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画面越しの現実世界

 古いPowerBookにはトラックボールが内蔵されていた。

 このトラックボールを操作すると、ゲーム中のボールがそっくりそのまま連動して動く。画面は白黒だったが、コンピュータと現実がリンクした、衝撃的な瞬間だった。

 動き出しはヌルっと重いが、ひとたび加速すれば摩擦や重力を振り払ったかのように、行き先にかっ飛ぶボール。トラックボールとOxydのボールは完全にリンクしていた。指先から伝わる微妙な力加減が、コンピュータの中にそのまま映し出されるので、夢中で操作した。

 OxydにはBGMが無く、ゲーム中は心地良い効果音が鳴り響く。涅槃のようなステージ開始音。甲高いアイテム取得音。ボールがミスして割れる音も爽快で、ゲームオーバーの音楽もユーモラスだ。シンプルな効果音だけが響くことで、まるで自分がその空間に入り込んだかのような感覚になる。現実はコンピュータの中にあったのだ。

 ただ、謎解きの難易度は高く、子供にはとてもクリアできるものではなかった。今なら攻略できるかもしれない。しかし、当時の私はクリアなんてどうでもよくて、ただボールとトラックボールが繋がって動くだけで良かった。

 今では小難しいことを考えてしまうが、あの頃はそれだけで十分だった。ゲームと現実、すなわち身体が繋がる本物の体験だ。あの奇跡が再び味わえる未来を、長らく待ち望んでいる。

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