【校正校閲コラム】同音異義語のチェックは難しい

日本語には読み方は同じでも漢字が違うと意味が変わってくるものが多くあります。同音異義語というやつです。

限られた音の組み合わせ以上に多くの表現を可能にするのが、表意文字である漢字を利用した日本語の強みであり多彩さです。

ただ、そこには字と意味を取り違える罠も存在します。その罠を見破って撤去するのも校正校閲の仕事です。

全ての例を挙げることはできませんが、今回は同音異義語に関するいくつかのパターン例を挙げつつ実際に起こり得るミスを防ぐための注意点を記したいと思います。
では参ります。


○(例)「消失」と「焼失」
→同音だけれど意味は全然違うパターン。意味が違うので間違えにくいように思われますが、予測変換君が悪さしがちでたまに紛れ込んでます。

予測変換君が絡んでくる場合、書き手は無意識でミスるため自分ではチェックしきれないケースが多いです。

この字が出てきたら前後で『火』に関係している事柄がないか必ず確認しましょう。

火がないのに焼失はせず、火があるならば焼失の可能性があります。

たまに「燃えた結果なくなったので『消失』」というパターンもあります。立ち止まって確認したいポイントです。

他には「関節」と「間接」や、「確率」と「確立」、「無下」と「無碍」も同パターンとしてかなり見受けられます。


○ (例)「定石」と「定跡」
→かなりやばいパターン。音も同じで意味も同じなのに、将棋では「定跡」・囲碁では「定石」と、界隈で使い分けされる例。

その界隈用語を知らないと基本的に見分けは不可能なのでスルーしがちです。

このパターンの見極め方は一つ。『知ってるような単語もちゃんと辞書を引くこと』です。

思い込みや慢心が敵です。特に自分の知らない分野の内容の文章ならば念のためとしっかり立ち止まって確認しましょう。


○ (例)「歴」と「暦」
→音と字が似ているが意味が異なる、ミス率激高パターン。

"フィクション小説の「なんちゃら暦」は一級品の危ない箇所なので出てきたら絶対確認したい。"

特に見始めた小説の冒頭の箇所というのはまだ内容が頭に入ってないから何について気をつけるか固まりきっていないのもあって注意力散漫になりがちです。

「なんちゃら暦」の「なんちゃら」部分をメモするのは後から矛盾してるかのチェックのためにすべきことですが、同時に「暦」が「歴」になってないか必ず気をつけて下さい。

こういう同時に2つのことをチェックする時は片方が抜けがちです。


○ (例)「伺う」と「窺う」
→音は同じで意味も同じように見えるが違う頻出パターン。普段使わない漢字なのに文字にすると結構出てくるフレーズなのが罠です。

『様子をうかがう』と来たら2回に1回はミスってると思っていいです。

“様子を見る“のは『窺う』。“聞く・行く“の謙譲語は『伺う』。

目にする機会が多いからこそしっかり立ち止まって毎回確認しましょう。


○ (例)「粛正」と「粛清」
→迷うパターン1。字も意味も似てるけどちょっと違う同音異義語。

"厳しく取り締まる"までは一緒で、"不正を除き去る"のは『粛正』。"追放・処分"するのは『粛清』。

基本的に殺伐とした話なら後者が多いです。日常ほのぼの系な話で後者が出てきたら疑った方がいいです。


○ (例)「精算」と「清算」
→迷うパターン2。字面も意味も似ているようだけどよくよく考えたら違うやつです。

関係性の話なら「清算」1択で迷わないのですが、お金の話になるとどちらが妥当か少し悩みます。

"計算して、結果支払ったりする"場合は『精算』、"綺麗さっぱりゼロにする"場合は『清算』、くらいの意味合いで言い換えると判断しやすいです。

割り勘で支払う時は計算して払うので精算。借金を返し終わったりチャラになったりで0になったら清算、みたいな感じです。


○ (例)「鑑賞」と「観賞」
→意味が似ているのでそもそも使い分けの意識すらしてない人が多いパターン。

日常の罠とも言えるかもしれません。

"植物や風景を見る"のは『観賞』、映画や絵など人の手による芸術作品に対しては"鑑賞"を使います。

意識し始めない限りそもそも気をつけることができない危うさがあるパターンです。


■まとめ

このように、同音異義語にはざっくり

・字も意味も同じなのに界隈で使い分けがある
・字も意味も似ている
・字は似てないが意味は似ている
・字は似ているが意味は似ていない
・字も意味も似てないが予測変換君のせいでミスが起こりやすい

のようなパターンがあります。

これらを念頭に置いて確認していくことで罠を感知し、ミスを防ぐことができます。

見る側の人間がこれらを意識するためには、正直言って見逃したというミスを自身が重ねる体験も必要です。

フィードバックがもらえる場や2人目作業のように他の人の指摘を見られる場合は積極的に事例を学習していきましょう。

それでは皆様、ご安全に。お気をつけて。

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