通りすがりの魚屋さん【クリスマス特別編2020・偽りの天使と三人の巫女】 #パルプアドベントカレンダー2020
【警告:本文が約30,000文字あります】
(これまでのあらすじ)
迫るクリスマスに向けて牡蠣やロブスターの移動販売に力を入れていた魚売りであったが、何やら不穏な情報を耳にする。
第二新都心ノダチ区で治安部隊が市民を襲撃しているというのだ。
これはもしや……!?
――ノダチ区・市街地――
装甲保安ビークルがバリケードじみて通りを封鎖するように停められ、その周囲には黒服の機動治安部隊トルーパーらが警戒の目を光らせる。
その手には暴徒殲滅カスタムサブマシンガンや高圧電流刺又といった過剰キリングパワー武装が!何らかの邪悪なる暴力的弾圧が行われている事は明らかだ。
「見張りは四人……何とかさばける数ね」
ミニスカサンタ衣装の魚売りがアスファルトを滑るように疾駆!清水の如き蒼髪が風になびく。
「ルリャーッ!!」
彼女のラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウトと共に、何処からか銀色に輝く矢のような物体が複数飛来!鋭利な顎を持つ殺人サンマである!
「「グボボーッ!?」」治安トルーパー二人のタクティカル防備なき股間を破壊!即死!!
「秩序オラーッ!!」「殲滅コラーッ!!」
BATATATATA!!!!BATATATATA!!!!
残る二人の治安トルーパーが暴徒殲滅カスタムサブマシンガンを放つ!
だがその火線の上に魚売りの姿は無し、水飛沫と共に路面に超常の水面が浮かび上がる……「ルリャーッ!!」頭上!
魚売りは空中に現れた超自然水面を足場に跳躍、保安ビークルの屋根に飛び乗る!
それと同時に路面の超自然水面から巨大な眼を備えた生物の一部が現れると、長大な触腕が伸び治安トルーパーの首を絞める。ダイオウイカだ!
「「アバーッ!?」」鈍い音と共に治安トルーパー二人の頸椎粉砕!即死!!
魚売りは敵の増援がない事を確かめると、周囲をあらためた。
(やっぱり……!!)
装甲保安ビークルの車体前面には歪な桜にクロスドスの冒涜的エンブレム。公権力癒着暗黒搾取組織、ヤクザ・コーポのそれに相違なし。
BATATATATA……BATATATATA……!!
銃声が一際激しく聞こえる方角に目をやる。
「確か地図だと、あの方角には……」
その時。
……キュウウゥゥン……!
(何かしら、今の感覚)
魚売りはクリスマスリースじみた首飾りに手を触れた。
決して枯れない翠のツタに、黄金の種子。
――ノダチ区・ツナギ神社鳥居前――
BATATATATA!!!!
治安トルーパーの飽和攻撃に対し、住民はノダチ区有数かつ最古と言われる神社であるツナギ神社に退避。周囲をバリケード封鎖して籠城している。
この神社にはノダチ区がまだ海を目と鼻の先に臨む漁村だった時代、城を失い落ち延びた姫が身分を隠し一人の村娘と共に暮らしたという伝承があり、抱き合う乙女めいた二本の御神木は二人の生まれ変わりであると語られる。
そのような背景もあり、言わば最後の聖域と化しているツナギ神社への強行突入は未だ行われていない。
「強行突入許可は!」「まだだ」
暴徒殲滅カスタム回転弾倉クラスターグレネードランチャーを装備した治安トルーパー部隊長が突入許可を求めたが、無線越しに却下された。
だがバリケードの外側は依然戦場だ、銃弾が飛び交い逃げ遅れた無辜の市民が虐げられている!
何かを抱え逃げ惑う冬服姿の少女。だが小石に躓きよろめいた拍子にそれを落としてしまう……BL系薄い本だ!
「不健全コラーッ!!」「非生産的オラーッ!!」
高圧電流刺又を構えた治安トルーパー二人が向かってくる!刺又の柄には『健全な育成』『正しき摂理』等の威嚇的文言が見るも悍ましい書体で刻まれている。このままでは!
「ヒュアーッ!!」
謎めいたシャウトが響き渡ると、長大な荊が打ち付けられ治安トルーパーの体を地面に薙ぎ倒す!
「テメッ……」「執行妨害オラー……」治安トルーパーが暴徒殲滅カスタムサブマシンガンを構える。だが!
「「アバババーッ!?」」
治安トルーパー二人の足元から槍めいて鋭利な竹が高速で伸長!肉体を貫き動脈を、臓腑を、脊髄を引き裂く!即死!!
「大丈夫?」
地面にへたり込んでいる少女にそう呼び掛けたのは、緑のコートの上にポインセチアじみて紅いケープを羽織った常盤木の如き緑髪の女性。
「はい、何とか……あなたは一体?」
「私の事は……ダイヤモンドリリーとでも呼んで」
少女は一瞬困惑したようだが、すぐに立ち上がり口を開く。
「とにかくここは危ないです、神社に逃げましょう!」
少女と共に神社の境内へと走り出すダイヤモンドリリー……その時。
……ポロロォォオン……!
(まさか、この感覚は……)
ダイヤモンドリリーはクリスマスツリー装飾じみた首飾りに手を触れた。
曇りなき真珠の連なりに、雫めいた宝石。
――――――――――――
「ルリャーッ!!」「アバーッ!?」
接近戦を挑んだ治安トルーパーをノコギリザメで頸椎切断!一人即死!!
「ルリャーッ!!」「「アバーッ!?」」
殺人サンマが治安トルーパーの股間を破壊!二人即死!!
「ルリャーッ!!」「「「アバーッ!?」」」
殺人サンマが治安トルーパーの頸動脈を破壊!三人即死!!
「……埒が明かないわ!ここはあの子に頼んで、光学迷彩で突っ切りましょう」
魚売りが路上停止クレーン車の陰で独りごちると、十字路に一際大きな超常の波紋が現れる。
そこから姿を現したるは巨大甲殻類タカアシガニ……それも尋常の個体とは比較にならぬ巨躯!その威容はまさにギリシャ神話に語られる多頭大蛇ヒュドラの精強なる援軍、巨蟹カルキノスの如し!
「「「「何だッコラーッ!!?」」」」BATATATATA!!!!
治安トルーパー達が暴徒殲滅カスタムサブマシンガン一斉射撃を浴びせるが、頑強な甲殻にはかすり傷一つつかぬ!
巨大なハサミがタクティカルベスト越しにトルーパーの胴体を両断するのを横目に、魚売りはアクア光学迷彩障壁を展開しクレーン車の陰から飛び出す!
(あっちの方向から……『波動』を感じる)
一直線に向かうは……ツナギ神社!!
――ノダチ区・ツナギ神社境内――
巫女が矢をつがえた弓を引き絞っている。
「お前は何者だ」その鋭い眼差しはダイヤモンドリリーに向けられていた。
「ちょっと待ってお姉ちゃん!この人は命の恩人なの」先ほどの少女が必死に制止する。
「……そういう事ね」巫女の表情がわずかに緩む。
「とりあえず、状況を整理させてくれる?」
ダイヤモンドリリーの問いに、巫女の妹らしき少女は語り始めた。
「さっきはごめんね。お姉ちゃんは……いつもああなの」
少女の名が波乃ということ、あの巫女は波乃の姉で美津地ということ、そして美津地はこのツナギ神社で巫女として育てられたが非常に人見知りが激しく情緒不安定なこと、そして今回の事件でそれが悪化したこと……。
「それでいきなり私に向けて弓を引いた訳ね?」「たぶん、そう」
……ポロロォォオン……ポロロォォオン……!!
(波動が近づいてきてる……!?)
「ねえ、このツナギ神社について何か言い伝えとか知ってる?」
「詳しい事は本職のお姉ちゃんのほうが詳しいけど……これくらいなら」
波乃は懐からタブレット端末を取り出し、操作する。画面に表示されたのは古文書のようだ。
「これって……諸国太平風土記……?」
「まだあんまり解読進んでないんだけどね。これは……『暴君の悪しき軍勢が牙剥く時、大地と海の巫女祝祭の紅き衣纏いて民の護りとならん』だって」
(もしかして……)ダイヤモンドリリーは首飾りに触れながら考え込む。
その時神社の外、鳥居側から轟音が響く!
GROOOOM!!!!
「この音は……あれが完成したんだ!」駆け出していく波乃!
「待て!!」美津地が制止するが、止まらない。
「大地と海の巫女……祝祭の紅き衣……」美津地が静かに呟いていた。
――ツナギ神社鳥居前――
(……ここね)
ツナギ神社大鳥居付近にまで到達した魚売り。
しかし周囲はおよそ数ダースの過剰キリングパワー武装治安トルーパーが集結しており、いかな魚売りの超自然力をもってしても強行突破は困難に思われた……その時!
GROOOOM!!!!「「「「アバババーッ!!!!」」」」
轟音と共に巨大質量が治安トルーパー四人を同時轢殺!
無限軌道機構で爆走する重板金装甲モンスターマシンである……側面には百合の花が鮮やかにペイントされ、正面には敵対者を威圧する『抵抗』の明朝体文字!その威容はインド神話に語られるヴィシュヌ神の化身、ジャガンナートを祀る巨大山車の如し!
『圧政の粉砕者、ランペイジドーザー!見参ってね!!』
若い女性の大音声がテンションも高く響き渡る。
装甲に車体全てが覆われているようだが、何らかのスピーカー機構を備えているようだ。
そのまま封鎖された大鳥居前にモンスターマシンを横付けすると、さらに叫ぶ!
『波乃っち!いるんでしょ!?飛鳥さんが来てあげたよ!!』
「総員撃てオラーッ!!」治安トルーパー部隊長が大音声で発砲命令……だが!
「「アバーッ!?」」断末魔の悲鳴と共に治安トルーパーの手足や生首が高所から降り注ぐ!地上では丸太めいた節足に踏みつけられたトルーパーが痙攣!
一方内側からバリケードを乗り越えた波乃がモンスターマシンに到達!
「飛鳥ちゃん!わたし!」「波乃っち、二万秒遅いよ!」
側面ハッチが開き、引き締まった女性の手が波乃を車内に引き込む。
「安全ベルト締めて!左側のカメラ任せた!」
「うん!」
波乃は飛鳥の方を向いてうなずいた。ハッチが再びロックされ、無限軌道が唸りをあげる!
『あたしたちは、負けない!!』
……そしておお、何という事か。巨大タカアシガニの甲羅に乗り、ノコギリザメを手にしたミニスカサンタ衣装のあの女性は……!!
「わたしはホーリーナイト。ヤクザ・コーポの尖兵たち、これ以上の暴虐は許さないわ」
……キュウウゥゥン……キュウウゥゥン……!!
