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消せない記憶

 スーパーファミコンでは、一部のソフトが一万円を超えるほど高価だったが、ゲームソフト自体にセーブ機能が備わっていることが多かった。一方、初代プレイステーションでは、ゲームの途中経過を保存するためにメモリーカードが必須だった。しかも容量に限りがあり、泣く泣く古いデータを削除しなければならないことも少なくなかった。

 プレイステーションを代表する印象的なゲームの一つに「クラッシュ・バンディクー」がある。コミカルなキャラクターが登場する反面、その世界観やゲームの難易度はかなりハードだった。

 登場キャラクターの多くは改造手術を受け、精神的に問題を抱えている者も少なくない。難易度は典型的な洋ゲーらしく、プレイヤーは何度もゲームオーバーを繰り返しながら進め方を覚えていく作りだ。

 そんな過酷なゲームを、メモリーカード無しでクリアした友人がいた。彼は私とはゲームの趣味が少し異なっていて、「ディディーコングレーシング」や「バンジョーとカズーイ」といったレア社のゲームを好んで遊んでいた。なぜ彼がメモリーカードを持っていなかったのかは、いまだに謎だ。

 彼のプレイスタイルはシンプルそのもので、ゲームをクリアするまでプレイステーションの電源を一切切らないというものだった。リビングのテレビでゲームをしていたので、家族がリビングで過ごしている間、常にプレイステーションのディスクは回り続けていた。当時、彼のお母さんはゲームの長さやセーブの仕組みを十分に理解していなかったのかもしれない。

 今振り返ると、ファミコンやスーパーファミコンでも電源を切るとデータが消える可能性があったため、電源をつけっぱなしにすること自体は珍しいことではなかった。

 実際、「ファイナルファンタジーⅤ」のセーブデータが消えて煮え湯を飲まされた経験があるので、その気持ちはよく分かる。セーブデータの選択画面ではなくオープニングが始まると悲しみに包まれる。そう考えると、彼の方法も無茶なやり方ではなかったのだろう。

 しかし、もし彼が「ファイナルファンタジーⅦ」や「ドラゴンクエストⅦ」といった長編RPGに興味を持っていたら、さすがにこの方法は限界があったはずだ。幸い、彼はRPGに興味がなかったため、それが救いだったのかもしれない。

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