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「シンセウェイブ」という奇跡の桃源郷

「If you are hearing this it's a message from the past and from the future.
My name is John Carpenter. I'm here to introduce you to a world of unknown music movement you've probably never hear of...」
(もし、君がこれを聴いていたなら、これは過去、そして未来からのメッセージだ。私の名前はジョン・カーペンター。私は、君が聞いたことすらないであろう”未知の音楽の潮流”へ、君を導くためにやってきたんだ...)
※ドキュメンタリー映画『The Rise of The Synths』の予告編より、ジョン・カーペンター監督のセリフを抜粋

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「シンセウェイブ」という音楽のジャンル、いや、現象が今とてつもない波になっていることをご存知だろうか。

正直、私は音楽に詳しくない。だから、「なんとかのジャンルから始まったなになにで、いつ頃なにがどーした」と、音楽玄人が語るカッコイイやつは多分できない。知ってる範囲のことを語るだけなことをご理解いただきたい。

ただ、私はこの現象のとんでもない“エモさ”、そして自分の人生において出逢うべくして出逢い、今、共に歩んでいる奇跡について語らざるを得なくなったのだ。

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「シンセウェイブ」とは何か簡単に言うと、2000年代にフランスから生まれて、アメリカで爆発的に広まり、この数年で俄に人気を博してきた電子音楽のジャンルだ。

まずはこれらの音楽を聴いてみてほしい。

これはシンセウェイブの人気アーティスト「FM Attack」の人気曲『Sleepless Night』のミュージックビデオである。

ものすごい「80年代臭」とシンセサイザーの響き。そしてスポーツカーのイメージが流れ込んできたのではないだろうか。

次に“シンセウェイブの女王”の異名を持つアーティスト「NINA」の代表曲『Automatic Call』も聴いてもらいたい。

先のFM Attackの曲イメージに加えて、今度は大都会の夜を疾走するようなイメージが感じられるだろう。

こうしたテイストの音楽ジャンルが、今、アンダーグラウンドミュージックの世界でグツグツと沸騰してきているのだ。

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なぜ、沸騰してきているのか、私が語りたいのはまさにそこだ。

言ってしまえば「古臭い80年代テイストの電子音楽のリバイバル」である。だが、そこにあるのは、懐古主義的な郷愁感ではないのだ。

なぜなら、「シンセウェイブ」というジャンルに大きくハマり、そして作品を日夜生み出している層の大半は、80年代を生きていないからだ。
もちろん、生きていた人もいるだろうが、いわゆるあの時代を”謳歌した世代の直後”がメイン層なのだ。

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かくいう私もそう。私は1989年生まれ。80年代の終わり、平成時代の幕開けにポッコリと産み落とされたのだ。

そんな世代が幼少期に摂取するものは、”その直前の時代に生み出された文化”だ。

これは、時代によっても違うだろう。新しいものが次々生み出された時代の節目にであれば、過去を戯れて育つことは少ないのかもしれない。

ただ、80年代のポップカルチャーの光は、新しい時代の幕開けを霞ませるほど強かった。少なくとも、私にはそう感じられたのだ。

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『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』
『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』
『レイダース/失われた聖櫃』
『E.T.』
『ナビゲイター』
『グーニーズ』
『ショート・サーキット』
『遊星からの物体X』
『ゼイリブ』
『スター・ファイター』
『ブレード・ランナー』
『エルム街の悪夢』
『13日の金曜日』
『ハロウィン』
『ターミネーター』
『エイリアン』
『プレデター』
『ロボコップ』
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
etc.