ホーリーナイトの首飾りが鳴動する!
――ツナギ神社境内――
「どうやら本格的に始まったみたい……!」
ダイヤモンドリリーが外の騒ぎを感じ取り口を開いた。
美津地は目尻を吊り上げ、タブレット端末に向かって怒鳴り散らしている。
「波乃!何処に居るんだ!波乃ーっ!!」『今は飛鳥ちゃんと一緒だから大丈夫!』
「飛鳥!?またあいつと一緒に居るのか!?」『飛鳥ちゃんの悪口はやめて……!』
「……おい、波乃……波乃!!なんてこった、電波が!」
歯を食いしばり立ち尽くす美津地にダイヤモンドリリーがそっと声をかける。
「妹さんと……うまくいってないのね」
彼女が差し伸べた指先には、ネリネの花が優しく摘まれていた。
「大丈夫、嫌だったら話さなくてもいいの」
美津地は握り締めていた拳を開くと、震える手でそれをそっと受け取る……やがて、少しづつ口を開き始めた。
「私だって、本当は波乃の事が心配なんだ……ただ」「ただ、何?」
「波乃のやつ、最近どうも妙な女とよく一緒に居るんだ」「妙な女?」
「飛鳥とかいう、近所の自動車修理屋の娘なんだが……決戦兵器がもうすぐ完成するっていって……!」
そう言うと美津地はまた歯を食いしばる。
「でも、この戦いが終われば」「知ったような口をきくなっ!!」
不穏な沈黙が二人の間に流れる。
「……すまない。私は……嫉妬していたのかもしれない」
「飛鳥ちゃんに?」
「それだけじゃない、ツナギ神社の巫女としての定めを負った私にとって、自由に生きる波乃は……」
「分かるわ。私も昔いろいろあってね」
「そうか」
気付くと、美津地の目には涙が浮かんでいた。
「……私はどうすれば……!」
「それは、姉妹の間で話し合うべき事よ」
「考えさせてくれ」
美津地がダイヤモンドリリーに背を向けて神社の奥に立ち去ろうとした、その時。
KABOOM!!KABOOOM!!
爆発音と共に生木が砕け、焦げる匂い!外の戦闘の余波がバリケードの内側まで到達し、危険!
「ダイヤモンドリリー……だったか。諸国太平風土記にはこうある……『大地の巫女繋がりの神木に触れし時、秘めたる力解き放たれ大いなる護りの業と為す』」
ダイヤモンドリリーは何かに引かれるように参道を走り出す!
「あれが……御神木!!」
――――――――――――
「アバーッ!?」「ああもう、キリがないわね!」
ビル上からロープ降下で襲いかかってきた強襲部隊の最後一人がノコギリザメで喉を掻き切られ墜落死!
「そもそも、今度のヤクザ・コーポはいったい何を企んでいるの……!?」
そこに治安トルーパーを五人まとめてドリフト轢殺したモンスターマシンが停止、スピーカーから再び大声が響く。
『そこなお姉さん、あたしらに味方してくれてるの!?』
「まあね!!」ホーリーナイトは状況判断し、そう答えた。
『ホーリーナイトさん……って言ってたっけ、あたしは飛鳥、で……』『波乃です!』
「で、この街はなんで襲われてるか知らない?」
『心当たりなら……あるかもしれません』そう答えたのは波乃。
彼女が語るには、ノダチ区議会議長のセクシャルマイノリティ排撃主義と何らかの関係があるのではないかという事だ。彼は男女が結ばれて子を為す事が唯一の自然の摂理である旨の発言を議会で行った。当然これが報道された時ネットは炎上したが、Web上の糾弾は何らかの電子的工作で揉み消され、報道もすぐに立ち消えた。
(これは確実にヤクザ・コーポとの癒着ね)
『そして、魔女狩りが始まったんです』『まぁ、そんなのに負けるあたしらじゃないけどね』
「……頼もしいわね……来るわよ!」
ホーリーナイトは背後からの強襲の危険を避けタカアシガニを前進、リーチの長いカジキに武器を持ち替える!
「奴に小銃は効かん!重火器だ!」
トルーパー部隊長が暴徒殲滅カスタム回転弾倉クラスターグレネードランチャーで砲撃!
一発、二発と着弾し爆炎の中でタカアシガニが大きくよろめく!
「化け物ざまあみろッオラー!!」
しかし部隊長が快哉を叫ぶもつかの間……タカアシガニは再びジャッキめいて節足を伸ばし、体勢を立て直す。三発目のクラスターグレネードをハサミを振り下ろしガード!四発目を受けながらも前進を開始!
恐慌状態に陥った部隊長は震えながら後退、装甲保安ビークルの陰から前線に指示を飛ばす。
「総員突撃!死んでもあの化け物を殺せーッ!!」「「「「イエッサオラーッ!!!!」」」」
約一ダースの治安トルーパーが数の暴力で向かってくる!
「諦めが悪いわね……行けぇーっ!!」
ホーリーナイトはカジキを脇に抱えて手を高く掲げる。治安トルーパー達の頭上に巨大な超自然水面が発生!
そこから現れるは多数の殺人サンマ……それだけではない、それを遥かに上回る殺傷力を持つ殺人バラクーダ、1mを超える体躯に大きな顎と釘めいた牙を備えた殺人ニシン……それらが豪雨じみて降り注ぐ!
さながら殺戮刃ファフロッキーズ現象の如し!
「「「「アバババーッ!!!!」」」」
治安トルーパー達が次々に引き裂かれた肉塊と化し、即死していく!
飛鳥はモンスターマシンの大質量を保安ビークルにぶつけ強行突破!
「波乃っち、向こうはホーリーナイトさんに任せてこっちやっちゃうよ!」
「飛鳥ちゃん、左側から来る!」「ちーっ、こっちもだよ」
保安ビークルから脱出したトルーパー達が左右からの挟み撃ちを狙う!この位置取りでは轢殺困難!
「波乃っち、【左G】って書いてるレバーを交互に引いて」「左G……あった!」
波乃が左G、飛鳥が右Gのレバー二本一組をそれぞれ交互に引く!
BLAM!BLAM!BLAM!BLAM!!「「「「アガーッ!?」」」」
ルーフ装甲側面の隙間からベアリングボールめいた6mm金属弾がガス圧力連射される!
トルーパー達はタクティカル防備により致命傷には至らぬが無視できぬダメージだ。弾幕範囲から逃れようとマシン後方へ逃れるが、これが致命的な判断ミス!
「逃がさないよ……!」飛鳥の決断的レバー操作!無限軌道の回転が反転する。
『ダブブギラグ!』
古代言語じみた原初的恐怖を煽るチャントをスピーカー機構から大音声で放つと、モンスターマシンを猛然とバックさせる飛鳥!
「「「「アバババーッ!!!!」」」」治安トルーパー達をまとめて轢殺!!
「ねえ飛鳥ちゃん」「何よー波乃っち」
「さっきの呪文みたいなの何?」「長野のじいちゃんの物真似」
「えっ」「じいちゃん活舌悪くてさぁ」
一方装甲保安ビークルの中無線で上の指示を仰ぐトルーパー部隊長。
「これ以上戦線が持ちません!暴徒共は改造装甲車両と恐らく異能エージェントを……」
その瞬間、無線の向こうの声音が変わった。
「強行突入しての殲滅戦に切り替えろ。今から私自らが出る」
「……議長……!!」
何という事か!あの治安トルーパー達はノダチ区議会議長の私兵であり、ひいてはヤクザ・コーポの走狗であったのだ……何たる邪悪癒着構造がもたらした冒涜的所業!!
「焼けーッ!残存戦力で神社を焼くんだッコラーッ!!」
部隊長の号令で暴徒殲滅カスタム火炎放射器や暴徒殲滅カスタムロケットランチャーを装備した重装トルーパー達が神社を焼き討ちせんとバリケード封鎖地帯へと突撃する!
「させない!ルリャーッ!!」
長大な丸太めいたタカアシガニ節足が重装トルーパーを蹴り払い、甲羅の上から飛び降りたホーリーナイトがカジキ剣で止めを刺す。
「「アッコラー!!」」高圧電流刺又を手にしたトルーパー二人が左右から挟み撃ちを試みるが……!
「ルリャーッ!!」「「アバーッ!?」」
片方が一瞬でカジキの鋭利な鼻先で頸動脈を裂かれ、即死!
もう片方も反動で重量級の胴体で頭部を殴打され頸椎破砕、即死!
「飛鳥ちゃん、神社が!」「あいつが隊長ね、コソコソ陰に隠れて気に食わないねぇ!」
飛鳥の言う通り、装甲保安ビークルの後ろから神社に向け暴徒殲滅カスタム回転弾倉クラスターグレネードランチャーを構えるトルーパー部隊長。
「もう頭にきた。波乃っち、あいつやっちゃうよ。秘密兵器あんの」
「秘密兵器?凄そう!」「波乃っちは周りのカメラ見張っててね、任せたよ!」
正面カメラ画像に照準が重なり、【パワー】と記されたゲージが上昇していく……70、80、90……!
「周り今のところ大丈夫!!」「95……98……100%!!いけるよ!!」
モンスターマシンが不自然に停止している事に違和感を覚えた部隊長は離脱を試みるが、遅い!
飛鳥が波乃の手を取り同時にパワーゲージ右の赤いボタンを押下!
『発射ああーっ!!』ZBAAAAAAM!!!!
モンスターマシン正面開口部から発射されるは秘密兵器、40mm徹甲レールライフルである!
電磁力により超加速された鉄塊は射線上のトルーパー数人を易々と貫き、保安ビークルの装甲を大きく穿って陰に隠れていたトルーパー部隊長の頭部を破砕!
『決まった!!』「アババーッ!?」即死!!
だが敵の突破が速い!
ホーリーナイトは重装トルーパーを一掃する制圧力に欠け、飛鳥が駆るランペイジドーザーはコントロールを間違えれば封鎖バリケードにまで損害を与える危険があるのだ。
そして、ついに……!
KABOOM!!KABOOOM!!
重装トルーパーの放ったロケット弾が着弾、バリケードを破壊!
後続のトルーパーがさらに殲滅ロケット弾や殲滅火炎放射を浴びせかける!
「カニに火はきついわね……!」
激しい火炎放射にタカアシガニが怯み、ホーリーナイトは各個撃破を余儀なくされる。
「飛鳥ちゃん、さっきのやつでまとめて吹っ飛ばせない?」「ごめん無理、アレ撃つのに必要な電気回復してない!」
40mm徹甲レールライフルの射撃には膨大な電力を必要とする。パワーゲージに示された現在の充電率は無情にも僅か4%!
