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擬似体験録-きさらぎ駅

【きさらぎ駅】

この作品は実際に行ったTRPGでの心理、展開を物語として書き起こした物である。
(後半はログ見ながらやっつけ書きになってる..,)

ー認知世界の概念ー

認知世界とは多様である

起床し目覚めている時に脳が認知する現実世界。

眠りから始まる夢の世界。

此度はそんなおはなし。


「現実」と呼ばれる世界では「夢の世界」に比べ泥酔やトリップ状態、または何かしらの事故や病気に陥らない限り「記憶を無くす」といった事は滅多に無いと言っていいだろう。

物忘れやその頻度が多いなどはそれらの該当外とし。

一方で「夢の世界」では鮮明に覚えていることもあれば、曖昧に覚えてること。
「夢を見た」ということは覚えているも内容が記憶に残っていないこと。
はたまた夢の世界に入った事をそもそも認知していない等、夢の認知の仕方は多様である。


「夢の世界」にいる時、そこが夢の世界であると認識できたことはあるだろうか。

稀にあるかもしれない。
頻繁にある者は少数派であろう。

夢の世界で、その状況が良くも悪くも「これは夢だ」と己に言い聞かせることがあるだろう。

それは夢世界だけに限らず個人差こそあれど現実世界でもそう思う事もあるだろう。

夢と現実、脳が認知しているふたつの世界、

現実の世界は滞在時間が多く、またそれは生きていく上での基盤となりその世界の状況へ顕著に影響する。

方や夢世界とは気まぐれなモノ。
場所も、時間も、立ち位置も、己が己であることも。
不可思議な世界、現実と酷似する世界、 
理想郷、地獄と無作為に眠りという行為を行っている時に望むも望まずとも、半ば強制的にその世界への門をくぐる事となる。


夢の世界にいる時の脳は文字通り無我夢中、現実世界にいる時との体感となんら変わらない錯覚をしている。

感情にいたっては現実とさほど変わらないと言っていいかもしれない。

むしろ夢世界の方が自己では意識していない無意識下の深層心理に触れていることすらある。
心象風景や危機的又は好機的な状況下での己の本質など。

夢世界での体験と現実世界の体験。

これより語るは、あるきっかけがなければ絶対に目覚める事のない摩訶不思議な夢世界の門をくぐってしまったある2人の男の『夢物語』。


ー本編ー

その日は友人との約束の日だった。

約束をした友人と知り合ったきっかけは元職場の友達からの紹介だった。

直接の面識こそなかったがオンラインゲームを共にやり始めたのをきっかけとし、世間話や互いのちょっとした過去話などにも華が咲き

仕事の依頼やプライベートの相談などを聞く仲にもなり顔を合わせた事は無いものの「友人」と呼べる間柄となっていた。

そしていつか近いうちに遊びがてら会おうという事になったのがその約束の日だった。

待ち合わせは5月23日、12時に東京の池袋駅に隣接する百貨店内の喫茶店「ギャラクシーバックス」

予定より10分程早く着いたので先に飲み物を頼む。

「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします」

コーヒーの味に定評のあるカフェのためメニューの大半はコーヒーベースのドリンクだった。

しかし生憎コーヒーはあまり飲まない。

悩んでいると
「只今季節限定のイワシフラペチーノをおすすめしておりますがいかがでしょうか?大変ご好評頂いております!」
カフェの女性店員が蔓延の笑みを見せてくれた。

あぁ、そうだなぁ..じゃ紅茶を頼もうかな、アールグレイで何もつけなくてもいい。

「かしこまりました!只今お作りいたしますのであちらのカウンターでお待ちください!」

そのあと女性店員の笑みが一瞬鬼の形相となり舌打ちの音が聞こえたのは気のせいという事にしておこう...

ドリンクを受け取り2人がけの席を適当に見繕うと、一旦テーブルに飲み物を置き煙草を吸うために喫煙室に向かった。

愛煙家であるためこのご時世に未だに紙煙草。
銘柄はメンソール系や葉巻も嗜むが主にパーラメントのショート。

昨今の喫煙所の風景は流行りの電子タバコを吸う人が多く見受けられ、見慣れた光景ではあるもののつくづく時代の変化を感じる。

食わず嫌いというわけではなく色々な電子タバコを試してはみたが性に合わなかった。
中には水蒸気にフレーバーを加えた物などは嫌いではなかったが煙草の代用にはならずまた別の趣向品だと思った。

この流れで自己紹介をしておこう。

名は紫咲(ムラサキ) シヨ 32歳
独身、職業:自営業兼色々、
趣味:ゲーム、読書(SF、時代物、神話物、その他9割ライトノベル1割)、アニメ全般、映画、映画館に行くこと、水泳。 直感的なタイプ。

