれ」と続く。少し前に悔しさや無力さが描かれたのにまだどうか幸せでいておくれと祈る、主人公はいいヤツなのである。
「援助交際」というストレートで不穏なワードには到底知る由もない深い世界がある。そのことを想像もできない主人公の未熟さ、若さも一緒に歌い上げた名曲だろう。しかし、まだ「悲しい噂を聞いた」だけなので、リスナーとしてはできることなら「あの娘」は援助交際などしておらず、ただの悪い噂であることを願いたい。
この曲は中学生や高校生といった未熟な若さの曲ではあるが、きっと密かに恋焦がれる「あの娘」がいながらもオドオドと何も出来ないうちにどこの馬の骨かもわからない男に「あの娘」を取られた大人も共感し、涙できるのではないだろうか。