木々が火に覆われ煙が上がり始めもう終わりかと思われた、まさにその時……。
ツナギ神社の奥から眩い翠の光が這うように迸り、大地を照らす!
――――――――――――
互いをかき抱くように枝を伸ばす御神木。
ダイヤモンドリリーはそれに引き寄せられるように手を伸ばした……!
ドゥン……ドゥン……
その刹那、足元の大地が脈打ち翠光の根が四方八方へと伸びる!
(力が、満ちる……!)
光は神社の外へと溢れ出す。ダイヤモンドリリーが地面に力を注ぐと破壊されたバリケードの周囲から樹木が、竹が、ツタが瞬く間に伸長し天然の防護壁となる!
その様相メルヒェンに語られるプリンセスが眠りにつく城を覆いつくす茨森の如し!
「『繋がりの神木に触れし時』……『大いなる護りの業』……太平風土記に記されし『大地の巫女』とはお前だったのか」
美津地はダイヤモンドリリーを静かに見据えた。
――――――――――――
神社の外では、大地を割って急速に芽吹いた植物にトルーパー達が薙ぎ倒される!
「「「ウグーッ!?」」」指揮系統を失っているトルーパーは混乱状態!
「ちょっと波乃っち、何が起こってるかわかるか?」
「多分、これ」「諸国太平風土記?」
波乃はタブレット画面を飛鳥に見せる。そこには軍勢に囲まれた神社が青々と茂る樹々に守られる様が描かれた古文書が示されている。
「全部は分からないけど、これが『大地の巫女』でここは『大いなる護り』って読むみたい」
「じゃあ、あの樹は神社を守ってくれてんだね!」
「それとこっち。『大地と海の巫女祝祭の紅き衣纏いて民の護りとならん』って書いてあるの」
「海の巫女……紅き衣……」「もしかして!!」
ホーリーナイトに二人がかりで殲滅火炎放射を浴びせんとする重装トルーパー。しかし超自然水面の障壁に阻まれる!
「ルリャーッ!!」ミスティック・シャウトと共に水の障壁が高速回転し、炎を押し返す!
「「アババババッ!?」」自ら放った炎をまともに浴びた重装トルーパー焼死!!
そしてホーリーナイトは再びタカアシガニの甲羅に飛び乗る。
「海の巫女がホーリーナイトさんだとしたら、もしかしてダイヤモンドリリーさんが……」
「何ぶつぶつ言ってんの波乃っち、前から来るよ!」
「「「「止まれッコラーッ!!」」」」
飛鳥がモンスターマシン轢殺突進を構える!波乃は【前G】のレバーを操作し6mm連装ガス銃の連射をトルーパー達に叩き込む!
怯んだトルーパー二人が轢殺される!残りは散開するが左G、右Gからの6mm連装ガス銃射撃が続く!
「アバーッ!?」股間に被弾したトルーパーが再起不能!
「「ウグーッ!?」」轢殺を恐れバリケード側に逃れたトルーパー二人が樹木に釘付けにされる!神社を守っていたツタが二人を絡め取ったのだ。
そこに樹木の守りを破ろうと他のトルーパーが発射した殲滅ロケット弾が迫る!
KABOOM!!「「アバーッ!!」」フレンドリーファイア爆死!!
残る一人は恐怖のあまり路地裏へと逃走、転倒し無様にも失禁嘔吐!
高圧電流刺又で押し通ろうとするトルーパー数人が突如神社内から殴り飛ばされた!
「ウオーッ!」「「「ゴボーッ!?」」」
屈強な男、その手には木刀……その後ろにも釘バット、鉄パイプ、材木など各々武装した怒れるレジスタンス達の姿が!
「「「「ウオオオーッ!!」」」」「「「アバババーッ!?」」」果敢にトルーパー達を殴り倒していく!
――――――――――――
「勝てる……俺たち勝てるぜ!」「絶対に守り抜いてみせるぞ!」
神社の境内斜面、樹々の間から遁走するトルーパー達めがけてパイプ爆弾が投じられる!
KABOOM!!「「アバーッ!!」」
「飛鳥さんとこには負けてらんないね」「こっから先は、通さないよ!」
更に別方向では断続的に放たれるボウガンの矢!
HYUM!HYUM!!「「アバーッ!!」」
総崩れとなったトルーパー部隊は怒れるレジスタンス達の手によりもはや屍山血河!
だがダイヤモンドリリーは何かを懸念する。
「美津地さん」
「何だ」
「嫌な予感がするの。あなたは御神木を守ってくれる?」
美津地は何か言いたげな表情をしたが、ダイヤモンドリリーの真剣な眼差しに黙って頷く。
それを見るとダイヤモンドリリーは鳥居方向に迷わず駆け出す!
……ポロロォォポロロォォポロロォォオン……!!
一歩踏み出すたび首飾りが激しく鳴動!
――ツナギ神社鳥居前――
ダイヤモンドリリーの予感は的中していた。
「……みんな、気をつけて!」
ホーリーナイトが目にしたのは空から迫る機影。その正体は議員カスタムヤクザVTOLである……その証拠に機体にはヤクザ・コーポ紋!
議員カスタムヤクザVTOLは低層ビルの上で低空ホバリングすると、機内から人影が飛び出した!
その人影はビル屋上に着地するとその勢いのまま地上へと飛び降りる!
「足元ががら空きだ!ウオーッ!!」木刀を手にしたレジスタンス戦士が落下予測地点を狙う!
「……愚かなり、山羊め」「アバーッ!?」
次の瞬間、レジスタンス戦士は胴体を斜めに両断され即死していた。
「リーダー!!」「そんな馬鹿な、剣道三段だぞ……」「どうなってる!?」
高練度のリーダーが瞬殺され、狼狽するレジスタンス達。
着地の砂煙が晴れ、人影の全容があらわとなる……190cmはあろうかという精強な体躯に整った顔と鋭い目つき、欺瞞的な白の議員カスタムヤクザスーツに身を纏っている。
上半身は悪趣味な金糸ネクタイ以外身につけておらず、スーツの襟元からゴリラめいた大胸筋があらわになっている。
手には長大な太刀を手にしており、刀身には名状しがたく禍々しいエンシェント・カタカナ文字で『ノダチブリンガー』と刻まれている。常人が目にすれば直ちに発狂しかねない危険なものだ!
しかし何より恐ろしいのは、この男の胸元に光る議員バッジ!間違いなくノダチ区議会のものだ。そしてタイピンにはヤクザ・コーポ紋意匠が!
これは即ちこの男……ノダチ区議会議長、野立四郎がヤクザ・コーポのエージェントであるという事を示している。何たる最悪な暗黒権力浸透的癒着関係!
ホーリーナイトの超自然的感覚が警鐘を鳴らす!
「皆ここはわたしに任せて、一旦引いて!」
「「「ちくしょう、体勢を立て直すぞ!!」」」
だが!「フランシスコ!!」「アババーッ!?」
巨大なノダチブリンガーが小枝めいて軽々振り回されると、撤退のしんがりを務める鉄パイプレジスタンスが剣圧で切り刻まれる!
「退廃のソドムの地にも話の分かる者がいれば、こうはならなかったのだよ……」
「コードネーム:ノダチパニッシャー。インフェルノへの土産話にはこれで十分だろう」
「コードネーム:ホーリーナイト。あなたの思い通りにはさせない」
双方が名乗りを上げる。ノダチパニッシャーは不遜な態度を崩さず、ホーリーナイトは怒りに歯を食いしばる!
『同じくランペイジドーザー!ついに親玉のお出ましってわけね!』
ランペイジドーザーのスピーカーからは飛鳥と波乃の声!
「あれ撃てる?」「もうちょっと時間かかる!」
40mmレールライフルの充電率、現在55%!
「なら突っ込もう!」「そう来ないとね」
飛鳥はモンスターマシン轢殺突進を試みる!
「愚かなり、愚かなり汚れしレギオンの化身よ!」
ノダチパニッシャーは再跳躍!ビル壁を蹴るとノダチブリンガーを掲げ躍りかかる!
6mmガス銃弾幕が浴びせられるが、怯みもせぬ!
「隙あり!ルリャーッ!!」ホーリーナイトが殺人バラクーダ集中射撃!
空中なら急制動はできず、直撃させる事ができると踏んだのだ。
だが!「メサイアーッ!!」
狂信的シャウトと共にノダチパニッシャーの肉体が青黒いオーラに包まれ、筋肉が異常パンプアップ!
肉の鎧が殺人バラクーダを易々弾き返す……パワーエンチャントだ!
そのままノダチブリンガーを振り抜くと、ランペイジドーザーの前方装甲が段ボールじみて切り裂かれる!更に捨て身の轢殺突進も左腕一本で押しとどめられた。
「きゃああ!」「ちきしょっ……!!」
駆動系が悲鳴を上げ、ランペイジドーザーはバックを余儀なくされる。車体のあちこちから火花!
「飛鳥ちゃん波乃ちゃん、大丈夫!?」
「邪教徒の心配をしておる暇など無いぞ、売女!!」
地面を薙ぐような剣圧がホーリーナイトの乗るタカアシガニに向けて飛ぶ。
長大な節足を機敏に動かし後退しつつバラクーダで眼球破壊を狙うホーリーナイトだが、これはフェイントであった!
本命は腕を引き戻してからのクロス軌道斬撃!
「フランシスコ!!」
剣圧だけでバラクーダがなます切りにされ、巨大タカアシガニの節足がまとめて斬り飛ばされる!
ホーリーナイトは無傷で空中に跳ね上げられるが、完全な無防備状態だ。
ノダチパニッシャーは既に次の一太刀を構えている!
「これで終わりだ……フランシスコーッ!!」
全力のノダチブリンガー剣圧両断攻撃が繰り出される!ホーリーナイトはこのまま為すすべなく臓腑を晒した骸となり果ててしまうのか……!!
その時である!「諦めちゃだめよ!!」
……キュウウゥキュウウゥキュウウゥゥン……!!
ホーリーナイトの首飾りが今までになく激しく鳴動、それに呼応するかのように空中で体が斜め後ろに強い力で引かれ剣圧を紙一重回避!蒼い髪が幾本か風に舞っただけだ。
「死に損ないの悪霊め!」ノダチパニッシャーは突きで追撃を試みるが、遅い!
ホーリーナイトは神社を覆う樹木を蹴り、体勢を立て直す……それを抱きとめフォローしたのは、緑髪にクランベリーめいた瞳の女性である。
「あなたは……!!」「来てると思った」二人の顔が近い!
「貴様も邪教徒の狗か!」
「コードネーム:ダイヤモンドリリーです……あなたが敵だという事はわかったわ」
彼女がツタを操り致命の一撃からホーリーナイトを救ったのだ。
二人は並び立つと互いに無言で頷き、ノダチパニッシャーと対峙する!
