蠱毒の戦い
小学生の頃、テレビ東京の「スーパーマリオスタジアム」で見た「ポケモン大会 出場者募集」の告知に胸を躍らせた。「出てみたい」という思いを抱えていたところ、母が応募してくれた。
「ポケモン大会に出られるって。」
後日、母は素っ気なく言った。嬉しさよりも先に、「当たることもあるんだな」と驚いた。その後、番組のアシスタントディレクターから電話があり、「どのポケモンで出場する?」と聞かれた。迷うことなく「リザードンです。」と答えた。後になって分かるが、参加者は100人以上いたので、選考には相当な労力がかかっていたのだと思う。
大会当日、初めて訪れたテレビ局は夢のような空間だった。大きなカメラや照明に囲まれたスタジオに圧倒されながら、控え室で順番を待った。そしていよいよ予選が始まると、大部屋に案内された。そこではたくさんの子どもたちが質素な椅子に座っていた。
予選はシンプルだった。隣に座った子どもと通信ケーブルで対戦し、敗者は部屋から退出する、という形式だった。リザードンを送り出し全力で挑んだが、相手はレベル100のミュウツーだった。ふぶきがリザードンを直撃し、一瞬で凍りつく。為すすべもなくリザードンは沈んだ。
ちょうど、父の書斎にあった諸星大二郎の『巫蠱』を読んだ後だった。胸の奥で「この大会はまるで蠱毒だ。」と感じた。
蠱毒は、毒のある生き物を壷など狭い場所で戦わせ、最後に生き残った最強の一匹を得るという古代の儀式だ。強者だけが勝ち残る、この大会の雰囲気と妙に重なった。
予選敗退した子どもたちは渡辺徹の後ろでギャラリーにされる。当人はテレビで見るよりも意外と小柄で、気さくそうな雰囲気だった。そして最後にアシスタントディレクターとのじゃんけん大会が始まった。勝者には通信ケーブルが配られたのだが、残念なことに負けてしまった。些細な戦利品を得ることすらできず、帰路に就いた。
しかし予選敗退こそしたものの、充実したイベントだった。四天王戦を繰り返し鍛えたリザードンと挑んだ予選、テレビ局の忙しない空気感、そして勝者にのみスポットライトが許された厳しい現実。その全てが鮮やかに記憶に残っている。
テレビを見ていたら、次の大会はチーム戦らしい。どのポケモンにするか、早速友達と吟味することにした。