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家出PART2
家出をして、気が付いたら地元の町に居た。ゲームオーバーになったので、最後のセーブポイントに戻ったらしい。逃げた先は最も馴染みが深い場所だった。
住んでいた実家はもう無く、親戚は誰一人として住んでいない。だから私と町には、もう縁もゆかりも無い。しかし五感と町の輪郭が同期する感覚だけは変わらない。まだ、目をつぶっても歩ける。
しかし駅前には私の知らない、硝子と格子のお洒落なビルがこれでもかとニョキニョキ生えている。タワーマンションも空を覆い尽くすように立ち並び、地面と空の境界線がひっくり返っている。駅前商店街は原形をとどめているが、記憶の中の感覚とはだいぶ変わった。
ガラス張りのカフェや、照明がやけに暗い幾何学的なバーも増えた。そういえば神社までガラス張りになっている。祭壇の後ろから光が差し込み、神の存在が透けて見える。神聖というよりも、どこか冷たくて不安定な印象だ。
いっそのこと、町全体をガラス張りにしてしまうのはどうだろうか。だが喜ぶのは観光客だけだろう。住人同士は見たくないものが見えてしまうかもしれない。
町を歩きながら、一つずつ思い出を拾い上げていく。この道は、いつも友達と帰った通学路。角を曲がれば小さな駄菓子屋もあった。建物は残っているが、今も続いているのだろうか。元旦でお店が開いていない静けさが、答えを曖昧にした。
目を閉じると鮮やかに甦る。駄菓子屋から漂う甘い匂い、友人たちの笑い声。ゲームに夢中だったあの頃の情景が一瞬にして浮かぶ。ロックマンXのストーム・イーグリードを殺生できない和尚や、モンスターファームの育成に四苦八苦していた巨漢。行き止まりにぶつかっても塀を登れば抜けられた、自由な町だった。
ふと、視界に多くの外国人が目に入る。観光客だけではない、最近この町に住み始めた人たちもいるのだろう。この町の輪郭をハードウェアとするなら、かつての面影を残しているが、ソフトウェアはすっかり更新されている。
どこか見覚えがあるようで、どこか知らない場所。記憶の中にいる過去の彼らは、今もこの町にいるのだろうか。それとも、私もそうだが、ここから幻のように消えてしまったのだろうか。