煙草に火をつけ
携帯電話で時間を確認し、「LIME」でメッセージを送る。

『着いたから適当に座ってる、黒字に柄のある半袖シャツが俺』

即、既読が付き
『ごめん、今改札出たから少し遅れる』
と返ってきた。

一服を終え席に戻ると紅茶が程よく冷めていた。
猫舌の俺には丁度良い。

すると間もなく注文カウンターの方から
「あぁ待ち合わせです」と聞き慣れた声が聞こえた。

その男は周囲を見回すとすぐに目が合いおそるおそるこちらの席に向かって来た。

矢持 星(ヤモテ ホシ) 27歳
独身、職業:フリーランスプログラマー
趣味:ゲーム、アニメ、動画鑑賞、各種電子系創作、世間話、 論理的なタイプ。

「ムラサキさん...?」

「遅いぞホシ...、ははははイメージ通りだな、にしてもよく俺のことわかったなあ。」

ホシの写真は見たことはなかったが世間話の流れでなんとなく聞いていた特徴と直感ですぐに本人だとわかった。

こうして、今まではチャットやネット通話でしか話した事のなかった間柄、共通する趣味はあれど性格も行動も正反対の二人の男達が最初の対面を果たす。

「よかったぁぁ!まぁ写真は見てたから目が合った瞬間なんとなくわかったけど、違ってたらまぁじ気まずかったよー、安心したぁわぁ...」

とりあえず飲み物でも頼んで来なよ、疲れたろ。

「そうするわぁ、喉乾いた。」

ホシはフリーランスのプログラマー故に100%在宅仕事、たまに買い物に出るとは聞いてるものの食事もほとんどデリバリーで済ますため
久方ぶりの外出で疲労感もあるだろう。

「おまたせぇ〜、ちょっと並んだ...」

疲労感まじりに席に座るホシ

トレイにはイワシフラペチーノとお冷が乗っていた。
(此奴...さては通か)


「しかしまあこうして実際会ってみた所で全然初対面て感じしないなあ..」

「まぁあれだけ話してればねぇ、ムラサキさんも写真はみてたけどイメージ通りだわぁ。」

ホシは相当喉が乾いていたのであろう、
お冷を一気に飲み干していた。

特に予定も決めずに会う約束をしたものだからこれから何をしようかと相談する。

「そういやあ、行き当たりばったりで会う約束したもこれからどうすっかあ、ホシなんか見たい映画とかある?」

「映画かぁ、とりあえず飯食いたいなぁ〜もう腹減ってしかたないわぁ」

「そうだな、まずなんか食い行くかあ、この近くに美味い肉丼屋がある、そこでいいか?」

「いいねぇ〜うまそぉ、そこ行こう!」

ひとまずの方針を決めカフェを出るべく席を立つ二人。

ふとテーブルに目をやると、そこにはいつのまにか完食されていたイワシフラペチーノの空容器があった...
(此奴...デキるな)


そうして紫咲おすすめの肉丼屋で腹を満たすと
腹ごなしがてら池袋のあちこちの店を歩いて見て回ることにした。

フィギュアショップ、アニメグッズ専門店、書店、PCショップ。
二人共各々の好きなモノに目を輝かせながら巡っていたものの、『持ち帰るのが面倒』という理由で特に何も買わなかった。

巡っていた道なりの中に立ち寄りはしなかったものの興味を引く店があった。

「なあホシ、最後に一つだけ店寄っていいか?さっき通ったミリタリーショップ見てみたいんだ。」

「そんな店あったっけ?てか、ムラサキさんサバゲーとかやるの?」

「いや、サバゲーなんて小さい頃エアガンで撃ち合ってたくらいだよ。ただ、なんか気になってさ。」

「歩くのもう疲れたなぁ〜、普段運動してないからキツい..笑」

「これで最後にするよ、おまえ家でスイッチの屋内スポーツゲームみたいのやってるだろ?、平気だよ!ほら行くぞ」

疲労感漂わせるホシを半ば強制的に来た道を戻り目的のミリタリーショップまで連れて行く。

個人経営のような小さな店だった、その狭い空間に所狭しと並ぶモデルガンの数々、催涙スプレー等の護身道具も奥のショーケースに並んでいた。
なかでも惹かれたのがショーケースの隅に並ぶ数々のアーミーナイフだった。

「前にもチラッと話してたけどムラサキさんそういうの好きだよねぇ〜、そういうことかぁ〜、でもそんなの持ち歩いて平気なの?」

「なんだか刃物って美しさを感じるんだよなあ、でも中華系のは好みじゃないな。刃渡り6cm超えなきゃ銃刀法にはひっかからんよ 笑」

店員を呼びショーケースを開けてもい、その中の一つを手に取ってみた。
バタフライ型のマルチツール、その形状の美しさとそれに劣らない機能美に即決。

「これ、もらおうかな」

「え、まじで買うの?」

店員「包装しますか?」

「いや、何も付けなくていい」

価格も美しさと機能性に劣らなかった...

買い物を終え店を出るとすっかり夕方になっていた。

「なんだかんだ歩き回ったら腹減って来たなあ」

「もうこんな時間かぁ、確かに腹減った。」

無理も言って追加の店まで歩かせたホシは大分疲れただろうと思い、時間を気にせずゆっくり座れるファミレスに入ることにした。

ファミリーレストラン『ゴスト』

笑顔が素敵なウェイトレスが出迎えた。

「いらっしゃいませ!2名様でしょうか、お好きな席をどうぞ、すぐにお冷をお持ちします。」


窓側の適当な席に座るとすぐにウェイトレスがメニューと水を持ってくる。

「ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンでお呼び下さい」

とりあえずドリンクバーを頼むことにした。
予備ボタンを押しウェイトレスがやってくるとドリンクバー2つに、ホシは食べ慣れてるゴストバーガーと一品ポテトを注文した。

「俺は〜そうだなあ、ミックスグリルとライス大盛り、それとこのキノコのグラタンとガチ盛り手羽先揚げを頼むとするかな」

「え、そんな食うの...」
ホシが呟く

「かしこまりました、只今季節限定『マグロとティラミスのパフェ』をオススメしております!デザートにいかがでしょうか?」

結構ですと即答した。

「ではご注文を確認させていただきます、
ドリンクバーがお二つ、ゴストバーガーがお一つ、一品ポテトがお一つ、ミックスグリルがお一つ、ライスがお一つ、あ、ライスは大盛りですね失礼致しました!キノコのグラタンがお一つ、ガチ盛り手羽先揚げがお一つと、
マグロとティラミスのパフェがお二つ、以上でよろしいでしょうか?」

最後のは注文してない旨を即答すると
笑顔の美しかったウェイトレスの表情が一瞬だけ般若面と化し舌打ちが聞こえたのは気のせいということにしておこう...

