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点滅する赤ランプ

 空気が澄んだ冬の朝。窓から差し込む光に照らされたほこりが、部屋の中を漂っている。私は部屋の隅に座り、膝の上でお気に入りのブルーのゲームボーイカラーを握りしめながら、『ドラゴンクエストモンスターズ2』を夢中でプレイしていた。

 既にゲームはクリアしており、レアなモンスターを集めるやり込みの冒険に心を奪われていた。その時間は魔法のように楽しいひとときだった。

 昼頃になると、画面上の赤いランプが点滅を始めた。電池が切れそうな合図だ。それでも「あと少しだけ」と自分に言い聞かせ、手を止めることなく冒険を続けた。

 そして、モンスターを仲間にし、セーブをしようとしたその瞬間、画面がふっと暗転した。電池が完全に尽きたのだ。慌てて新しい電池に交換し、ゲームを起動してみたが、案の定、データは消えていた。

 喪失感や後悔の波が押し寄せた。しかし、その感情は引いていき、次第に「これで終わりでもいい」とさえ思い始めた。もう終わりのない冒険に少し疲れていたのかもしれない。それまでの充実感が心を満たし、満足感が勝ったのだ。

 子どもの時と変わらず、今でも私の生活では赤ランプが点滅することは多い。待ち合わせに遅刻しそうになったり、慌てて電車を間違えたり、締切直前になってようやく仕事を始めたり。そのたびに冷や汗をかいている。

 極限状態で得られる緊張感や達成感は否定しないが、望んでまで得たくはない。そろそろ、私の赤ランプは故障してしまいそうだ。あなたの赤ランプはどうだろうか。

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