2021年夏、バングラデシュ-日本学生交流プログラム(BJEP2021)開催に向けて
Jamilur Reza Choudhury(ジャミラ・レザ・チョードリ) 教授と聞いてもピンと来ないであろう。彼はバングラデシュ人であり、バングラデシュのために多大な功績を遺した著名人である。同国資源エネルギー大臣を務め、名門ブラック大学やアジア・パシフィック大学や副総長も歴任した。
私は、自身が関わる団体(AAEE, 一般社団法人アジア教育交流研究機構)を支えてくださるバングラデシュの知人を介して彼と2012年に知り合った。その友人はAAEEの活動をジャミラ先生にメールで紹介してくださり、その後、私自身も彼と何度かメールでやり取りをした。その後、私がバングラデシュの首都ダッカに赴き、アジア・パシフィック大学の副総長室にて初めて面会を果たした。
一国の大臣経験者であり、国民の尊敬を一心に浴びる教育・研究者である。与えられる時間はわずかであろう。伝えたい2つのメッセージを前日に頭に叩き込んで面会に備えた。
1. AAEEのアドバイザーになってくださったことへの感謝の意を伝える。
2. バングラデシュで2週間の国際交流プログラム開催の協力を得る。
相当に緊張しながら副総長室をノックしたが、しかし、目の前に現れた彼は、一言で表せば「威厳に満ちた偉人」というよりも「笑顔の素敵な優しい紳士」であった。私をあたかも「友人」であるかのように迎え入れてくれ、さらに、彼の第一声はいい意味で私を大混乱に陥れた。
「よく来てくれた。まあ、ゆっくり話そう。バングラデシュでの国際交流プログラム、絶対やりましょうね。気候的には2,3月が一番いいと思うよ。」
私が絶対に伝える!と心に決めていた2つのメッセージが、彼の口から、しかも出会った直後に発せられたのである。想定外の展開に驚き、若干戸惑いつつも、彼の発する一言一言に注意深く耳を傾け、また私自身の意見を正確に彼に伝えることに集中した。
直前に秘書から「20分程度」と聞かされていた会談は実に2時間に及んだ。途中、何度か彼の秘書が「次の予定がある」と促したが、彼はそれを制して、私との議論を続けてくれた。嬉しかった。別れ際、私の肩を叩きながら彼が残した一言に私は感極まり、心の中でガッツポーズを繰り返した。
「バングラデシュでは2015年の開催に向けて根回しをしていくので、あなたは、学生さんたちとぜひ素晴らしいコンテンツを作り上げてください。」
さらに、よりよいプログラムとするように、著名な方々を何名もご紹介いただいた。その中にはグラミン銀行の創設者であり、ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス先生も含まれていた。
しかし、その後現地の政治情勢が次第に不安定化し、その上過激派組織「イスラミック・ステート」(IS)の台頭の悪影響がバングラデシュにも及び、我々の構想をしばらく延期せざるを得なくなった。それでも、我々の強い意欲は変わらず、「状況が落ち着いたら必ずやろう!」と定期的に励まし合っていた。
気が付けば2020年、BJEP国際交流プログラムの構想を開始してから8年が経過していた。新型コロナウイルス、パンデミック。日本では2020年4月28日に緊急事態宣言が発令された。
大混乱の最中に、最悪のニュースが何の前触れもなく飛び込んできた。
ジャミラ先生急逝。
にわかには信じられずネット検索をしたら、残念ながら事実であった。
https://www.thedailystar.net/country/news/national-professor-jamilur-reza-choudhury-no-more-1897534
あまりのショックに絶句し、ただただ絶望感に打ちひしがれた。バングラデシュ人民共和国に取って大損失であることは間違いないが、AAEEにとって、そして私自身にとっても大損失であった。国際交流プログラム実現に向けた8年にも及ぶ準備も泡と化した・・・いやいやそんなわけにいかない!
「ジャミレ先生、私はいつか必ずやりますよ!」
私は心に固く誓った。
そして、ジャミレ先生が他界してわずか4ヵ月後の同年8月下旬、「第一回バングラデシュ-日本学生交流プログラム(BJEP2020)」のオンライン開催に漕ぎつけた。このプログラムはバングラデシュの国民的教授 Jamilur Reza Choudhury先生の追悼イベントとして現地の教育者や学生達の間で大きな注目を浴びた。開会式の挨拶において、私はジャミレ先生への追悼よ深い謝意を述べた。
ジャミレ先生はAAEEのアドバイザーであり、AAEEのホームページには今でも彼の名が記載されている。本来故人の名は削除するべきであることはわかっているが、しかし、今も彼への思いを捨てることができないでいる。
今年もBJEP2021の開催が決まり、両国の素晴らしい学生オーガナイザーを中心に懸命に準備を進めている。昨年に続きオンライン開催であり、様々な困難や制約があるが、ジャミレ先生の声援は常に私たちを支えてくれるだろう。
「両国の学生が互い視点を取り入れながら思考を深め成長していく。」
ジャミレ先生と共に目指してきた目標を実現すべく、学生と共に全力を傾けていきたい。
文責 関 昭典
(AAEE, 一般社団法人アジア教育交流研究機構代表理事)
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