2人とも綺麗に完食し、いつもの世間話しをしていると辺りはすでに暗くなっており、
時間を見ると20:30前だった。

「もうこんな時間かあ、ホシ帰りも結構かかるだろ、そろそろ行くかあ」

「そうだねぇ〜、あんま遅くなってもあれだし、今日は帰りますかぁ、結構歩いたしつかれた...」

ファミレスを出て池袋駅まで歩き、
池袋から新宿まで一緒の電車に乗り新宿で別れる事にした。
次の電車は都内の言わずと知れた「ヤマノト線内回り」20:57着、新宿まで10分程だろう。

電車が到着し車内に乗ると意外にも混んでおらず2人とも座る事ができた。

到着までゲームでもしていようとスマホを取り出すと時刻は20:59と表示されていた。

睡魔に襲われる。
無理もない、散々歩き回りおまけに腹は満ち、
そして、落ちる。


ーきさらぎ駅ー


気付くと電車は止まっていた
どうやら寝落ちてしまっていたようだ。

これはもしかすると終点まで来てしまったか。

それにしても終点ならば車掌か駅員が声をかけに来てもいいはずだ。

それにここはどこの駅員だ?
車内はいつも通り照明が灯っているが窓の外は真っ暗だ

自分達という乗客の存在に気付かれず列車倉庫のような場所にでも入れられてしまったのだろうか。

周りを見渡す
ホシが横で寝ているが人は誰一人としていなく列車のドアは全て開いている。

寝起きから間もない脳内で色々と思いつく限りの思考を巡らせた。

スマホで時間を確認すると21:00を表示していた。



...思わずスマホを二度見する

日付だ


5月23日 (日)
 21:00

!っ、


直感的にすべての異変を感じとる

池袋から出発して数分、ありえない。


「ホシ、おい、起きろ」

「....ん〜」

疲労と満腹感によりぐっすり眠っていたホシを起こす。

「いいから起きろホシ」

「...え〜、新宿ついた?...え、寝過ごした!?」

寝起きのホシも『終点到着感』を感じる。

「寝過ごした、ってわけじゃなさそうだ、周りよく見てみろ」

瞼をこすりながらようやく周囲を見渡すホシ

「え、暗っ、ここどこ?...」

「ここ、終点でもなけりゃ列車倉庫的な場所でもないぞ、時間みてみろ。」

「え、どういうこと〜?」

そう言われスマホを見るホシ
「ソコ」に到着して初めてスマホの日時表示を見た反応は似ていた。

二度見。

そうして言われた意味と事態を把握したようだ。

「え、まって、どういうこと?」

「だろ、車掌も駅員も来てない。他の乗員も見当たらん。まず時間的に池袋出て数分でこの状況はありえん。とりあえず最前列まで行って車掌なり駅員を探そう」

「そうだね、とりあえず電波はあるみたいだけど」

二人は座っていた席の位置から進行方向だった隣りの車両へ移る


そこでまたも違和感を感じる

移動した先の車両は先頭車両だった

「ホシ、俺達が池袋で電車待ってたホームの位置、真ん中くらいだったよな..」

「うん、...なんで、こんな一つ移動したくらいですぐ端の車両までこないっしょ...」

(FFの魔列車かっ)

車掌席を覗き込んでみるが人の姿は見当たらない
二人はとりあえず空いているドアから外に出てみる

外に出たのでとりあえず煙草に火をつける紫咲。


暗闇が広がっていたが徐々に目が慣れて来る

月明かりもわずかに出ていたので「その駅」のホームの景色を認識するのにさほど時間はかからなかった。

駅の照明はすべて消えている

田舎にあるような小さなホームの古びた駅だった
二人が立っている駅の裏手は月明かりで100m程先は見えないほどの闇が広がっている

反対側のホームには木々が生い茂る山に面していた。

駅によくある駅名が書かれた看板が立っていた

そこにはこう書かれていた。


『きさらぎ駅』


それを見た紫咲はスマホのアプリ「乗り換え案ナイ⭐︎」で駅名を打ち込んでみると、その駅名では候補が見当たらなかった。

「電波は普通に入ってるしネットには繋がるのにな、ホシそっちは?」

ホシはGPS連動型検索エンジンでその駅名を元に位置情報を取得しようと試みた。

するとそこでも奇妙な現象が起こる


「確かにネットには繋がってる、検索も普通に出来る、けどこの駅名、都市伝説の話しか出てこないんだけど、それに...これ見て紫咲さん」

そう言うとホシはスマホでGPSマップを開いて見せて来た。

その画面には『現在地』が世界各国の色々な位置を点々と移動していた

「なんだこれ、ぶっ壊れてんのか」

「ブラウザ、SNS系アプリ、チャットアプリなんかは全て正常に動作してるし情報もリアルタイムなんだけどGPSマップだけこうなんだ、他のGPSアプリも試してみたけど結果は同じだから特定の会社のサーバーエラーとかが原因とは考えずらい、どの会社のGPSでも同じ」

紫咲も自分のスマホでGPS情報を確認したが
まったく同じ現象が起きている。

現在位置も特定できず見知らぬ駅に降り立った二人は状況の把握に困惑していた。

すると、ホームの端の暗がりから何かがこちらに向かって来る事に気付く

咄嗟というよりはほぼ無意識にホシの数歩前に出る

何やらぼんやり光源を伴いながら向かってくるその「何か」。


...顔?

