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朗読劇「金曜日に待ち合わせ」



読み手さんに朗読していただいたので、ぜひぜひ再生しながらお楽しみ下さいませ✨

「はいはーい。うん。今?もういるよ。うん、いつものとこ。外灯の下のベンチに座ってる。急がなくてもいいよ。そんなに寒くないから。うん、もう暗いから気をつけて来てね」

・ ・ ・

『ごめんごめん、お待たせ。あ、またその本読んでるの?好きなんだね。もう何回も図書館で借りてるよね』

「もう、これで、三回目。この本さ、ラストで主人公の能力がなくなっちゃって、泣けるんだよね。あ、いつものヤツは?持ってきた?」

『うん。はいこれ、いつものチョコレート。』

「うわー、これこれ。可愛いー。包装も中身のチョコレートも全部可愛くて、しかも美味しいんだよなー。ありがとう。高級すぎて庶民の僕には、とても買えないからね。ほんとにもらっちゃっていいの?」

『どうぞ。私、甘いのそんなに得意じゃないから』

「いつもありがとうございます。美味しくいただきます。なんか….今日は元気ないね。うまくいかなかった?」

『ううん。うまくいったよ。ちゃんとピアノ弾けたし』

「じゃあ、ピアノの先生に怒られちゃった?」

『ううん、怒ったりしない。いつも先生、優しいから』

「じゃあなんで元気ないんだよー」

『あのね』

「どしたの?」

『あのね、もう、チョコレート、貰えなくなっちゃうんだ。」

「え、どうして?」

『先生、レッスン辞めちゃうんだって。私、全然知らなくて。』

「そっか。まあ、でも、他に探せば、いくらでもピアノの先生くらい見つかるんじゃないの?その先生が好きだったの?」

『そうじゃなくて』

「ああ…先生、どこか具合が悪いのか。それは心配だね」

『そうじゃなくて!』

「違うんだ….じゃあ、なに?」

『チョコレート!レッスンの後に君の好きなチョコレートをくれる先生なんて、他にはいないんだよ?』

「それは…そうかもしれないけど…別に..僕は..」

『君にチョコレートをあげた時にね、君が喜んでくれて、すごく嬉しかったんだ。だから….あの先生、ミスしてもなんでも褒めてくれて。優しいけど、甘すぎて、ほんとはあんまり好きじゃなかった。でも。君が好きなチョコレートをいつもくれるから』

「え!それじゃあ、僕にチョコレートを渡すために、嫌いな先生のレッスンを受けてたってこと?」

『うん。でも先生辞めちゃったら。金曜日。この公園で、君との待ち合わせがなくなっちゃうって思うのが、淋しくて」

「ちょっとまって!それって、僕がチョコレートを貰うために君に会ってた、みたいにならない!?(力の抜けた笑い)そんなことあるわけないよ。チョコレートは好きだし嬉しいけど」

『そんなつもりで言ったわけじゃないけど。でも君に会っても、私、君になんにもあげられない』

「あのね。僕の読んでるこの本の主人公は、人を癒やす力を持っててね。いつも村の人たちの傷を癒やしてあげてたんだけど、ちょうど伝染病が流行った時にその力を使えなくなっちゃって。村の人の大切な子どもたちを救えなくて。こんな時に力が使えないなんて、役立たず、って村の人たちにひどく恨まれたんだ。このお話を読んで、僕はすごく腹が立った。だって今までさんざん助けてもらってたんだよ。だからすごく悲しくて」

『それで?その人はどうなったの?力を取り戻したの?』

「ううん、お話はこれでおしまい。きっと力を取り戻さないまま生きていったんだと思う」

『悲しいね』

「うん。でも、それで本当の自分になれたような気もするんだ。力があってもなくても自分は自分でしょ?だから主人公は、力をなくしたその後に、本当の幸せを見つけるんだと思う。小さな幸せかもしれないけど、僕はその後の物語を想像するのが好きなんだ」

『うん、そうかもね。君は優しい人だね』

「そうかな?こういう気持ちはこの本が教えてくれたのかも。だから、君がチョコレートを持ってても持ってなくても、ピアノが上手でも下手っぴだったとしても、君は君だよ。僕の大切な友達だから。ね。理由なんかなくても、また待ち合わせしようよ」

『ありがとう。でもピアノは上手だから!』

「ほんとに?じゃあ今度聞かせてよ」

『いいよ、また今度ね』

金曜日に待ち合わせ

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