【校正校閲コラム】スポーツ漫画で確認すべきポイント
◯はじめに
スポーツ漫画の校正校閲は独特です。特に試合時においてチェックすべき箇所が多数あり、隅々まで意識するには経験と事前に気をつけるべき箇所への心構えがないと見落としが発生します。
経験を積むには、実務がたまたま振られるまでは無理ですが(自主的に既存のスポーツ漫画でチェック練習してみる、とかは別)、気をつけるべき箇所は今すぐにでも伝えられます。
いきなりお鉢が回ってきた時に困らないよう今回の記事を残したいと思います。
スポーツ毎に表現の形は違えども大まかな気をつけるべきチェック箇所は共通しているので流用できる部分を以下羅列します。
本題:【スポーツ漫画の校正校閲をする時に押さえるべき6つのポイント】
◾️背番号
多人数スポーツでは付きものなやつです。
【登場人物がコマに登場するシーンは全てその人の番号がその人のものであるかをチェック】します。全部です。最初合ってるから以降も合ってるだろうなどという甘えはダメです。
どんなベテランの漫画家さん(もしかしたらアシスタントさんの仕事の可能性もある)でも100ページに1箇所は間違えている可能性がありますし、実際間違えてます。
試合ともなるとコマに映るキャラの回数がかなりの量になるため、勘違いや凡ミスが起きる可能性があります。基本的に合ってるからこそ警戒せねばいけない箇所です。
なのでとても大変ですが全部チェックマークつけましょう。
髪型が似てるキャラ、ヘルメットを被っていて判別が付かないキャラなどは次項以降の話にもなりますがポジション・位置関係を見て『そこに居てもおかしくない』かどうかでチェックしましょう。そいつがそこに居てもおかしくないのならそれはOK(許容)です。
◾️ポジション・打順
多人数スポーツでは付いて回るもの。それがポジションです。ラグビーやサッカー、バスケなどはポジションに固有の名前が付いています。
そのポジション名が合っているかどうか。
アドリブの動き以外で、右側に居るべきポジションの人が左側に居ないかどうか。
一番よくあるのはプロフィール的なチェックです。
【例】SH(スクラムハーフ)の○○くん
登場人物メモに誰がどのポジションかを書き加えておくと、たまーに急にポジションの単語がポンと出てきた時にその1単語の確認のために既刊をひっくり返さなくてよくなります。その際は略称のアルファベットにルビを振ってメモしておくのを忘れずに。
時折、話数の間や単行本の裏やそでの部分に登場人物のプロフィールメモみたいなものが書かれていたらそれもメモしておくと何かの役に立つこともあります。
◾️動きの中の位置関係
スポーツなので位置関係は動きの中で都度変化します。
その変化の中で描かれるキャラの位置が変ではないかどうか。こちらも合わせてチェックします。
【例】A君とB君がボールを巡って攻防を繰り返している中、走り上がってきたC君にA君がパスを出したがC君の動きを察知していたD君がパスをカットした。
この時、前後コマに描写された人物の位置関係からそれが無理のない動きと配置なのかチェックする。
こういうやつです。たまに伏線なしで登場人物がフィールド上をワープしてたりします。キャラを取り違えているだけの場合もあります。その場合前項の話になりますが位置関係は合ってても背番号だけ違うという場合もあります。
また、手や足の位置関係もチェックします。
前後コマから、次の動きとして不自然ではないかも見ます。手足がアップになるコマとか怖いです。
全身描写の中で振り上げる手足、その振り上げた手足のアップ、動作後の振り抜いた手足、という描写の中で左右が違っていないか。
後述の『道具の左右』と似たようなチェック箇所ですがこちらも確認が欠かせません。たまに逆になってますので。本当に。
◾️得点(スコア)
得点に関してはスポーツ毎にルールが違うので前提としてそこは各ルールを確認します。インターネットでもルールブックでも可。公式ルールがPDFで載っているものもあります。
