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家出PART3
元旦に家を飛び出し、気が付けば数時間が経っていた。この数日は多少暖かいとはいえ、外で夜を越す覚悟はまだ無い。しかしどこかに外泊したら、かえって心が静まらない。誰とも顔を合わせず、ただひたすら孤独になりたかった。
いつの間にか、馴染みのある24時間営業のマクドナルドへ足を運んでいた。そこは、かつて友人と深夜まで朝まで生討論した場所だ。今は討論する相手がおらず、コーヒーを飲みながらぼんやりと店内や外の様子を眺めていた。
今日はHey! Say! JUMPのライブの日らしい。若い女性たちが店内を埋め尽くしている。応援うちわのような推し活グッズを片手に、数秒おきにスマホを操作している。Instagram、Twitter、LINE、TikTok。彼女たちの指先がこなす並列処理能力には感服せざるを得ない。自分にも少し分けてほしい。
ある女性たちは、夜行バスで福岡に帰るらしい。その姿から、数々の戦場を渡り歩いた猛者のような生命力が感じられる。寒い夜空の下でも、その熱量は凍てつく風を跳ね返す。
一方で、推し活とは無縁そうな学生たちも数名、店内の隅に座っていた。コーヒーやマックシェイクを片手に何かに集中している。ちらりと目に入ったのは「クエン酸回路」という文字だ。試験勉強だろうか。その真剣な表情が印象的だった。興味は湧くが、大人に突然話しかけられたら不審がるだろう。特にこのフリース姿では、怪しさ満点だ。
元旦の夜は無情だった。マクドナルドの営業時間は短縮されており、23時になると店を追い出されてしまった。外に出ると、寒さが容赦なく襲いかかる。風が肌を刺し、体が震え始める。吐く息が白く染まり、心の中までも凍り付いてしまう。
自分の姿を見下ろし、思わず苦笑いがこぼれた。「真冬の京都で野宿した時の方が寒かった。」帰らない決意を固めた。冷たい空気が肺に染みながら、足は自然と動き出していた。
街灯に照らされた濡れたアスファルトは、まるで光の筋を描きながらどこまでも続いているように見えた。「なんとかなるさ。」ポケットの中で凍えた手をぎゅっと握りしめた。