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家出PART6

 家出を始めて1日が経った。始発の時間まで歩いたので、行き先不明の放浪を再開する。心の奥底で、ノスタルジアの聖地、中野ブロードウェイを目指していた。あの場所に保管された誰かの思い出に触れてみたい。そんな衝動に駆られた。

 正月休みの中野サンモールを抜け、中野ブロードウェイに足を踏み入れる。その瞬間、視界が急に変わった。古びた建物の通路は、まるでゲームの3Dダンジョンのようだ。埃っぽい空気と薄暗い照明が、過去と現在の境界を曖昧にする。

 頭の中でスーパーファミコンの音楽が流れ始める。『真・女神転生』のような世界。無我夢中で画面に向かっていた自分がふと蘇る。この場所そのものが、時を超えたゲームの一部であるかのような不思議な感覚に包まれた。

ダンジョン:中野ブロードウェイ

 しかし、正月二日目の朝、開いている店はシャトレーゼぐらいしかない。階上で旅行ケースを引く人々を見て、遅かれ早かれ店は開くだろうと察した。しかしこの縁を受け入れ、待つことはしないと決めた。

 通路をゆっくり歩きながら、時計屋やコレクター向けショップの看板に目をやる。この場所が失われた昭和や平成の空気を留めたコレクションの宝庫であることをあらためて感じた。子どもの頃、デパートの屋上で遊んだ記憶が蘇る。どこか寂しげでありながら、なぜか心地よい。中野ブロードウェイの古びた雰囲気は、過ぎ去った時間とそこに刻まれた思い出が共存する時空間だった。

 次の目的地は北へ。見知った山奥へ向かうことにした。亡き親戚が住んでいた土地。この地を訪れるときはいつも、眩しいほどの晴天に恵まれた。その空の美しさが、私に与えてくれた温かさと重なる。

 死は、良きも悪きもすべてを洗い流す。道中どのように過ごそうとも、最後には肉体に刻まれた世代交代のプログラムに従い、この世を去る。人生がどのように転がっている最中でも。身体、環境、夢欲望といったテーマと闘おうと、受け入れようと、背を向けようと。

 その現実を再認識した。だから、あるがままでいい。喜びも苦しみも隣にいていい。迷路を抜けたので、現実を再び歩くことにした。

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