【例】サッカーは1点ずつ、野球は場合によっては数点入ることもある、バスケはシュートの種類で変わる、ラグビーも得点の仕方によって点数が変わる、テニスは15点刻み、ボウリングはスペアとストライクで加算点がある、などなど……加えて何点取ったら1セットで何セット取ると勝ちとかもある。ゴルフだと打数表記になるので更に例外的になる。
問題はここからで、試合の展開の中で↓
「今スコアは何対何で、それは合っているか」
「スコアがプレイヤー名やチーム名と合致しているか」
「さっき入った点が正しい方にちゃんと加点されているか」
「加点点数がルールに基づいた適切な点数か」
これらが正しくなっているかどうかを【スコアが出てくるたびに毎回】確認します。
スコアボードとかドン!と出てくるとそれが全部合ってるか試合展開ひっくり返して確認します。もちろんのことながら。とても大変です。
ですが、ここが間違っていると大幅な加筆修正が発生しかねないのでとても気をつけなきゃいけない箇所です。
なお、試合展開の都合で描写はされないけど後から経過点数だけが出てきたりと省略される場合も多いです。その場合は、あり得る展開と得点であれば作者側で辻褄合っているものとしてスルーしてOKです。
逆に、途中を省略してもそれはあり得ないような点数がいきなり試合展開すっ飛ばして出てきた場合は指摘を入れます。
その指摘を入れるために『直前まで出てきたスコアからこのスコアになるためにはこういう事が起きないといけなく、それはおかしいため、現実ラインではこのくらいのスコアでないと不自然では?』などと指摘の根拠を書いて添えておきます。最後の適正スコア提案は蛇足ですが、疑義の補強として書いておくと妥当であれば採用されて著者の訂正時間短縮に繋がります。
大切な物語展開と点数に関することなので疑義を呈するのであればそれ相応の具体的な理由がなければ指摘は出せません。そのためにチェックを欠かさないようにしましょう。
◾️道具の右左
野球のバット、ゴルフのクラブ、テニス・卓球のラケットなど、道具を使う系のスポーツでは『持っている手』へのチェックも欠かせません。
特に『左利き』のキャラが出てきたら要注意。他のキャラと逆に描かなければいけないので描いている側も回数を重ねるうちにミスが出ることがあります。いやまあ右利きキャラでもミスは出ますけれど。アクロバティックな体勢とかは要注意です。
また、持ち手も注意が必要です。バットやラケット、竹刀など両手で持つものに対して左手が下で右手が上だったらそれが持ち替えを挟まない描写の中で矛盾していないかも見ます。
道具の範疇と思いここに書きますが、サポーターやリストバンド系の装飾具のようなものも要注意です。
【例】過去に左膝を怪我して、左膝にだけサポーターを付けたキャラが出てきた時にそのキャラが毎回ちゃんと左膝にサポーターを付けているかどうか。
みたいなやつです。あるべきものが描かれてなかったり、逆側に描かれてたりする可能性が発生します。
この辺も登場人物メモに「このキャラは右のどこそこに○○を付けている」などと書いておくと脳のリソース節約になります。
◾️靴や服の色やデザイン
最後は、服飾に関してです。これに関しては試合だけにとどまらない範囲の話ですが、試合でももちろん見なければいけない箇所です。
ユニフォームに独特なデザインがあるならそれがちゃんと描かれているかどうか。
色が付いているべき箇所が抜けて白になっていないかどうか。
靴が基本的に黒色なのに白い時がないかどうか。
膝まであったブーツが脛辺りの高さに変わっていないかどうか。
非常に細かい部分になってくる+遠景であったりメインで描く人物以外省略したりと描写が省かれることもあるため、よほどハッキリとした差異でない限りは指摘しづらい箇所ではあります。
けれどその人物をその人物たらしめる格好に違和感がないように確認をします。
◯まとめ
不思議なことに、ミスがあっても人物としてそこに絵として描かれると「合っている」ように感じてしまいます。全体像のほとんどが合っていると、きっと脳内補正が掛かるのでしょう。
そのため、確認すべき箇所を別途意識して切り離して個別に見る"目"を用意しておかないと見落としが発生します。
スポーツ漫画、もし見る機会がありましたらこちらを思い出していただければ幸いです。