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ドルフィン・パーク

 今日は待ちに待ったロックマンゼロ3の発売日だ。授業が終わるのが待ち遠しい。ゲームボーイアドバンスを鞄に詰め、下校途中に秋葉原へ寄り道すると決めていた。

 ソフトは何処かで買えるだろうと中央通りを歩き、予想通りソフマップで難なく購入できた。なんて格好良いパッケージだろう。早く妹に自慢したい、早く遊びたい。でも、道端で遊んでも集中できない。早く家に帰ろうと、足早に歩き始めた。確か、駅は向こうだ。

 そんな時、不思議な店の前で足を止めることになった。いや、正確には止めさせられたのだ。
「お急ぎのようですが、何かお探しですか?」
 少しか細い、澄んだ声が私を呼び止めた。振り返ると、海とイルカの絵が展示された小綺麗な画廊の入り口に、鼻筋の通った、長身で長いストレートヘアの大人の女性が立っていた。その洗練された雰囲気に、思わず身構えた。
「これは、あれだ。」

 私は人に話しかけられると断れない性格だ。先日も老齢の伝道師に「オメガのその後」について語られ、その先の展開をつい尋ねてしまった。今日こそはきっぱり断るぞ、と思いながらも、一歩下がる代わりに「駅を目指しているんです」と答えてしまった。

 女性は一瞬だけ私をじっと見つめた後、微笑んでこう言った。
「駅ならあちらですよ。」
 それだけだった。こちらが困っていると判断して道案内をしてくれたのだ。どうやら疑ったのはこちらの勘違いだったらしい。

 そのまま「ありがとうございます」とだけ言い、そそくさとその場を離れた。考えてみれば、学生服を着た子どもが困った素振りで歩いていたら、助けるのが大人というものだ。申し訳ない気持ちで家路を急ぐ。

 こうして、私は無事帰宅し、妹と交代でロックマンゼロ3を遊ぶことになるのだった。

 ただ、記憶が蘇って思う。あの時の女性は、本当に人助けがしたかったんだろうか。

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