だんだんと近づいてくるその「何か」は人影であり、まるでオバケごっこのように光が顔を暗闇に浮き彫りにしていた。



紫咲は心霊現象などをまったく体験したこともなければ信用もしていない

むしろ10代の頃友達同士で行く心霊スポット巡りなんかではキャーキャー騒ぐ他を差し置いて図々しく乗り込んで行き、その心霊スポットと言われる場所の最奥に美しさすら感じる

20代の頃会社務めをしてた帰りには買った弁当を「静かで心地良い」という理由から一人墓地のベンチで食べる

不謹慎という意見もあるかもしれないが
自身としては「仮に死者の霊、意思などがあるのだとしたら、墓参りにくる身内も一緒に飯など食ってはくれない、たまには夕食を共にする相手がいるくらいの方が寂しくないだろう」という誠勝手な思いではあるが愚弄するような心内はないタイプの紫咲であったが

その状況、その何とも形容し難い不気味さに自分の心臓の鼓動が早まるのを感じる。

(なんだよ、こりゃとうとう『ホンモノ』にお目にかかれんのか..)

距離でいう15メートル程といったところか
「何か」の面影が見えて来る。

...女?

女性のようだ、見た感じの年齢は20代半ば頃といった所か、OL風のスカートスーツに携帯を胸元に手に持ちこちらに向かって来る。

その携帯の光の当たり方が暗闇に顔だけ浮き彫りにしていた原因か...

尚もこちらに接近して来るが殺意や悪意のようなモノは感じられなかった。

紫咲はその者に話しかける

「こんばんは」

謎の女性
「こ、こんばんは」

普通の反応だ
普通に女性が見知らぬ人と話しだす普通の反応だった
その至極「普通の反応」に紫咲は少し親近感と安堵を覚えたが警戒心は拭いきれない。
(もの怖じしてる感はないな)

一方ホシは慣れた相手には遠慮なく話し込むが
この男、「人見知り」である
慣れない相手とは話すのが苦手だった
ゆえに紫咲と謎の女性のやり取りを見守る。

「俺達池袋から乗ったんだがどうやら寝落ちてしまったようで、気付いたらここに着いてたんですよ、ここ、どこだかわかります?」

「私も電車の中で寝てしまったようで...気付いたらここにいたんです」


(同類か?しかしなんだこの違和感)

どことなく違和感、どことない「時代遅れ感」を感じる。

雰囲気?、それは感じる。

メイク?、ナチュラルメイクで分かりづらい。

服装?、女性のオフィススーツ故にその感覚の決定打にはなり得ない。

髪型?、普通の女性のセミロング、流行りや個性を表現するならば前髪だろうか、額の真ん中あたりで分けられている、これもその感覚の決定打ではない。

では匂い、
(エッチな目で見ないでもらおうか!)

シャンプー、ヘアウォーター、香水など
とくに匂いは感じられない。

(そもそも匂いを感じた所で年代などわからん、趣向品の銘柄でなら多少わかるか、だが香水とか昔ながらのモノなんかは今でも使われててもおかしくはない...)

その女性が手にしている携帯は決定的だった。
いわゆる「ガラケー」である。

すかさず、自然に、多少失礼かもしれないが、
カマをかけながら会話を続ける。

「なるほど俺達と一緒ってわけですな、しかし
その携帯、今時珍しいですね、やっぱ使い慣れですか?」

「これ社用携帯なんです、自分のを会社に忘れて来てしまって...」

ありえる、自然、ごく自然だ。
この際、非礼は承知でもう少し突っ込んでみる。

「最近買ったシャンプーとかリンスってなんです?ああ、女性なら『コンディショナー』か、とても綺麗な髪をしてらっしゃる」

などといきなり場違い過ぎたか。

「べ、別に普通のです...」

照れ隠しか、彼女は少し顔を逸らし表情までは伺えなかった。

「ははは、いきなりで失礼でしたね、でも本当ですよ」

などと苦し紛れに誤魔化してみた。
(だいぶ苦しいな..)