その全ての光景が、ランペイジドーザー内のカメラモニタに映っていた。
「やっぱりあの二人が、大地と海の巫女……!」「伝説は本当だったってわけね……」
――――――――――――
先に動いたのはノダチパニッシャー!踏み込みからクロス軌道斬撃を放つ!
だが瞬時に伸長した竹の壁に阻まれ剣圧は減衰消滅……ダイヤモンドリリーの力だ。さらに高速で地下茎を伸ばし足元からの二段構え攻撃!「ヒュアーッ!!」
だが足元に迫る竹槍衾をノダチパニッシャーは瞬時に刈り払う!
その隙を今度はホーリーナイトが見逃さない。首筋を狙いノコギリザメをダブル投擲!「ルリャーッ!!」
しかしギリギリまで身を沈めて回避される!そこからのノーモーションノダチブリンガー回転斬撃!
「愚か!愚かなり!!」
剣圧が広範囲を薙ぐ!二人はダイヤモンドリリーが伸ばしたツタで立体機動回避!
だがランペイジドーザーの装甲がさらに削られる!「神が与えたもうた眼光は欺けぬ!!」
「大丈夫か、波乃っち!」「何とか……あれは撃てる?」
「ああ、ギリギリね……」「あいつが二人に気を取られてる今なら、いけると思う」
レールライフルの充電率は現在75%!だが……。
「電力ブーストするよ、この一発に賭ける!!」
ノダチパニッシャーは一気に踏み込んで二人同時斬殺せんとする……だが足元には鋭利なナッツ・マキビシ!
下段薙ぎ払いを放とうとするが、上半身にダイヤモンドリリーの荊鞭が迫る!ノダチパニッシャーは防御的構えに移行!
だがその周囲に超自然水面が複数発生、多方向からホーリーナイトが殺人バラクーダを撃ち込む!
「ルリャーッ!!」「ヒュアーッ!!」
ノダチパニッシャーはパワーエンチャントで耐える!!
「もうすぐ……もうすぐだよ波乃っち!」
パワーゲージが凄まじい勢いで上昇していく!90……95……98、99、100!!
「いくよ波乃っち」「飛鳥ちゃん……」発射ボタン同時押下!
ZBAAAAAAM!!!!
40mm徹甲レールライフルが二本に増えた荊鞭を捌き続けるノダチパニッシャーに向けて放たれた!
この加速質量をまともに受ければエンチャントされた屈強な肉体でも貫通殺は免れぬだろう……だが!
「……フランシスコ!!」
ノダチブリンガーを短く鋭く打ち振るい、刃を横倒しにした構え!
片方の荊を刃で弾き、もう片方はあえて受ける!そこに40mm鋼鉄徹甲弾!
ギャアン!!
……鉄塊は切り裂かれ、破片が四方に散る。その一つがかろうじてノダチパニッシャーの肩を抉った。
「何で……!」「射撃システムダウン。もう、撃てない」
飛鳥と波乃はその様子とパワーゲージの【ERROR】表示を呆然と見つめていた。
「行っけえぇぇーっ!!!!」「ヒュアアァァーッ!!!!」
ノダチパニッシャーの頭上に巨大超自然水面!さらに足首を多数のツタが縛める!
正面からは荊鞭と種子散弾、さらに上からは無数の殺人サンマ、殺人ニシン、殺人バラクーダの豪雨!
(さっきので無視できないダメージを受けた筈だから)(一気に飽和攻撃を仕掛けましょう)
ダイヤモンドリリーとホーリーナイトの全力連携攻撃だ!これならば……。
否、ノダチパニッシャーは足元の地面を薙いでツタ拘束を断ち切り、マキビシを吹き飛ばすとそのまま己の体に沿ってノダチブリンガーを構え、巻き上げるように高速回転!
降り注ぐ殺人魚が刺身めいて切り刻まれ、青黒いオーラが膨れ上がる!
「神の御加護ある限り、我は斃れぬ!メサイアーッ!!」
凄まじき殺戮旋風鎌鼬が全方位に放たれる!
ダイヤモンドリリーは咄嗟に籠めいた樹木防壁を全力展開!ホーリーナイトも水の障壁を七枚重ねた!
死の風が地面を、ビルを、樹を容赦なく削り取り……。
「「くっ……アアアァーッ!!!?」」
全ての障壁が打ち砕かれ、薙ぎ倒された樹々の中で二人は動かない。
「きゃああああっ!?」「電気系統損傷、装甲に複数致命傷……ちくしょっ!!」
ランペイジドーザーは致命的損傷を受け、身動きが取れぬ。車体のあちこちから火花。
「まずい事になった……波乃っち、ごめん」
「大丈夫だよ、飛鳥ちゃんとなら、何でも」
「お互いさまってとこね……ハッチが、開かなくなった」
その頃、ノダチパニッシャーは諸手を広げ十字架めいたポーズで哄笑していた。
「やはり我は神に祝福されし者!聖戦の勝利は運命づけられていたのだ!!」
そしておお……上空を見よ。純白のタンデムローターヤクザ輸送ヘリ。その扉から次々に有翼の影が飛翔する。その数、十二。
レーザー発振ソードと小型光子加速砲で武装、純白のサイバーヘルメットで顔全体を覆い純白のタクティカル空挺スーツを身に纏って、サイバー機械翼を備えたジェットパックで飛ぶ彼らの正体は……ヤクザ・コーポが生み出した涜神的存在、ヤクザ人造天使である!
何たる暗黒テックとヤクザ兵力と権力由来財源の悍ましき三位一体による冒涜的産物!
「「「「パワオラーッ」」」」「「「「パワオラーッ」」」」「「「「パワオラーッ」」」」
ドゥームズデイを告げる喇叭じみて電子変換されたチャントが非人間的統一感で響き渡る!
――ツナギ神社境内――
美津地は不安に駆られていた。
もう二度と、妹に会えないのではないか。
このまま自身の心を偽っていて悔いる事になりはしまいか。
その時、彼女のタブレットに着信があった。波乃からの通話だ!
「よく聞いて、お姉ちゃん」「……どうした」
「何だかんだ言ってわたしはお姉ちゃんの事、好きだよ」「私もだ。波乃」
美津地は一呼吸置くと、言葉を返した。
「何だその今生の別れみたいな……私を置いて死ぬ気か?」
「ごめんね。でももうこれしか方法がないの……太平風土記の解読を進めてるけど、間に合わなくて」
「諸国太平風土記の事か?あれは一種の予言書だと聞いた事がある」
「やっぱり……!『魂の奥陰中の陽輝く時』って書いてあるところがよく分からなくて」
「紅い服の人が描かれてなかったか!?」
「うん、男の人にも女の人にも見える感じの!!」
美津地の予感が確信へと変わる。
「心当たりがある……波乃、絶対に守ってみせるからな」
その言葉と共に彼女の感情が爆発し、内なる力が殻を破るが如く湧き上がる!
(『魂の奥陰中の陽輝く時、怒れる大地の戦士天を切り裂き偽りの神の使い打ち倒すものなり』……今助けに行くからな、待ってろ!!)
およそ信じられぬ速度で境内を駆け、拝殿の横を通り抜け、目指すは裏の倉庫!
そこには美津地の秘密スーツケースが隠されているのだ!
――ツナギ神社鳥居前――
「……大丈夫?生きてる?」「……まぁ、何とかね」
ダイヤモンドリリーとホーリーナイトは薙ぎ倒された樹木の下抱き合って倒れていた。
「怪我はない?」「あなたのおかげで平気、厚着もしてたし……助けてくれてありがと」
「私も前に貴方に助けられたから……その波動が、私を導いてくれた」「あの時の……!」
その時複数のジェット噴射音が接近!
「長話は後、上から何か来る!」「わかったわ、行くわよ!」
「「「「パワオラーッ」」」」
レーザー発振ソードを構え一糸乱れぬ統制で降下するヤクザ人造天使!
ダイヤモンドリリーとホーリーナイトは跳躍し、互いに背中合わせの状態で迎え撃つ!
「で、どうだった?」飛鳥は通話を終えた波乃の首筋にそっと手を回し尋ねる。
「わたしの事……絶対に守るって」波乃は飛鳥の肩に寄り添うとそう答えた。
「まぁ、あいつならそう言うだろうね」「来るかな」
「妹のあんたが信じてあげなくて、誰が信じるのよ」「そうだよね……!」
互いに身を寄せ合い、お互いの温もりを確かめ合う。
一方車体のすぐ外にはノダチパニッシャーの姿があった。
上空には四体のヤクザ人造天使がホバリングする……。
「ルリャーッ!!」「「パワオラーッ」」
ホーリーナイトは殺人バラクーダを射撃、守りの薄い下半身の急所を狙う!ヤクザ人造天使二体の足の付け根を直撃!
……だがヤクザ人造天使は怯まずレーザー発振ソードを構え突撃!彼らは高度に自我をチューニングされており、苦痛や恐怖を感じないのだ。
ホーリーナイトは咄嗟にノコギリザメ二刀流を構え、レーザーソードを受け止める……。
「ヒュアーッ!!」「「パワオラーッ」」
ダイヤモンドリリーはツタを飛ばしヤクザ人造天使がレーザーソードを持つ腕を捕獲!
アメリカンクラッカーめいて近くの人造天使に叩き付けんとす!相手はジェット噴射で抵抗するもダイヤモンドリリーはツタを地面に固定、有利を得る……。
だがその時、彼女の超自然的感覚が警鐘を鳴らす!
「危ないっ!!」「……はっ!!」
上空に向けて花吹雪を放つと同時にツタから離れ、ホーリーナイト共々後方跳躍!
二人の立っていた位置を光の矢が抉る……光子加速砲だ!
深く傷跡が刻まれたランペイジドーザーの前方装甲を力ずくで引き剥がすノダチパニッシャー。『抵抗』の文字が無残に引き裂かれる!
「「……!!」」息を呑む飛鳥と波乃。だがノダチパニッシャーは不遜な態度を崩さぬ。
「貴様らのような姦淫の徒を始末する事には何の問題もない……だが」
「我は博愛を神に教示された者であるからにして、一つ救いの道を示してやろうという事だ」
「……どういう意味」飛鳥が訝った。何らかの異常性を感じたのだ。
「聞くが良い山羊どもよ。片方が生贄となればもう片方は放逐されるだけで済む……生ける者と死したる者全ての罪を負ってな」
これは仔山羊生贄儀式をノダチパニッシャーがサディスティックに再解釈したものだ。
彼は狂っていた。
「つまり、あたしが死ねば波乃は助かる……平たく言えばそういう事っしょ」
飛鳥が事もなげに言う。その目には涙。
「物分かりが良くて実に良い」ノダチパニッシャーは邪悪に目を細める。
「波乃っち、これは巻き込んじゃったあたしの責任だから」「そんなのどう考えてもおかしいよ!!」
沈黙を保っていた波乃が突如として激昂!!
