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Microsoft Plus!

 昔、WindowsにはMicrosoft Plus!という有料のパワーアップキットがあった。妙に魅力的だったのを覚えている。

 鮮やかな色合い、小気味良い効果音、そのすべてがエンターテイメントの華やかさを持っていた。特に印象に残っているのはWindows98用のスヌーピーのテーマ。パソコンがテレビになったかのような感動があった。

 またワインレッドのエレキギターが鳴り響くテーマ、謎の生命体と異質な空間が広がるテーマなど、小さな宇宙が画面の中に広がっていた。

パソコンを起動するたび、その世界に引き込まれる。今でも心の奥底にあるワクワク感を思い出す。

 そして付属していたスパイダーソリティアや体験版のゴルフゲームは、当時の私にとって特別なVIP体験だった。他の子どもたちは知らない、まるで大人のための秘密の遊び場のようだった。

 そして雑誌に付いてきたゲームの体験版。そのどれもが名作の雰囲気を纏っていて、たとえ1面だけしか遊べなくても充分に楽しめた。全てが目新しかったのだ。

 今のパソコンやスマートフォンでは、同じような楽しさを感じることは少ない。今のコンピュータはとても洗練されていて、故障を除き、使う上で想定外のことは滅多に起こらない。安定しているのは確かに良いことだが、反面、驚きや偶然の楽しみが少ない。
 急に多発するブルースクリーンや再起動。古いマッキントッシュのように、突然爆弾のアイコンが現れてシステムが停止する、そんな予測不能な瞬間にさえ、どこか懐かしい「手作り感」があった。あの時のコンピュータは、まるでびっくり箱のような存在だった。

 もちろん、現代のコンピュータは誰もが使うものだから、不便さや予期せぬエラーは排除されるべきだろう。それはユーザー体験を向上させるための当然の進化だ。でも、その過程で失われた何か。あの奇妙で、時には不便だったけれども、心を踊らせてくれた何か。それが今では少し寂しく感じる。きっと、予測できない驚きや、思わぬところで感じるワクワク感こそが、私たちがコンピュータに抱いていた夢だったのかもしれない。AIが新たなびっくり箱になってくれるだろうか。

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