「ああそうだ、俺は紫咲シヨと言います、よければお名前を伺っても?」

名前は多少目安になり得るのではないか
よくある名ならアウトだが
最近はよくある名の読みでも充てる漢字が洒落てたりする。

「はすみ、です」

「はすみさん、はあ良い名ですね漢字はどう書くんで?」

「ひらがなで『はすみ』です」

(今時ひらがな、のみというのも珍しいが...不自然とは言いきれない)

「ひらがなで「はすみ」さん、いいですね。
これは友達のホシです、ほらホシ自己紹介」

沈黙を守っていたホシが口を開く

「矢持ホシです」

この流れで聞いてみるか。

「はすみさんは苗字は?」

「...はすみです」

(照れ屋か、まあ会って間もない相手じゃな)

もの怖じるようには見えないが所々照れているのか、またも顔を少し逸らし表情は伺えない。

「まあお互い困っている事だしこんな所に夜女性一人ということにもしがたい、よかったら一緒に帰り方を探しますか、ホシも別に構わんだろ?」

「こんな状況だしそのほうがいいかもね」

「はい、そうさせてもらいます」

三人は行動を共にする事にした。

「はすみさんはスマホを今持ってないか...
さっきホシと現在地を確認してみたんだが電波は普通に来てるがスマホのGPS情報がめちゃくちゃだったんだ」

「スマホ...」
彼女が小さく呟く


(若干語尾が疑問を帯びていたように聞こえたのは気のせいだろうか)

「紫咲さんのもそうだったから、はすみさんのでも試してみたかったけどしかたないね、とりあえず警察とかに電話してみようか」

「電話は繋がりませんよ」

ホシの言葉に対し間髪いれずの即答だった。

「わ、私もさっき試したんです、メールもダメで...とにかく、繋がりませんよ」

(なんだ、どこか不自然だ)

そう言われるとホシはダメ元で違う方法を試す。

「SNS系はイケたからDC(ディスリコード)の通話とかチャットならどうだろう..」

「俺もLIME試してみるか」

二人はそれぞれ思い当たる電話とメール以外での他者への連絡方法を試す。

[紫咲スマホLIME  よく話す友達リズへ]

<よくわからん「きさらぎ駅」ってとこにいるんだけど、帰り方もわからないし電話も繋がらない)

数秒後

「あ、既読ついた」

[紫咲スマホLIME  リズより]

<ww都市伝説やんw楽しんできてww)

「...だよな...」

ホシは通話機能付きチャットアプリDCですぐに応答が見込めそうな相手に通話をかけていた。

出ろ出ろ....!
あ!イリス?!ちょっと待ってて
紫咲さん!通話繋がるよ!
イリス、俺ら電車でよくわからないとこに辿り付いちゃったんだけど....
場所?きさらぎ駅ってとこ....
いやマジだから....おいイリス!...
はぁ〜...
『都市伝説乙』とか言われて切られたわぁ」

「だろうな...」

狼少年ほど素行が悪くなくとも、いきなり友人からそんな連絡がくれば当然の反応であろう、ましてや有名な都市伝説のスポットの名が出るなら尚の事。

その二人のやり取りを彼女が少し楽しげな表情で見ていた事に俺達は気付かなかった。

「こうなったらこの状況とか風景Live配信してみるわ、中には信じてくれる人いるかも」

そう言うとホシはスマホでSNSと連動させLive配信をし出した。

すると彼女はそれに興味があるのか一瞬笑顔を見せたかのように見えた。

「おいホシ、するはいいがそんなLiveなんかしててバッテリー大丈夫か?」

「大丈夫、優秀な携帯バッテリーあるから48時間くらいは余裕、お、視聴者さっそく出てきた」

[視聴者コメント]

・夜に本格ドキュメント乙
・舞台どこww本格的w
・今時流行らねーよw
・廃駅でも不法侵入w

「まぁ最初はこんなもんだよなぁ」
とホシが残念そうに呟くがLiveは止めない。

兎にも角にも出来る事から潰していくべく紫咲が提言する。

「駅の中に駅員か誰かいないか探して見るか、
電気は消えてるから望みは薄いがもしかしたら宿直とかいるかもしれない、はすみさんもなるべく俺らと離れない方がいい」

「はい、ついて行きます」

三人は小さな駅構内と周辺を探索する
人がいないかと呼びかけもしたが反応は無い
よく見れば見るほど古めかしい駅だった。


紫咲、脳内で思考を巡らせる。

電車で眠りにつきわずか数分でこの場所、この状況。

都市伝説の世界に迷いこんだ?
そう言ってしまえば簡単だがそりゃ思考放棄ってもんだ。

もっと、現実的に考えろ...

そもそも寝た所からおかしいか。
否、歩き回った挙句腹一杯食って電車に座れば眠くもなる。

さては最近色々な企業が競って研究開発し、技術進歩が著しい新型VRの試験運用か。

否、TVに出る芸人ドッキリ番組ならまだしも、一般人のモニターに許可もなくそれを行うなどコンプライアンス的にあるわけがない。

企業でないとするならば、どこかの富豪のお遊びに付き合わされてるという線。

生き残りゲーム形式か!
この二人を殺してみるか?

そうすれば状況は進展

「ゲームクリアです!お疲れ様でした!お二人共死んだフリです!全員元気ハッピー!はい、これ参加賞の500万です!」

...いやいや、
殺ったあとに実はVRじゃなかったら困る。

VRでは無く現実で睡眠ガスかなんかで眠らせて拉致、その間にスマホに細工、そんな狂気の富豪のお楽しみゲームだとしたら?

可能性的に無くはないが却下だ、二人を殺しでもしたら主催者が一番喜ぶパターンだろうが、そんなB級映画がありそうだ。

国家レベルでの陰謀説
極限状況下での男女の行動パターン解析実験。

そんなことは既にナチス時代にやってそうだ。

これでは現実的に考えるどころか、もはや飛躍だ...

