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異境の静寂

 冷たい風が吹き始め、コートに手を伸ばす季節も近い。ふと思い出すのは、ファンタジーの世界で荒涼とした辺境を旅する『ドラッケン』というゲームだ。フランス産の洋ゲーで、物寂しいフィールドBGMが旅の孤独を強調する。

 この世界では、主人公以外の人間の影はほとんど見えず、出会うのは神に造られたドラゴンの人、ドラッケンたち。城はあっても町はなく、ひたすら静寂が広がる。

 『ドラッケン』では人の命は驚くほど軽い。旅の途中で出会った罠で仲間が一瞬にして消え、思わぬタイミングで現れる強敵に何の前触れもなく全滅する。序盤なのに、星座や巨人、巨大な番犬、ドラゴンなど、伝説級の怪物から不意打ちを受けるとは、誰が想像するだろうか。

 その理不尽さは時に現実的に感じる。いつだって強敵が現れるのは突然で、こちらのことは待ってくれない。だから不思議と心に残る。

 ゲームバランスは荒削りだが、その独特な世界観に魅了される。敵キャラクターのデザインやセリフ、効果音が織りなす没入感に心を奪われ、疲れたときにはふとあの世界に戻りたくなる。現実を手元に置き、ただ孤独な旅を続けるもう一人の自分に、再び出会うために。

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