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素人解体屋の勲章

 左脚にあざがある。おそらく消えることはなく、むしろ、記憶が続く限り残ってほしいと願っている。

 このあざは、子どものゆりかご、バウンサーを片付けているときにできた傷だ。

 妻の母、義母が生前に贈ってくれたもので、残しておきたい気持ちもあった。しかし、やはり場所を取るということで、処分することになった。

 バウンサーは乳幼児が怪我をしないよう非常に頑丈な作りだが、そのままでは大きいので、燃えないゴミとして出せない。解体する必要がある。しかし、金属のフレームには溶接部分が見当たらず、どこから手を付ければよいのか迷った。素人解体屋として数々の家具をバラしてきたが、今回は一筋縄ではいかなかった。だが、一か所だけ、少し力を加えれば金属疲労を起こせそうなパイプの湾曲部分があった。

「よし、ここを狙おう。」
 渾身の力を込めて、その部分をゆっくりと曲げ始めた。少しずつたわむパイプに手応えを感じた瞬間、バウンサーが勢いよく跳ね返り、私の左脚に直撃した。痛みは一瞬だったが、肉が抉れ、青黒く変色していくのがわかった。

 その後、解体は無事成功し、バウンサーは処分できた。そして残ったのがこのあざだ。義母と子どもの思い出が詰まったあざであり、私が苦労して解体した「勲章」とも言える。

 だからこそ、いつまでもこのあざが治らず残ってほしいと願っている。

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