だが、やはりあの「はすみ」なる女がどうしてもひっかかる。

照れ隠しぽい所はあるものの
もの怖じのしなさ、この状況にしては女一人堂々とし過ぎてる気もする、
何より理屈でなく「直感」があの女に何かあると告げている。

しかし「親近感」のようなモノを感じてるのも確かだ。

これはもしかすると新たな「恋」の形か!

バカを言え、ストックホルム症候群か...

考えだすと「可能性という幻惑」にキリがなければ飛躍もあとを絶たない。

ここは一旦やめだ。

彼女が「同類」という線も視野に入れつつ、カマかけを随時行い「その結果」を見るのがいいだろう。

紫咲は思考を一旦やめ口を開く

「やはり誰もいないなあ」

「いません、ね」
はすみが返す

「視聴者はさっきと比べると若干増えてきてるけどやっぱり『やらせ』扱いは変わらんわぁ」

そのホシが行うLive配信によって「この状況」に若干の変化が起きている事に、その時の二人は気付くよしもなかった。

「電車も一向に動く気配なし、こうなりゃ歩いてみるとするか、線路があるというのは確かだ、迷いはしないだろう、二人は着いてこれそうかい?」

「はい」
はすみ は疲れている様子もなく答える。

「もうさすがに疲れたけど、仕方ないよねぇ」
ホシもそれに賛同する。

見渡す景色からして100m先は暗闇に覆われているが、見える限り何もない平坦な土地、線路を挟んだ山が延々と続いていることから都心から離れた場所ではあるだろう。

ホームから列車後方の線路へ降り、電車の進行方向と逆を「上り」と仮定し上り方面へ歩く事を提案し、ホシもはすみもそれに賛成した。

ひた歩くこと40分
歩けど歩けど目の前にはひたすら直線の線路とその脇に山が広がる風景が延々と続いていた、明かりはわずかな月灯りのみ。


すると後方から音が聞こえる

(電車が走る音!?)

振り返ると暗闇の中からその音はやがて轟音となり急速に接近してくる。
列車の面影がかなりの速度で向かって来ることは視認できるが奇怪なことにライトは灯っっていない。

紫咲は立ちはだかり止めようと考えたが、車ならいず知らず、ライトもつけていない列車がその速度ではまず止まれまいと瞬時に判断し諦める。

咄嗟に はすみ が紫咲とホシに叫ぶ
「危ないっ!」

ホシと はすみは線路から平地側へ、紫咲は反対側の山側に避ける。

列車が目の前を轟音と共に走り三人を分断する。
かなりの車両数の列車なのだろう、なかなか途切れない。

そこで紫咲はすぐさま山を駆け上がった。


それには訳があった

二人と分断され、自分の姿が はすみに見えない状況を使い「新たなカマかけ」を講じようとしたのだ。

紫咲は村と呼ばれるような山奥の田舎で中学生時代を過ごしていたことがあった。

歳も歳だ、夜遊びのひとつもしたくなる
もっとも田舎の友達は夜遊びには付き合ってくれなかったが...

年頃の紫咲はそれでも夜、外に遊びに行きたかったのだ
そこでの「一人夜遊び」の経験から
夜闇での道と森の視覚関係を知っていた。

夜、街灯の無い「月明かりのみ」の道から山の木々の中を見ると、いくら夜目がきいていてもほとんど見えない、一方で一旦山の木々の中へ入ると、わずかでも月明かりが当たる道はよく見える。

紫咲からはホシと はすみが見えるが、おそらく線路という「道に近い」環境からはこちらを視認できないだろう。


山に駆け上がり、充分な距離をとると木々の間に身を潜め列車が通り過ぎるのを待つ。

通り過ぎた後、「二人の姿が無い」なんて事になっていたら...

そんなことは杞憂であった

列車が通り過ぎるとそこには二人の姿が見えた

いきなり夜闇のなか真っ暗な列車に横切られたことに驚きを隠せない様子のホシ。

その一方 はすみ は動じている様子もない。

肝が据わり過ぎてる、やはり普通じゃない
しかし危険を叫び俺達を助けようとしたのも事実。

仮に彼女が敵意あるモノだとしたら二人に危険を叫んだりするだろうか

敵意や悪意があるならば、分断された時などはホシと二人きりで紫咲が加勢などできない格好の状況。

驚いてるホシの不意をつき、刺すなり列車へ突き飛ばす事くらいはできるのではないだろうか。

ホシをダシにするようで気は引けるが はすみ の様子を伺うべく身を潜め続ける紫咲。

やがて二人はすぐに紫咲の姿が無い事に気付き探し始め二人が紫咲を呼ぶ声が聞こえる。

やはりあちら側から、こちらは見えていないようだ。

彼女の肝が据わり過ぎてる以外に特段変わった行動はなかったのでそろそろ姿を見せても良いかとおもったが、
最後に子供騙し程度ではあるが、落ちている適当な大きさの石を拾い二人の方へ投げてみた。

ホシ「うわっ!」
はすみ「・・・」

その反応を見て山から降り姿を表す

「はははは、ちょっと脅かしてみたんだ」

そうごまかすとホシは安堵し
「まったくよしてよ〜いない時点で心配したじゃん」

はすみ は呆れるように
「まったくも〜、無事で何よりです」


はてさて、歩けど歩けど風景は変わらず
相変わらず直接の線路の左側には森、右側には平地が続く。

このまま線路をあるいてもいたずらに体力を減らす気もして来た
そしてなにより「電車は急に止まれない」
先程の通過した電車もあることだし
もしかしたら電車が止まるかもしれない
ここは駅まで戻ることにした

















