
電子手帳の引力
妹が持っていたCASIOの子ども用電子手帳『カラーピッキートーク』。小さな両掌にちょうど収まるこの機械。フルカラーではない、ややくすんだディスプレイ。そこには、ポケットカメラと同じような引力があった。
後継機のスーパーピッキートークの方が高機能で人気だったが、妹が持っていたのはカラーピッキートークの方だ。この頃は兄妹で電子のモンスターや犬猫を育てるのに熱中していた。
管理が必要な予定は、子どもにはなかった。だから電子手帳は名ばかりで、ただただ弄り回して遊んでいた。なかでも私が気に入っていたのは、タッチ位置の調整機能だ。軟体動物のようなキャラクターに導かれ、スタイラスペンで指定されたポイントをタッチしていく。どれだけ正確に調整できるか試したり、逆にわざと外して盛大なズレを楽しんだりした。
定番の神経衰弱で動物たちと遊ぶこともできた。シンプルなゲームだが、この端末の持つ近未来感の魔力で、つい夢中になってしまう。また、顔のパーツを組み合わせて似顔絵を作る機能もあった。が、私は普通の顔には興味がなく、もっぱら変顔を作って遊んでいた。スーパーマリオ64でマリオの顔を引っ張り回したあの感覚に近い。
そして、ピッキートーク最大の特徴のひとつが、インターネット接続機能だった。音響カプラーを使い、電話の受話器を介して通信するという仕組みだ。
音響カプラのハイテクな響きに心は躍ったものの、実際にはほとんど使えなかった。電話料金がかかるため連続使用は禁止されていたし、接続の準備も面倒だった。
しかし、遅かれ早かれ、私はインターネットの世界にどっぷり浸かることになる。その光と闇を子ども時代に知らずに済んだのは、もしかしたら幸運だったのかもしれない。