「わたしが勝手に首を突っ込んだのに、飛鳥ちゃんだけが責任を取るなんておかしい!」
「波乃っち……あんたが死んだらあいつは、美津地の姉ちゃんはどうなんの!」
「飛鳥ちゃん……本当はそんな事、望んでないよね」
「…………」
「どちらかが犠牲になればいいなんて、思ってないはず」
飛鳥と波乃は目と目を合わせ、覚悟を決める!
「……勿論よ!!」「そうじゃなくっちゃね!!」
思わぬ二人の態度にノダチパニッシャーが怒りをあらわにする!
「汚らわしい……汚らわしい淫売のセンチメント!悪しき霊の分際で神の愛を真似たつもりか!!」
悪罵の限りを尽くすノダチパニッシャーに飛鳥と波乃が反論!
「どの口で神の愛語ってんのよ」「惹かれ合う二人を引き裂こうとする事が、ですか」
「おのれ……!!」
ノダチパニッシャーは憎悪に震え、ノダチブリンガーを大地に突き立てる。
「何処までも救いようのない魂の悪しき霊どもめ、人の世に這い出てきた事を後悔させてやる!!」
彼が懐から十字架カスタムヤクザマシンピストルを取り出し、まずは波乃の美しい手に狙いを定めた……。
……その時である!「「アババーッ!!」」「ヌグーッ!?」
ヘルメットを砕かれたヤクザ人造天使が墜落し、ノダチパニッシャーの脇腹に叩き付けられた!死角からの衝撃に対応しきれず、後退を余儀なくされる!
そして赤銅色の光を纏った何かがランペイジドーザーの前方に急降下、『それ』は大地を砕き、砂煙を巻き上げてヒロイックに着地した。
それは、性別を超越した『生命』であり『魂』であり『奇跡』。
深紅の中性的ゴスパンク衣装に身を纏い、腕や腰には攻撃的チェーン装飾。
背中には黒のポータブルCDプレーヤーを背負っている。
『それ』は燃えるような眼をちらと波乃に向けた。
「……これが、俺だ」「お姉ちゃん……!?」
――――――――――――
新たなる乱入者に、戦場は混乱の只中にあった。
「何か神社の方から降ってきたわ、気をつけて!」ホーリーナイトが警戒する。
「感覚なんだけど、あれは私達の味方だと思うわ」とダイヤモンドリリー。
「あなたが言うなら大丈夫そうね」「また上から来るわよ!」
再びヤクザ人造天使が迫る!
「もしかして『魂の奥陰中の陽輝く時』の陰は女性を、陽は男性を現してるんじゃ」
「どういう意味よ波乃っち?」
「だとしたら、お姉ちゃんがずっと隠してた事って……」
「とにかく、また巻き込まれる前に逃げるよ!!」
飛鳥と波乃は破壊されたマシン前方から脱出、神社へ逃げ込む!
そして……。
ノダチパニッシャーは地面を切り裂き後退しながら十字架カスタムヤクザマシンピストルを連射!
「メサイアーッ!!」
だが美津地は無傷!何らかの斥力場が全ての銃弾を弾き返したのだ!
(銃弾を空中で……電磁力操作か金属操作の類か?否、それでは空を飛んで現れた説明がつかぬ!!)
「貴様、邪教徒の異能エージェントだな……名を名乗れ!!」
「俺の名はゴシックロック……波乃の姉であり、兄だ!!」
ゴシックロックが名乗りを上げ、左手を背に回すとCDプレーヤーのスイッチが入る。
そこから流れるは反キリストを高らかに掲げる悪魔的ブラックメタル・ナンバー!
ゴシックロックは一歩踏み込むと、挑発的ハンドサインを繰り出す!
「よくも俺の妹を可愛がってくれたな」
「何処までも我らが神に背きあまつさえ侮辱する悪魔めが!インフェルノにて悔いよ!!」
ノダチブリンガークロス軌道斬撃!剣圧がゴシックロックを襲う!
「ッシャアーッ!!」ゴシックロックは戦闘的ゴスパンク・シャウトを放つ!
それと共に地面が割れ、畳返しじみて巨岩が反り立つ!剣圧は岩の表面を削り取ったのみだ。
「フランシスコ!!」ノダチパニッシャーは素早く踏み込んで直接岩を両断せんとするが!
「ッシャアーッ!!」「ウヌーッ……!?」
二本の地割れが蛇めいてノダチパニッシャーに迫る!破断面からは鋭利な岩塊が多数!ノダチパニッシャーは距離を離しつつ地面を薙ぐ。
さらにヤクザ人造天使を降下させ反撃!残存数10体!!
「「「「パワオラーッ」」」」
何たる高度自我チューニングによる完璧な統制の編隊飛行!
中央の一体が光子加速砲でゴシックロックを狙う。
ZAAAAP!!
閃光!爆発!ゴシックロックは……なんと無傷!周囲には複数の岩塊が浮遊している。これを盾にしたのだ!
「ッシャアーッ!!」「「アバーッ!!」」
岩塊が重力に背いて射出されレーザーソード突撃をかけたヤクザ人造天使二体を直撃、内臓破裂!即死!!
残存数8体!!
だがゴシックロックは気を緩めぬ。頭上では別のヤクザ人造天使が光子砲のチャージを!
腕に巻かれたチェーンを投擲する。それは驚くほど速く、直線的に飛んだ……何故ならば、先端の重力が投擲ベクトル方向へ操作されているのだ!
「パワゴーッ!!」
ヘルメットと空挺スーツの間にチェーンが巻き付き、ヤクザ人造天使の気道を圧迫!
如何に苦痛や恐怖を感じぬと言えど、呼吸器を攻撃されてはひとたまりもない。光子砲は狙いが逸れノダチパニッシャーの足元へ!「貴様ーっ!!」
さらに重力操作でチェーンを軽々振り回し別の一体に叩き付ける!
「ッシャアーッ!!」「アバーッ!!」かち上げ頸椎破砕!即死!!
「フランシスコ!!」そこに跳躍したノダチパニッシャーが斬りかかる!
「ッシャアーッ!!」ゴシックロックはチェーン拘束したヤクザ人造天使を投げつけて応戦!ジェットパックごと両断され、爆散!即死!!
残存数6体!!
至近距離の爆発で無視できぬダメージを受けたノダチパニッシャーはいったん後退、ヤクザ人造天使二体を己の頭上に呼び戻す。
「おのれ、おのれ異教の悪魔め……!!」
「これが大地の力だ!!」
ゴシックロックの全身から赤銅色のオーラが噴き上がる!
――――――――――――
「あれは、新しい異能覚醒者……!!」
ダイヤモンドリリーがその身に翠光の粒を纏わせる。
「わたし達も、力を合わせていきましょう!!」
ホーリーナイトの身に紺碧のオーラが寄り添う。
そして、おお……何という事か。
ホーリーナイトの四肢にはシャープで生物的に発光するガントレットとレッグガードが現れ、瞳は右が蒼く左が紅に神秘的な輝きを見せる。
ダイヤモンドリリーの袖口や裾からは幾重にも重なった花弁がフリルめいて広がり、瞳に輝く光は花冠めく!
「「「「パワオラーッ」」」」
「ルリアーッ!!」「ヒュアーッ!!」
再降下するヤクザ人造天使四体に呼吸を合わせて立ち向かう二人!
ホーリーナイトのガントレットから碧く輝く剣が両手に生成される。
「「パワオラーッ」」「ルリアーッ!!」レーザーソードとかち合い、一合、二合、三合!火花を散らしながら徐々に押し返していく!
一方ダイヤモンドリリーは開きかけた百合の蕾じみた植物器官を右手から展開。
急降下するヤクザ人造天使へ翠光のエネルギー弾を連射する!
「「パワーッ……!!」」「ヒュアーッ!!」着弾と共に眩い光の粒子が散り、それと共にヤクザ飛行ユニットの機能が急低下!
だが一体は残った出力で高度を維持、もう一体はレーザーソード突撃を強行!
「パワアバーッ!!」「ヒュアーッ……!」
ダイヤモンドリリーが手の蕾から伸ばした翠の刺突剣がヤクザ人造天使の心臓を的確に抉ったのだ。力尽き墜落!
「危ない!!」ホーリーナイトが叫ぶ。
もう一体が上空から光子砲で狙う、回避は間に合わない!
「ルリアアァァーッ!!」全パワーを水の障壁に回す。危険な賭けだ!
ZAAAAP!!「アバーッ!!」
おお……見よ!光子砲の洗礼を受けたのはヤクザ人造天使自身!
超自然水面の障壁が鏡の如く光を反射したのだ!飛行ユニットが爆発!即死!!
残存数4体!!
「ありがとう」「うふふ」軽く目を合わせ、笑い合う二人。
残るヤクザ人造天使二体は撤退していく……その方向にはノダチパニッシャーの姿!
――――――――――――
光子砲二発が同時に閃き、時間差でノダチブリンガーの剣圧が迫る!
だがそのどれも地中から現れる岩石に阻まれ、あるいは重力操作による立体機動によりゴシックロックには掠りもせぬ!
「ッシャアーッ!!」
着地したゴシックロックが重力操作で地面に転がっている鉄パイプを引き寄せる。
その手に握られた鉄パイプは赤銅色の光に包まれると瞬く間に両刃の長剣へとモーフィングした!
その刀身には諸国太平風土記のそれと同じ字体で『陰陽繋木之神剣』の神秘的な銘が!
剣を構えたゴシックロックは後方跳躍でヤクザ人造天使二体のレーザーソード突撃をかわすと、カウンターで一気に切り払い後退させる!
「どうなっている……どういう事だ!?」
ノダチパニッシャーは大振りに構え、パワーエンチャント!この一撃で決着しようと力強く踏み込む!
……だがこれが大きな隙を晒す結果となった。
「ルリアーッ!!」ミスティック・シャウトと共にノダチパニッシャーの足元から巨大タコの触手が出現、手足を拘束し動きを封じる!
かろうじて自由な左手で十字架マシンピストルを乱射するが……。
「ヒュアーッ!!」謎めいたシャウトと共に多数の竹が壁めいて伸長!銃弾は押しとどめられる。
そこにヤクザ人造天使の攻撃を切り抜けたゴシックロックが!
「お前たちは……?」
「わたしはホーリーナイトよ!」
「私は……ダイヤモンドリリー」
「そうか、俺はゴシックロックだ」
三人の力が共鳴する。
額にそれぞれ波紋じみた二重円、花じみた六方星、二つに分かれたインヤン文様が浮かび上がった!