このまま歩いてはキリがないし
さっきの駅に戻れば電車がくるかもしれない
夜ではいくら見通しがよくても電車が通れば止まってもらえないかもしれないと思い、戻る事を提案した
二人もそれに賛成し元の「きさらぎ」と看板のある駅まで戻った。

そこには乗って来た電車は既になくなっていた。

ホシは運動不足もたたりかなり疲れていた
はすみはまったく疲れた様子はなかった。

このまま駅の車掌室に入り一晩を明かそうと提案し、二人もそれに賛成した。

俺ははすみに
女の子なんだからその長椅子で寝なと言うと
はすみはありがとうございますと礼をいいその長椅子に横たわった。


俺は別の長椅子で寝たフリをかましていた。

ホシは疲労もありカーペットがひかれている床で寝入ってしまった。

気になるのははすみだった

ホシもはすみに気にしていたが完全に寝入っている。

そのまま寝たフリをしながらやがて夜が明け、外は明るくなっていった

ホシは熟睡している

するとはすみに動きがあった

ごく自然に起き長椅子から立ち上がると、一人何も言わず外に出て行った。

ホシ起きろ、あの女、一人で出て行った。
まだ疲労が残り重いまぶたのままのホシを起こし、はすみを探しにホームへ出た。

辺りは日が登り見渡しがよくなっていた

ホームにはすみが森の方を見るように立っていた

アレをみてください...
とはすみが言う。

はすみが指を差した先には異様な風景が広がっていた
昨日までは木々の生い茂る森だったが
まるで電車くらいの大きな物体が通ったかのように一部木々が薙ぎ倒されていた。

寝たフリを一晩続けていたがそんな大きな物音は一切なかった。

はすみの表情に目をやると
不安はおろか、少し微笑んでいるかのようにも見えた。

やっぱこいつ普通じゃない

ホシは昨日のLive配信の続きをしだす

俺は、はすみの正体を暴くためにとあることを提案した。

「俺はあの薙ぎ倒された森を見に行く、ホシは疲労もかなり残ってるだろうから山登りは無理だな、ホームで電車が来るのを待っててくれ。
はすみちゃん、君は俺と一緒に来れるかい?」

ホシはそうさせてもらうと納得し
はすみも俺ついて来ると言う

あえて俺とホシをバラバラに、
一人ずつの状況を作ってやることにした。
それで彼女が何かアクションを起こすかもしれない。

はすみと薙ぎ倒された木々の森を登る
俺が前を歩き彼女が後ろに続くんですようにした

そうしたのには訳があった

彼女の身体に自然に触れるきっかけが欲しかったのだ

一応言っておく「下心はナイ」

では何故俺が下心もなく彼女の身体に触れたかったのか
彼女の身体が「触れる身体」なのか確かめようとした。

木々が薙ぎ倒された森を登っていくと自然と登り辛い足場に出くわす。

「はすみちゃん、手を貸そう」と手を差し伸べると、彼女はとっさに俺の手に触れないように「大丈夫です」と言う

「触れるか確かめる」失敗

しかし彼女の咄嗟に俺の手に触れまいとした行動

照れているのか、
俺に触られたくないのか、

線路から斜面を登ること約4〜50m程といった所か

駅のホームとそこに座るホシの様子は見えているが、普通の声では二人にしか聞こえない
そこでブラフで揺さぶりをかけてみた

「実はさ、コレ俺がやったんだ」


はすみ「え、何言ってるんですか」

俺「実はこの奇妙な場所に迷いこんでから不思議な力が使えるようになってさ、それこそこんな事ができるような、ね」

と続けてみる

はすみ「そんな事信じられませんよ、きっと大きい怪物のようなものがいるんです」

まだ正体を出さんとはなかなかガードの硬い子だ、でも、少しボロが出たかな。

ここからはたたみかけよう

俺「へえ、怪物ね。」
「はすみちゃん、単刀直入に言うと俺は君の事を、この不思議な現象の一環だと思ってるんだ」

はすみ
「え?」

俺(煙草に火をつける)
「でもね、君が人間じゃないからといって邪険にするつもりはない」

怪物だろうと口説いてみることにした、人間の女性とはまた違う魅力もあるだろう。

はすみ
「...変わった人ですね、でもどうして私がこの不思議な現象の一部だと思うんですか?」

俺「昨日の駅で初めて会った時も、
一旦駅から離れて戻って電車がなくなっていた時も、そして今朝森がこのようになっていた時も、君は動揺すらぜず女にしては「動じな過ぎる」、男女、というより、人としてね」

はすみ
「...鋭い人ですね。でも、もうここまで来たらあなたには消えてまらわなければいけません...」

俺「その理由は、なんでだい?俺を消したところで何か得があるなら教えて欲しい」

はすみ
「なぜならここは...【きさらぎ駅】だから。」

そう言うと彼女は目の前で色は黒く植物の枝がまるで蠢くような奇怪な怪物の姿に変貌していった
体躯は電車を正面に見るくらいの大きさにまで変貌しており
かろうじて顔、首、胴体手足の形をとっている

はすみ(?)
「;/-“7¥(!?!%*€\!!!」

すでに放つ言葉は人外のモノだった

俺「ようやく君の素顔が見れた、俺の言葉がまだわかるかい?」

はすみ(?)
「}#^?>!?!£\!」

既に意思の疎通は不可能か、強い殺気を感じた

少し離れたホシにもその様子は見えており、Live配信していた携帯を捨て慌ててこちらに駆け寄ろうとする

離れたホシへ届くよう大声で言う
「くるな!デート中だ」
(二人がかりでどうにかなる相手には見えない)

