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絆の没入

 没頭しすぎて現実を忘れる瞬間がある。気づけば時計の針は深夜を回り、翌朝に予定があることも忘れてコントローラーを握りしめていた。

 「ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁」は親子三代にわたる冒険を描いた物語だ。幼少期の主人公は父に守られながら旅をし、大人になると今度は家族を守りながら、守られながら、共に世界を救う旅を続ける。

 スーパーファミコンで発売され、リメイクされたPS2版では、会話システムが導入された。ゲームの楽しみ方が大きく広がったが、広がり過ぎてしまったのだ。

 仲間たちは旅先で出会う景色や出来事について、それぞれの個性を反映した意見をくれる。主人公の父を慕うサンチョは、在りし日の父や旅を懐かしげに語る。そういった膨大な数の感情に引き込まれると、まるで実在の仲間たちと旅をしているような錯覚に陥る。

 旅の途中で主人公は伴侶を選ぶ。ビアンカは快活だがしおらしい一面がある一方で、フローラは清楚に見えてしたたかさも併せ持つ。それぞれが見せる世界の彩りが違い、私はまるで二つの異なる物語を追体験しているような感覚を味わった。物語そのものは同じでも、そこから得られる印象はだいぶ変わるものだ。

 物語は出来事だけでなく、キャラクターの心情によっても形作られる。ゲームの中でも、人は人の機微を求めてしまうらしい。誰かの心情に思いを馳せることで、日常がより豊かに感じられるようになる。ドラゴンクエストⅤはそのことを教えてくれた。

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