一方ノダチパニッシャーはタコの触手一本を強引に叩き切るとスピンジャンプ脱出!
「悪魔めが……惨たらしく苦しみ抜いて死ねぇ!!」
「本当の戦いはここからだ」「「……ええ、そうね!!」」
――ツナギ神社境内――
「ここまで来れば、もう大丈夫でしょ」
飛鳥が境内にある大きな石に腰を下ろす。その肩に寄りかかる波乃。
「飛鳥ちゃん……」
二人は束の間目を合わせ、波乃はタブレット画面に視線を移す。
そこには諸国太平風土記最後の頁が表示されていた。
「波乃っち、また無茶するつもり?」
「ここに書いてある事の意味は、まだわからない。でもお姉ちゃんに守られてばっかりだったから、今度は……」
「なるほどね、生きて帰ってきなよ……飛鳥さんとの約束だよ!」
「うん!!」
波乃は頷くと、境内を走り出す!その視線の先には……。
(これはお姉ちゃんの……!)
美津地の秘密スーツケース!
波乃がそれを開くと、畳まれた巫女装束一式が入っていた。
見慣れた姉の筆跡で書かれた「御神木を頼む」という伝言と共に。
――ツナギ神社鳥居前――
ヤクザ人造天使四体が再び上空から迫る!
「ああもううざってえ!シャアッ!!」
ゴシックロックがゴスパンク・シャウトを放つと四体全てが地面に叩き付けられる!重力!!
「フランシスコ!!」「ルリアーッ!!」
ノダチパニッシャーが斬りかかろうとするが、滑るように一瞬で距離を詰めたホーリーナイトの光剣二刀流がこれを阻む!
「ヒュアーッ!!」「ヌグーッ……!」
側面からはダイヤモンドリリーが松かさめいた球果を投擲!炸裂し、硬質の鱗片が飛び散る!
「貴様ら……貴様らーっ!!」ノダチパニッシャーがホーリーナイトを弾き飛ばす!
「俺に代われ!」ゴシックロックが長剣を振るいインタラプト!神速の太刀筋を叩き付ける!
ノダチブリンガーに受け止められるが、衝撃が重い!何処にこんな力が!?
……重力操作である。振るう時は剣を軽く、インパクトの瞬間に急激に重量を増加させたのだ!
強烈なラッシュにノダチパニッシャーは防御的構えを余儀なくされる。
だがヤクザ人造天使達の飛行ユニットが再起動、このままでは再び空対地攻撃を受けてしまう!
「先にあいつらを片付けないと」
「ならわたしに任せて。あなたは地上のカバーお願い」
ホーリーナイトはそう言うと両手を天に掲げる。上空に超自然のヴォーテクスが出現!
「吹けよ風!呼べよ鮫嵐!!」
ヴォーテクスから超常の暴風と共に大小様々なサメの大群が現れ、渦となって空を舞う!
さながらB級パニック映画悪夢的光景の顕現!!
「「「「アバババーッ!!」」」」
ある者はヘルメットの上から頭部を噛み砕かれ、さらにある者は腹を食い破られ臓腑を晒して次々と息絶える!
……そして最後のヤクザ人造天使が片翼片腕を失い頭から墜落、頸椎が砕ける!即死!!
残存数……0!!
「……我らが十二天使が!!」ノダチパニッシャーが吼える!
「ふざけんな!!」「あれの何処が天使なのよ!!」
ゴシックロックが激しく打ち合いながら怒鳴り返す。ダイヤモンドリリーも刺突剣を先程まで天使を模っていた肉塊に一瞬向けると、ノダチパニッシャーに突きを放つ!
「異教徒の分際で……!」憎悪に燃えるノダチパニッシャーの構えが変わった!
「やばい、下がれ!!」ゴシックロックはそう叫ぶと、相手の足元の地面を崩す!ノダチパニッシャーは十分踏み込めず、一の太刀は地面を切る。
その隙にゴシックロックは距離を取り、ホーリーナイトとダイヤモンドリリーが体勢を立て直す!
だがノダチパニッシャーは直ちに跳躍、青黒のオーラをエンチャントし回転攻撃の構え!
「我は神意の代行者なり!メサイアーッ!!」
再びあの殺戮旋風鎌鼬を放たんとする!
「やばいやつが来るわよ!」「任せろっ!ッシャアーッ!!」
ゴシックロックが広範囲に巨岩の壁を反り立たせる!
断続的に剣圧が岩を削り取るが、陰に隠れた三人は無傷!
「小癪な……!」「黙れ狂信者」
ノダチパニッシャーとゴシックロックが睨み合う。その左右にはホーリーナイトとダイヤモンドリリー。
そしてその遥か後方、ツナギ神社鳥居のすぐ裏側には……!
「今度は、わたしが助けるんだ」
三人がそれぞれの剣を構える……荒々しい構え、生物模倣的二刀流、フェンシングじみた構え。
一方ノダチパニッシャーはパワーエンチャントと共に横薙ぎで一気に仕留めんと構える!
どちらが先に仕掛けるか双方出方を窺っている……まさにその時!
「お姉……お兄ちゃん、加勢する!!」
空を切ってノダチパニッシャーめがけ矢が放たれる!
発射地点は鳥居のすぐ隣、そこには巫女装束を纏い美津地の弓矢を手にした波乃の姿が!
「貴様、よくも抜け抜けと!」
ノダチパニッシャーはまず波乃に剣圧を放たんとする……だが、美津地が速い!
「させないぜ!!」
飛翔する矢は赤銅色の光に包まれ鋭角的に加速、やがてそれは黄金の輝きとなりノダチブリンガーが振るわれる前にそれを握る手首を貫く!
波乃と美津地の力がひとつに合わさったのだ!!
「ヌグゥーッ!?」「よくやった、波乃!」
矢傷から血潮じみて青黒のオーラが噴出、ノダチパニッシャーのパンプアップ肉体が委縮し剣先は杖めいて地に突き立てられる!
「……見なさい……これを見なさい……!」
ダイヤモンドリリーの左手に大輪の花が開く。神秘的な白と紫の中央に五つに分かれた雄蕊と三つに分かれた雌蕊を持つ、エキゾチックなものだ。
「それは……!」「時計草、あるいはパッションフラワー……そう、キリストの受難の花」
ダイヤモンドリリーが言い含めるように語る。
「おお……父よ、子よ、聖霊よ……」ノダチパニッシャーの妄執が揺らぐ!
その隙をホーリーナイトは見逃さなかった。超自然水面を足場に跳躍し……!
「ルリアァァーッ!!」
空中から光剣で斬りかかる!紺碧に輝く刀身はセグメント分離すると鞭めいて鮮やかにしなり、ノダチパニッシャーの首を狙う。
「何っ……!?」
金糸ネクタイが斬り飛ばされる!刀身がホーリーナイトの手元に引き戻された時……。
……ノダチパニッシャーの首は、切断されていた。
――――――――――――
ノダチパニッシャー……野立四郎の意識は走馬灯めいた状況下にあった。
(えー、ノダチ区議野立四郎は清く美しい社会の実現のため……)
(やはりこの世を救えるのは神の御心のみ、真の愛は神の慈愛のみ)
(俺の事を愛してるって、そういう意味じゃなかったのかよ!)
(ごめんなさい野立さん、やっぱり私香奈子の事が好きなの)
(今日は天草四郎についての話をします、彼は圧政と弾圧に立ち向かい……)
(何で名前が四郎かって?それはね、天草四郎っていう昔の……)
――――――――――――
ずるり、と首が落ちんとする。
だがノダチパニッシャーはまだ仁王立ちのままだ。
「立ったまま死んでいるの?」「わからないわ」
ダイヤモンドリリーとホーリーナイトは残心しながら言葉を交わす。
「いや、だめだ!」ゴシックロックが警告する!
おお、何たる身も凍るような悍ましき恐怖光景!
ノダチパニッシャーは両手で刎ねられた首の切断面を元に戻すと、アイソメトリック力を込める。
青黒のオーラが湧き出し切断面が見る見るうちに接合!
それだけではない。右手首の矢を引き抜くとその傷も見る見るうちに塞がり、スティグマじみた痣を残すのみ!
額には十字架シンボルが浮かび上がり、ぎらつく瞳は人外の十字形に変ずる……明らかに危険だ!!
「我コソハ……天草四郎時貞ナリ!!」
「なんてこった!」
――――――――――――
ノダチブリンガーを両手で握り、人外の脚力で斬りかかってくる天草四郎時貞……もといノダチパニッシャー!
ゴシックロックは剣を構え直し高速ラッシュで応戦!一合二合三合四合!!
「お前のような天草四郎がいるかっ!!」
「否、我ガ、我コソガ天草四郎時貞ダッ!!」
無論彼は天草四郎とは名前以外何の関係もなく、己を天草四郎と思い込んでいる偏執的妄想者に過ぎぬ。
彼は狂っていた。
しかし……「グゥーッ……!」ゴシックロックが押し負ける!何たる妄執!
「悪魔メ!滅ビロ!!」「ルリアーッ!!」
追撃に対しホーリーナイトが二刀流インタラプト!激しい応酬!
「何で首を刎ねても死なないのよ!」「太平風土記に何か……」
カバーに入ろうとするダイヤモンドリリーと体勢を立て直したゴシックロックが言葉を交わす。
その時再び波乃の声が響く!
「……太平風土記の最後の頁に書いてる事、思い出せる!?」
「最後の頁……思い出したぞ!!」美津地は一瞬考え込むと、何かを思い出す。
「弱点があるの!?」劣勢のホーリーナイトをフェイント突きで援護するダイヤモンドリリーが問う。
答える代わりに美津地は大音声を上げた。
「皆聞くんだ……特に波乃!『神意を騙る悪鬼首を刎ねたとて斃すこと能わず。真の愛の祈りを以て神木と巫女繋がりし時、大地と海の清めの力重なりて悪心を穿つことこれを斃す唯一の御業なり』だ!!」
「どういう事、お兄ちゃん!?」
「御神木を頼んだ、奇跡を起こせるのは波乃だけだ!」
「……わかった!!」
波乃は境内の奥、御神木へと向かう!
「サセヌ!!」
ノダチパニッシャーの額の十字架が激しくスパーク!
三人は危険を察知し飛び離れる。
ZAAAP!!!!「ッシャアーッ!!」
ノダチパニッシャーの額から鮮血めいた真紅の光線が放たれたのと鳥居の前にモノリスじみた巨大岩壁が現れたのはほぼ同時!
光線は岩壁に防がれたが、十字架型の爆発が起こり上半分が大きく抉られる!