ホシは慌てふためきながらも俺が強く言うと立ち止まるという行動をとった

かつて「はすみ」だったものが
俺めがけて突進してくる

仮にもレディの顔に傷をつけてはとは思ったが、少しでもビビってくれると思い咄嗟にくわえてた煙草を向かって来る怪物にむけて飛ばしてみた

一瞬ひるんだ様子は見せたものの、そのまま突進してくる

電車の正面程の体躯だ
棒立ちしていてはひとたまりもないが

なので結構くらうだろう覚悟し、いっそのことしがみつきにいってみた

まだ「彼女」を諦めたくもなかった

しがみつく事には成功したものの
TRPGのダメージとして体力の半分をもっていかれた

それほどの身体への衝撃だ

なんとなく、吐血しておいた

首らしきあたりを力の限り抱きしめ(締め上げ)「はすみっ!」
と叱ってみるが
その巨体の力づくで振り落とされる 

(やれやれとんだお転婆娘だよ)

さすがのホシもそれを目前にし、線路に落ちてる石を怪物めがけて投げ付ける

判定はハズレ
しかし彼女の注意は俺からホシのほうへと移りホシへ突進しようとしていた

俺はホシのほうに振り向かれた事にヤキモチを妬いて彼女の後ろにしがみついた

同時に考える

コレ相手に殴る蹴るはおろか、その辺にあるものを武器にしたところでまともに打ち合ってはまず二人とも殺されるだろうな

なぜ攻撃してくるんだろうか

彼女がまだ言葉を話せた頃を思い返す、なんで俺らを殺しにくるか
ひっかかった。
なぜなら...ここは「きさらぎ駅」だから、と彼女はそう言った。

ならばココが「きさらぎ駅」じゃなければ殺しにくる理由がなくなる?
それにかけてみようと考えた。 


後ろにしがみつく俺ごと彼女はホシへ突進をかけた

突進はかなりのスピードがあったがホシに当たる事なくそのまま駅のホームに激突した

その衝撃で彼女の背中からホームへ放り出される

おかげで山を一気に駆け下りることができた

ホシはそんな状況ならばと再び大きめの石を彼女めがけて投げつける行動に出る

判定はハズレ

さっきはまだしも、今の距離ではずすはどんだけ投げるの下手なんだ...
(サイコロ判定なので仕方なし)

彼女は激突したホームから体制を立て直し、石を投げるホシへと再び突進する

ホシは頭を手で覆うように防御姿勢をとりつつもその巨体の突進を食らう
ダメージとして同じく半分をもっていかれた

その隙を見て俺はココを「きさらぎ駅」じゃなくしてみる

手始めに駅に立つ看板🪧そこには駅名として「きさらぎ」と書いてあった。

吐血しておいた血でその後ろに「町」と付け足すように書いてみた
看板には「きさらぎ町」

はすみ(?)
「!!!!!!!!!」

すると周囲と彼女に変化が見られた
周囲は駅から一変し見たことのない小さな町のような風景に
彼女の体躯は半分くらいまて縮みおおよそ2m程までになっていった


やはりこのゲーム「きさらぎ駅」という場所であることが彼女の強さに繋がっていると確信することができた

弱点を知られた彼女は目標を俺に戻し向かってくる
いくら縮んだとはいえ2m程の体躯の突進、無事ではいられない

先程のダメージの半分をくらい
残すところ体力三分の一といった所である

ホシに叫ぶ
「石とか物理的な攻撃はほぼ効かん、ここが「きさらぎ」ってのがまずい、ここを「きさらぎ」じゃなくせ!」

ホシ「え、でもどうやって」

俺「看板だ、駅名から町名の看板に書き換えてやったらこの様だ、そのへんに俺の血を吐いといてやったからその血で何か付け足せ」

ホシ「そういうこと、、じゃあ」

とホシは看板の「きさらぎ町」のまえに「この先10km」と看板の下にあった血溜まりから書き足した

看板には「この先10kmきさらぎ町」

するとまた変化ぎ起きる

周囲の町は一瞬にして10キロ先に遠のき辺りは何もない平原に

彼女の体躯は人間の女性くらいにまで縮んだ

ここで更に、現実には有りもしないきさらぎ駅という概念に対してトドメをさしにいく

俺「ホシ、きさらぎ駅のことは忘れろ、忘れられなくともそんなの信じるな」

ホシ「といってもなぁ、でも、そうこころがける」

彼女の身体はもう50cm程まで縮んでいた、
物理的に戦って既に充分すぎる勝機だとは思ったがここで物理的にトドメを刺すのはナンセンスだと思った

俺「見てみろはすみ、きさらぎ駅なんて本当はないんだ、一緒に帰ろう」

するとそのちいさな怪物の彼女は消えてなくなってしまった

そして俺とホシは意識を失い、
気付くと元乗っていた電車と、
その車窓からは見慣れた町の風景が広がっていた。
現実に戻れたようだ。

時刻は午後9時

あれは果たして夢か一瞬の幻か
はたまた「ソレ」も一つの現実世界か

現実とは認知によって揺れ動くものである



テーブルトークRPG生還

吐血で勝った一部始終🧛🏻‍♀️

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