見出し画像

加速する記憶

 朝7時、戦の時間だ。最寄りの小児科のウェブ予約が始まる。この戦いは熾烈を極める。ほんの数秒で午前の枠は消え去り、午後の枠までも次々と埋まる。

 めざましテレビは、戦場のバックグラウンドミュージックだ。流行スイーツや最新ファッションの紹介が終わると、紙兎ロペが始まる。

 いつものように笑いを誘う緩いネタ。しかし今日ばかりは笑っている場合ではない。6時53分、ロペが始まる前にログインを済ませる。そして、めざまし占いが始まる頃には、こちらの緊張感もピークに達する。

 めざまし占いで私の星座は10位。「今日は効率が悪く、動きが鈍くなる日」と警告され、内心焦る。ラッキーアイテムは「赤いアイテム」だ。ふと、机の上を見渡したところ、そこに転がっていたのは赤いガイアメモリだった。

 アクセルメモリ、それはかつて私が熱中した『仮面ライダーW』の変身アイテムだ。赤く透明なデザインと、スイッチを押すと流れる音声が最高にカッコいい。何気なく手に取った瞬間、「アクセル!」と音声が鳴り響き、過去の熱い思い出が蘇る。これだ、これしかない。占いが言う「鈍い動き」を打破するには、アクセルメモリを使うしかない!

 7時、決戦の時だ。スマホとアクセルメモリをしっかりと握り、無言で「変身」の気持ちを込める。「俺の心が……加速する!」と脳内で自分の決め台詞を呟きつつ、画面を素早く連続でタップ。画面が切り替わるのを確認したら、一気にスクロール。まるでバイクで疾走するかのようなスピード感だ。

 さあ、今日は何番だ。1番!完全勝利だ。占いの不吉な順位を跳ね返し、アクセルの力で見事な結果を掴み取った。子どもを無事に病院に連れて行けるという安心感の中、私はアクセルメモリをそっと机に戻す。

 ふと耳に残るのは、メモリの「アクセル!」という響き。友から譲り受けた加速の記憶。やはり、戦いにはこれが必要だと確信した。

いいなと思ったら応援しよう!