白球との巡り合い



出会いは突然だった。

「清峰高校の先発ピッチャーは今大会注目の今村猛です。」

淡々と実況が選手紹介を始めていく。
作り置きされていたお昼ご飯を食べながら何となくテレビを眺めていた。



当時の自分は中学受験を控えていたが予備校に自ら電話をしてサボっていた。理由は理系担当のギャル女講師が自分に異常に厳しく周りの連中には甘やかすというムーブが嫌いだったからだ。


だからその時の暇つぶし、いや現実逃避として片っ端からやってるテレビを垂れ流していた。
ザッピングをしているとちょうど試合開始の整列の場面だった。
時間帯的にも昼のバラエティ番組が終わって見るものがなかったからという理由だった。


そんな間を埋めるための手段として利用するつもりだった118分間。
小学五年生の男子は今日に至るまでの16年間、野球沼に浸かることになる。


プロ野球のことはそれなりに見ていたが季節の風物詩である高校野球は全く触れていなかった。


強いて挙げるとするなら名勝負数え歌に入る夏の甲子園決勝、
「早稲田実業 対 駒大苫小牧」は二戦ともテレビで見ていた。
しかしこれも夏休みにやっていたアニメの再放送が終わり、時間を持て余していたからという理由だった。

だが満員のスタンドから送られる拍手、炎天下の中青いハンカチで汗を拭うエース、相手を見下しながら大きく振りかぶるエースの映像は脳内再生できるほど刻まれていた。


その夏以来に見た試合が第81回選抜甲子園準々決勝「清峰高校 対 箕島高校」。

帽子のつばを折り曲げ、半袖姿の青年は涼しい顔をしながら捕手が構えたミットめがけて投げこんでいく。
当時としては珍しい足腰を深く落とさない立ち投げのようなフォームから140km/h台を超えるストレートと、小気味よく曲がるスライダーを外角低めに制球しマウンドで躍動した。


結果的に8回を投げ10奪三振。
26イニング無失点と3試合連続の二桁奪三振を記録し、高校野球ファンにインパクトを残した。


しかしこの記録のことなんて小学生の自分は知らない。後から調べて分かったことだ。

ただ「すげぇ…大人じゃないのにこんな人がいるんだ」と大人ではない、“お兄ちゃん“と呼べるほどの青年が魅せた強烈な姿は、アマチュア野球に興味を持つには十分だった。


この試合を皮切りに私のアマチュア野球への好奇心は加速していく。
今思えばこの年代からのめり込んだのはとても幸せだったと思う程にスターが揃っていた。


自分を沼に引き摺り込むきっかけを作った
清峰の今村 猛
(元広島東洋カープ)

花巻東の菊池 雄星
(西武-ブルージェイズ)

明豊の今宮 健太
(ソフトバンク)

横浜高校の筒香 嘉智
(横浜Dena-SFジャイアンツ他)

西条高校の秋山 拓己
(阪神タイガース)

中京大中京の堂林 翔太
(広島東洋カープ)

常葉橘高校の庄司 隼人
(元広島東洋カープ)

智弁和歌山の岡田 俊哉
(中日ドラゴンズ)

といった数多くのプロで活躍する選手が、同じ時を過ごし銀傘の元で白球を追いかけていた。だから2009年の高校野球に強い思い入れがある。


あの時の暇つぶしがなければ野球が趣味になっていなかったかもしれない。
出会いは突然やってくるとは言うがおもむろにリモコンを押した時に映った背番号1で今の野球好きの自分がいる。



2009年3月30日。
それは僕にとって一生を遂げるまで寄り添う趣味に出会った日。




おわり


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