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過ぎ去った熱気

 ドラゴンクエストⅧは、機を逃してクリアできなかったゲームの一つだ。その主な原因は、友達と体験を共有できなかったことにある。

 ソフトが発売された頃、私は学校の勉強と部活動、アルバイトに追われていた。授業を終えたら部活、部活が終わればアルバイト。家に帰る頃には疲れ果て、夕食を食べながら眠ってしまう日々だった。そんな生活で、ゲームをじっくり楽しむ余力はなかった。

 学校では、友人たちがゲームの話題で持ちきりだった。サッカー部、陸上部、軽音部、帰宅部。誰もが夢中になっていた。昼休みには、「剣スキルを伸ばすべきか、槍スキルを伸ばすべきか」と真剣に相談し合い、放課後には「ボス強すぎるだろ!」と笑いながら盛り上がる声が絶えなかった。

 私はというと、そんな会話を横目に、「後で遊べば良いか」とどこかで楽観していた。忙しい生活でも満足していたし、あの熱気がいつまでも続くと思い込んでいたのだ。

 だが、結局、発売から数年後、誰かからソフトを借りて遊ぶことになった頃には、周りの熱気はもう消えていた。話題にする友人もおらず、不完全な情報をやり取りして試行錯誤する、あの醍醐味はもう味わえなかった。それがわかると、次第にゲームへの熱意も薄れ、途中で放置してしまった。物語の結末を知ることは、ついに叶わなかった。

 それでも今、ドラゴンクエストⅧのパッケージを見かけるたび、遊びたい気持ちが疼く。Android版があると知り、少し期待はしたが、だいぶ前に作られたようなので、上手く動くだろうか。そして何より、今の生活でゲームに集中する時間を捻出できるのか。

 やはり「できない」という事実に変わりはない。でも、それも含めて、心が少し温かくなる良い思い出だ。それだけで十分だ。

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