「何て化け物だ」「今は奇跡を信じましょう」「ええ、そうね……!」
――ツナギ神社境内――
「きゃあああーっ!!」
閃光と共に巻き起こった爆風に吹き飛ばされる波乃!思わず落ち葉の上に倒れ込んでしまう。
「痛あっ……」
そこに手を差し伸べる人影あり。
「遅かったじゃん、波乃っち」
「来てくれたの、飛鳥ちゃん!」
彼女は波乃の手を取ると、優しく助け起こした。
「さ、行くよ……もう一仕事、あるんでしょ?」「わかった!!」
御神木へ向かって全力で駆け出す波乃。その背中を飛鳥は見守る。
「まったく、世話が焼けるんだからぁ」
――ツナギ神社鳥居前――
「ッシャッシャアーッ!!」
ゴシックロックが次々と岩塊を発射!だがノダチパニッシャーは悉く回避!
「滅ビヨ!!」「お断りだっ!!」
額からの光線!ゴシックロックはこれを見切り重力制御で空へ!
着弾点には恐るべき死の十字架めいた光柱が巻き起こる!
「ルリアーッ!!」「ヒュアーッ!!」
鋭角飛翔するゴシックロックを狙いあぐねるノダチパニッシャーにホーリーナイトとダイヤモンドリリーが挟撃!
「オノレ……オノレ……!」
再び激しい剣の応酬!一合二合三合四合!!
「何故!こんな事をするの!!」ホーリーナイトが悲痛に叫びながら剣を振るう。
「単純ナ事ナリ!」ノダチパニッシャーが叫び返す!「退廃的センチメントニ飾ラレシ異教徒ノ神殿ヲ更地トシ、カテドラルヲ築イテ千年王国ノ礎トスル!!」
「貴方……控え目に言っても狂っているわ!」ダイヤモンドリリーが連続刺突を繰り出す!
「我ハ神意ノ代行者ナリ……狂ッテイルノハ、貴様等ダ!!」二対一でも押し返される!
「てめーは愛を、知らねえんだよっ!!」ゴシックロックが上空からチェーン投擲!
直線的に飛び、先端は額を正確に狙う!
「戯言ヲッ!!」ホーリーナイトとダイヤモンドリリーが大きく弾き飛ばされる!
「男ハ女ヲ、女ハ男ヲ愛シ結バレル、ソレ以外ノモノ等所詮ハ姦淫ナリ!!」
三方向同時光線発射!
地上のホーリーナイトとダイヤモンドリリーはそれぞれ超自然の水鏡と輝く木の葉の渦で、空中のゴシックロックは地面から打ち上げた岩塊で防御する……!
ZDOOM……ZDOOM……ZDOOOM!!!!
……直撃は避けられたものの、十字架光柱の熱と爆風が三人を苛む!
ホーリーナイトとダイヤモンドリリーは何とか立ち直ったが……。
「ゴシックロックさん!?」「今助けに行くのは無謀よ!」
空中で体勢を崩し、墜落するゴシックロック!だが……「こんなとこで」
「やられてたまるかよっ!!」
おお、見よ!赤銅色の光に包まれ見事な空中制動で体勢復帰し、着地する!
「浄化ヲ……受ケ入レヨ!」ノダチパニッシャーの目は人外の狂気に満ちている。
「本当の愛ってのはな……全てを超える!!」ゴシックロックは断言した。
「驕ルナ!ソノヨウナ御業ハ神ニシカ成シ得ヌ!!」
「果たして、そうかしら?」ホーリーナイト。
「奇跡ってのはね、起こせるのよ」ダイヤモンドリリー。
「俺たちが、それを証明してやる」そしてゴシックロック。
三人は一様に、奇跡を信じていた。
――ツナギ神社御神木前――
波乃は御神木を前に祈りを捧げていた。
(お兄ちゃんが……いや、町のみんなが危ないんです、助けて下さい……)
(お兄ちゃんを……ホーリーナイトさんとダイヤモンドリリーさんを……飛鳥ちゃんを……)
気付くと彼女の手は引き寄せられるように御神木に触れる。
刹那、視界が白くなり……。
(今のは……言い伝えの姫と村娘?)
確かにその時『何か』を感じ、そして……!
「えっ、何!?」
御神木が虹色に輝き始め、やがて頂から三つの光が放たれた!
波乃の額には黄金のインヤン文様が浮かび上がる!
――――――――――――
「アレハ……アノ光ハナンダ!?」
ノダチパニッシャーが神社の方から降って来た三つの光に驚愕する。
「どうやら本当に……奇跡が起こったみたいだぜ!」
ゴシックロックの体が光に包まれる!
「フザケタ事ヲ!!」再び光線を放つノダチパニッシャー。だが黄金の光にかき消され些かの効果もない!
光が薄れるにつれその中からシルエットがあらわになる。
周囲には黄金の果実めいた球体が多数浮遊。身につけたチェーンからは白銀の粒子が雪めいて散り、額に浮かぶ文様は分かれたインとヤンが完全に合わさり黄金に輝く。
『待ってたぞ、波乃』(うん、これでわたしも戦える)
「どういうこと?」ダイヤモンドリリーが問う。
『詳しくは後だが、波乃の意思が僕の中に入っている!』
そう言うと、金と銀の光を纏いながら猛然と加速!背中のCDプレーヤーからは有名クリスマスソングのロックンロール・アレンジが流れる!
『今から僕の名は!』『ゴールドアップルです!!』
美津地と波乃の名乗りが重なり、新たな名を定義する!
『ハイシャアーッ!!』ゴールドアップルは黄金球体を雨霰と発射!
ノダチパニッシャーは突っ込んで切り払おうとするが……『セイッ!』「グヌヌーッ!?」
誘導弾じみて軌道を変化させる黄金球体をかわしきれず、連続で被弾!
……一方ホーリーナイトとダイヤモンドリリーの体も光に包まれていた。
……シャララァシャララァシャララアァァン……!!
二人の首飾りがジングルベルじみた音を立てて激しく共鳴する。
「龍脈を……繋ぎの力を感じるわ」とダイヤモンドリリー。
「奇跡を起こしましょ、あの時みたいに」ホーリーナイトが応える。
二人は互いに手を伸ばし、指を絡め合う……。
ゴールドアップルとノダチパニッシャーは至近距離の打ち合いにもつれ込む!
『ハイシャアーッ!!』
陰陽繋木之神剣とノダチブリンガーが激しく激突、火花を散らす!一合、二合、三合!
さらにゴールドアップルの周囲の地面の小石や土塊が浮き上がり次々と黄金の粒子を纏って膨れ上がる!
「何トイウ執念……ダガ我ハ天草四郎時貞、天照ガ来ヨウト如来ガ来ヨウト神意ノ執行ハ阻メヌ!!」
『果たして、それはどうかな!?』
ツナギ神社大鳥居の前から大いなる七色の光の柱が立ち昇る!!
――――――――――――
……おお、ガウランガ(金色の体を持つ者)よ。
あるいは、冬至祭におけるミトラ(太陽神)の復活。
またある者には、サンタマリアたるイザイア(乙女)の象徴。
そのアシンメトリーかつ神秘的な美しさを表す言葉があるならば……
それは『奇跡』に他ならない。
……それこそがホーリーナイトとダイヤモンドリリーを肉体の枷を超え合一させたのだ!!
――――――――――――
『……私達はマリンガーランドです……!』
クリスマスツリーじみた緑の衣装にサンタ帽とサンタジャケット、全身には果実や種子をを実らせたツタに真珠を連ねた飾りなどを身に付け、黄金と白銀に変わったガントレットは瞬く星めいて生物発光する。木質のレッグガードは常盤木の幹が如し。
整った顔の左側で固く閉じた蕾めいてロールした髪は後頭部に向かうにつれ徐々に開き、後ろ髪は虹色に波打つ。右横側は蒼く長いストレートがなびいている。
紅い左瞳は熟れたベリーの如くますます深みを増し、蒼い右瞳はセントエルモ火めいて神秘的に燃える。
二つの首飾りが輝くと、額の文様……二人のそれが重なった、花芯を備えた百合めいた六弁花が鮮やかに浮かび上がる!!
『ルリュアァーッ!!』マリンガーランドが神々しきシャウトを上げる!
彼女の体にオーロラじみた光のマントが翻った!
「何ガ……何ガ起コッテイル!!」
『奇跡だよ……ハイシャアーッ!!』
ゴールドアップルは陰陽繋木之神剣を振り抜く!光の粒子が白銀の軌跡を描いた!
「グヌヌーッ!?」ノダチパニッシャーが大きく押し戻される!間髪入れずにゴールドアップルが黄金球体を連続射出し追撃!
そこにマリンガーランドが滑走接近する!
「サセヌ!!」黄金の爆発の中から血赤のスパークが!『来るわ!』
ZAAAAAP!!!!「ウオオオオ!!!!」『ルリュアァーッ!!』
ノダチパニッシャーの額から放たれた禍々しき赤い光とマリンガーランドの額から放たれた神秘的な紫の光が激突!
赤い死の十字架を紫の光が描く桔梗五芒星が押しとどめ……相殺!
「何ダト……!?」
そのままマリンガーランドは突撃!白銀に輝く左ガントレットからカツオノエボシ触手を射出!
クリスマスガーランドじみてノダチパニッシャーの腕に絡みつき、刺胞毒で苛む!
「グオーッ!?」『ルリュアァーッ!!』
黄金に輝く右ガントレットが両刃剣にモーフィング、翠の光を放ちその形はモミの木めく。
マリンガーランドは触手を引き戻し、体勢を立て直される前に斬りかかる……!
……手応えあり!波乃の矢が射抜いた古傷をさらに切り裂いたのだ。だが、浅い!
跳躍し唸り声と共に躍りかかってくるノダチパニッシャー。
『……!!』『おっと、危ねえ!!』
空中で幾つもの黄金爆発!ゴールドアップルのカバーが入ったのだ。
「アバーッ!?」ノダチパニッシャーは無防備墜落!
そしてノダチブリンガーはクルクルと宙を舞い……地に突き刺さった。
「神ヨ!ハルマゲドンダ!我ニ力ヲ!!」
身一つでなお尽きぬ妄執を糧に立ち上がってくるノダチパニッシャー。手首の傷も殆ど塞がっている!
『まずは私達三人で動きを止めましょう』
マリンガーランドの提案に、ゴールドアップルも首を縦に振る。
『なら、徹底的にやろう』
――――――――――――
「ホザケ!!」
ノダチパニッシャーは二方向に光線発射!
だがマリンガーランドの前では蕾が開花するように水の凹面鏡が現れ、ゴールドアップルの前には黄金エンチャント岩石モノリスが。
光線は反射され、ノダチパニッシャーの目前に二つの十字架光柱が上がる!
