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秘密の世界

 中学生の頃、友人宅に泊まったある夜のことだ。

 彼は押し入れからガンダムのプラモデルを取り出し、FAZZがついに完成した、と誇らしげに見せてくれた。高火力の武装と重厚なデザインが印象的で、その存在感に思わず引き込まれた。

 彼はプレイステーションのGジェネレーションFをやり込み、モビルスーツに驚くほど詳しくなっていた。物語ではなく、FAZZの格好良さに純粋に惹かれていたようだ。それがなんだか羨ましく思えた。

 少し照れたように彼は、母さんが厳しいから飾れないんだ、と言った。その一言には、彼の厳しい家庭の事情と、ちょっとした反発心が滲んでいた。

 夜遅くなると、彼は即席のカレーうどんを作ってくれた。塾から帰る夜は、こうやって自分で料理をするのが彼の日常なのだろう。その自由が詰まったカレーうどんの味わいは、妙に心に残っている。

 食後、彼とパソコンを開き、田代まさしとセフィロスのFlash動画を見た。あまりにもバカバカしくて、二人で大声を上げて笑い転げた。うるさい、と隣の部屋から母親の声が響いたとき、私たちは慌てて声を殺しながら、それでも肩を震わせて笑い続けた。

 あの夜、彼は他にも普段隠していた小さな世界をそっと見せてくれた。私も彼には同じように接していた。それが、心の底から笑い合えるような信頼感と、しがらみの無い自由な時間を生んでいたのだと思う。

 先日、彼が住んでいた家を訪ねたが、空き家となっていた。彼の今は分からないが、この思い出もまた、今も温かく胸の中に残っている。

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