「ウオーッ!!!!」
光柱の間を猛り狂うノダチパニッシャーが突撃してくる。だがこれは想定の内!
『甘いわね』『隙だらけだ!』
マリンガーランドは胸の前で両手を合わせてエネルギーを溜め、ゴールドアップルは一際大きな土塊から巨大黄金球体を生み出す!
ノダチパニッシャーが異常に気付いた時には、もう遅い!!
『ルリュアァーッ!!!!』
マリンガーランドが両腕を突き出し、掌を花めいて開く!
『ハイシャアーッ!!!!』
ゴールドアップルが右掌底を思い切り突き出す!
「何イッ……!?」
マリンガーランドが放った虹色の奔流とゴールドアップルが放った金銀に彩られた光球が同時にノダチパニッシャーを直撃する!
「オゴ……オゴゴゴッ」
二つの力の同時爆発が眩い光の八芒星を刻む!!
『まだだよ、手を止めちゃだめだ!』『ええ、わかっているわ』
吹き飛ばされたノダチパニッシャーを滑走猛追するマリンガーランド!ゴールドアップルは重力制御で上空へ……!
「ウグーッ……!」『ルリューッ……』
マリンガーランドは右腕に白銀のオーラを纏わせる。ノダチパニッシャーの体勢はまだ立ち直っていない……接敵まで3、2、1……!
『ルリュアァーッ!!』「アバーッ!!」
鳩尾への強烈なアッパーが決まり、雪めいた光の粒と共にノダチパニッシャーが空中高く吹き飛ぶ!
そこへ急降下したゴールドアップルの黄金重力加速飛び蹴り!『ハイシャアーッ!!』
空中でこれを回避する術はない!!
「アバババーッ!!」ビル壁に叩き付けられるノダチパニッシャー!
一般のヤクザ・トルーパーならば原形をとどめまい。異能エージェントでも数回は死ぬ威力だ……だが、死んでいない!!
ゴールドアップルが口を開いた。
『僕が押さえておく。後は頼んだよ、マリンガーランドさん』
マリンガーランドが応える。
『任せておいて、ゴールドアップルさん』
ここまでのダメージの回復には時間がかかる。ゴールドアップルはグロッキー状態のノダチパニッシャーの両足を掴むと重力制御で上昇、さらにビル壁に逆さに押し付けた!
『これでも!食らえ!!』「アバーッ!!」
さらにビルの壁に立ち、剣を腹に突き立てる!
だがノダチパニッシャーも抵抗し、腕を振るいゴールドアップルの足を掴もうと……!
「ヌグーッ!?」茨がノダチパニッシャーの四肢を拘束!逆さ十字めいた姿で磔にされ抵抗できぬ!
無論マリンガーランドの操るものだ。「悪魔メ……悪魔メ!!」『往生際が悪いわね』
マリンガーランドは地面からサンザシの樹を生やすと、それを折った。
握られた枝が翠の光に包まれ瞬く間に白木の杭に変ずる。
「大地と」
サンザシ白木の杭の先を清水めいた紺碧のオーラが覆う。
「海の」
輝きと共に杭の先が塩で覆われ、槍の穂先めく。
『清めの力重なりて』
塩の穂先を備えた白木の槍でノダチパニッシャーの心臓を狙う!
『悪心を……穿つ!ルリュアァーッ!!』
投擲!狙い違わず左胸に突き刺さる!!
「アバババーッ!!!!」
致命傷だが、まだ死なぬ!まだ浅い!!
『本当に往生際が悪いな!ハイシャアーッ!!』
着地したゴールドアップルが隣に立ち、重力操作で最後の一押し!杭が黄金に輝く!
そして遂にノダチパニッシャーの心臓を貫いた!!
「アババッ……何故ダ……我ハ天草四郎……時貞……アバッ」
杭打たれた傷から青黒いエクトプラズムが噴出!
「アババババーッ!!!!」
十字架型のエネルギー爆発と共に今度こそノダチパニッシャーは絶命した。
後には灰めいて朽ちた骸が残るのみ。
――――――――――――
気付けばもうすっかり日も沈み、辺りは薄暗くなっていた。
「そっちは終わったみたいだな」「「あなたもね」」
マリンガーランドは光の粒子に包まれ、ホーリーナイトとダイヤモンドリリーに分離してゆく。
ゴールドアップル……今やゴシックロックの纏う黄金の粒子もすでに消えつつある。
戦いは終わったのだ。
「最後のアシストありがとうね」ホーリーナイトが感謝を述べる。
「私達三人が力を合わせた勝利ね」ダイヤモンドリリーが続く。
「三人?いや、それは違うぜ」
陰陽繋木之神剣を拾い上げたゴシックロックがある方向を指差す。
「四人……いや、五人だ」
その方向には肩を組んで立つ波乃と飛鳥の姿があった。
「やったね、お兄ちゃん……!」
その姿に皆思わず顔をほころばせる。
……その時ホーリーナイトが声をあげた。
「あっ、流れ星!!」
ツナギ神社の上空に眩い流星が流れる。
「本当、綺麗ね……」「ああ、最高の気分だ」
「波乃っち、どこ!?」「後ろ後ろ!あーっ、行っちゃった……」
それはまるで彼女達への祝福のようだ。
彼方の御神木には未だ奇跡の残光がイルミネーションめいて煌めいていた。
――数日後・ツナギ神社境内――
「あんな事もあったけど、クリスマス来ちゃったわね」
そう呟くのはホーリーナイト。
あの一連の動乱は対外的には警察特殊部隊の一部が企てたクーデター行為として処理され、野立四郎区議長は責任を取って辞任したとされている。
未確認飛行物体の目撃情報がインターネット上で拡散されているが、日本政府及びノダチ区はこれを公式に否定している。
「ねえ、クリスマスツリーの由来って知ってるかしら?」
ダイヤモンドリリーがホーリーナイトに問う。
「そりゃあ、キリスト教の……」「ところが、違うのよ」
「元々はゲルマン人が冬でも葉を落とさないカシのような常盤木の生命力を信仰対象とした土着のものなの」
ダイヤモンドリリーは植物だけでなくそれにまつわる文化や伝承にも詳しい。
「樹木信仰ってやつ?」
「そういう事。キリスト教が入った時に三角の樹形が三位一体でどうたらとかでモミの木になった訳」
「なるほどね……」
そして二人はあの御神木を感慨深げに見上げる。
「お前ら、なかなかお似合いじゃねえか」
その言葉を発したのはゴシックロック……即ち美津地である。
それは波乃と飛鳥に向けられたものだ。
「えっ……ほんとに?」「だってさ、波乃っち!」
「飛鳥……正直言うと、俺はお前に嫉妬してた」
喜んでいる二人をよそに、美津地はシリアスな表情を浮かべる。
「だが飛鳥、お前は波乃を何よりも大事にしてくれた」
その言葉に、飛鳥の表情が明るくなった。
「美津地の姉ちゃん……!!」
「……これからも、波乃の事頼んだぞ」
「わたしからもいいかな」
今度は波乃が美津地に問いかける。
「お兄ちゃんは今までずっと隠していた、それで苦しんでた」
「波乃……気付いていたのか?」
「ううん、今日気付いたの。陰中の陽……姿はお姉ちゃんだけど」
美津地は波乃の言葉を聞き、それが真である事を魂で感じた。
「そうだ。俺の心は男で、波乃の兄だ……それを認めたらあの力が目覚めて、波乃を助けられた」
「……自分に素直になれてよかったね、お兄ちゃん……!!」
これもまた、クリスマスの奇跡なのだろう。
「それにしても、本当にお互いの波動を感じちゃったわね」
「これがなかったら本当にどうなっていたか……」
お互いの首飾りに触れながら語らうホーリーナイトとダイヤモンドリリー。
「そういえば何であなたはノダチ区に来たの?」「そういう貴方こそ」
「わたしは……ヤクザ・コーポの暴虐を感じて駆け付けたのよ」とホーリーナイト。
「貴方らしいわね。私は花を売りに来たら騒動に巻き込まれた形」ダイヤモンドリリーが返す。
「花屋さん始めたの?」「まあ、ちょっとね」
顔を寄せ合い談笑する二人。
「そうだ、魚売らないと!牡蠣でしょ、ロブスターでしょ、あとサケも!」
ホーリーナイトが思い出したように立ち上がる。
「私も花売りに来たんだった、ネリネにポインセチア!」
ダイヤモンドリリーも本来の目的を思い出す。
「夜はあたしの家でクリスマスパーティーしない?」
「俺ん家の方が広いからそっち使おうぜ!」
「繋木ん家神社だけどそこらへんどうなのよ?」
「わたし達のとこはその辺大雑把だから大丈夫!!」
「「「そこの二人、商売終わったら神社集合!!!」」」
「「えぇーっ!?」」
粉雪がちらつき始めている。
今年はホワイト・クリスマスになりそうだ……。
【偽りの天使と三人の巫女:完】
▼こちらの企画の参加作品です!▼
あとがき
のりもんさんからバトンを受け取った12/6担当はこのわたし!無銘お姉さんよ!!
……といつものように大見得切りたいんだけど去年同様体力の限界が近づいてます(ここ書いてる時点で前日の22時半)
そもそも一桁台担当で3万文字も書いてる時点でお察しよね。
……愚痴はこれくらいにして、何とかなったので作品の話。
パルプアドカレという事で、前回の魚屋さんクリスマス編に登場したホーリーナイトを軸に今回も魚屋さんでいくことに決定。
さらに百合書きたい欲が高まっていたので、過去に登場したある人物をクリスマス仕様で出して、現地にも百合カップルを……こんな事してるから字数が増えるのよ!
なお現地追加戦士は最初に巫女姉妹が出てきた時に閃いた模様です。
ノダチパニッシャーのキャラ造形は前から決まっていたので、そろそろ出そうと思って投入したわ。
クリスマス……あの男……刀……天草四郎……という連想ゲームで天草四郎と絡めようとしたけど、お前のような天草四郎がいるか問題とそもそもわたしが天草四郎にあまり詳しくないので、自分を天草四郎と思い込んでいる狂人になったわけ。
覚醒した美津地の「これが俺だ」はオーフェンの影響が強いですけどなんかシルバーキーっぽくもあるわね。
爆発的な強い自我をシンプルに表してみました。
波乃からの二人称が変わるのもポイント。
ラストでちょっと触れられましたが、この姉妹の姓は「繋木」です。
他にもやたら小ネタを詰めたので長くなっちゃったわ。
ちょっとした疑問とかはコメント欄にぶつけると答えるかもしれない。
明日12/7のパルプアドカレは遊行剣禅さんの『オソーシキ・イン・メリークリスマス』!お楽しみにね!!