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私は、こうした80s映画の大量のVHSに囲まれて育てられた。
母と、その弟が大の映画好きで、当時高価だったVHSに湯水のようにお金をつぎ込んでおり、それらを漁るようにして育ったのだ。

こと映画だけでも、当時は「スプラッターホラー」、そして50年代に続く「第二次SFブーム」の真っ只中であり、アメリカのポップカルチャーシーンでは、後年に影響を与え続けるような名作、そしてそのフォロワー作品が雨後の筍のように乱立していた。

私は、宇宙と電子、そしてダークなホラーとアドベンチャーの世界に無限の夢を見ていた。

正直私は、映画で育ってしまったので他のことには疎いのだが、音楽シーンで言えば、クラフトワーク、バグルス、ペット・ショップ・ボーイズなどの、「ピコピコ系音楽」が隆盛を極めていた印象がある。

西海岸では、ドアーズ、ニルヴァーナ、2PAC、レッド・ホット・チリペッパーといった西海岸ミュージックも爆発的な人気を誇った一方で、凶悪犯罪が増加する「犯罪都市」としてのダーティーなイメージも育まれていった。

いうなれば、ヤシの木立ち並ぶムーディーな海岸線沿いのどこか浮世離れした活気と、暴力とドラッグが跋扈する血生臭いイメージが、不可思議に綯い交ぜになったかのような、蠱惑的な都市イメージを形成していっていた。その代表例がマイケル・マンが手がけた人気刑事ドラマシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』に代表されるマイアミだろう。

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また、この時代はビデオゲームの全盛期でもあった。

『パックマン』
『ドラゴンズレア』
『ギャラガ』
『ゼビウス』
『スーパーマリオブラザーズ』
『ストリートファイターⅡ』
『アウトラン』

アーケードそして、ファミリーコンピュータ戦国時代の幕開けによって、当時の子どもたちの前には電子音楽と共に、夢のようなアドベンチャーの世界が無数に広がっていた。

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そして、そこにはコナミや任天堂、セガといった最先端技術を駆使する東洋の大都市ジャパンの影が、未知の世界として蜃気楼のようにゆらめいていたのだろう。

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この時代の残り香を嗅いでいた子どもたちは、そのどこか浮かれて、最先端で、血生臭く、活気に満ちたカルチャーの後ろ姿に夢を馳せていたのだ。

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話をシンセウェイブに戻そう。

音楽ライターの四方宏明さんはAll Aboutの記事でこんなことを言っている。

「レトロウェイヴの重要な特徴は、サウンドだけではなく、コンセプトとヴィジュアルにおいて、80年代カルチャー(映画、ドラマ、アニメ、ゲーム、ファッション、グラフィックなど)へのノスタルジー的引用が行われるということだ」
(https://allabout.co.jp/gm/gc/469298/)

そう、シンセウェイブ(上記の引用ではより広義のジャンルである「レトロウェイブ」について言及しているが)は、こうした80年代のビジュアルイメージと共に生きている音楽なのだ。

そして、このイメージを見てほしい。

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古めかしい電子のグリッド線が無限に広がる世界
立ち並ぶヤシの木
果てしなくそびえる未来都市
大きくこちらを見据える夕陽に向かって走り去るスポーツカー

「シンセウェイブ」はまさにこのイメージなのだ。

「古めかしい電子のグリッド線が無限に広がる世界」は、SF映画とビデオゲーム。「立ち並ぶヤシの木」は、マイアミ。「果てしなくそびえる未来都市」は当時のトウキョー。

そして、「大きくこちらを見据える夕陽に向かって走り去るスポーツカー」は、それらのイメージに向かって走り続け、同時にたどり着けない”我々90年代生まれの者たち”そのものと言えないだろうか。
(余談だが、スポーツカーのイメージは86年のセガのレースゲームの『アウトラン』からきており、シンセウェイブがYouTubeで広まりだした頃はこの「アウトラン」という名称がジャンルの呼称として使われていた)

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シンセウェイブの始まりについて、少し語っていこう。

だが正直なところ、音楽に詳しくない私はその震源地が、フランスのアンダーグラウンドミュージックシーンだった、くらいしかわからない。

それを知るきっかけとなったのは、ドイツのシンセウェイブアーティストNINAが、ウェブインタビューでこのように語っているのを見たからだ。

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NINA「映画の『ドライブ』を観て、そのサントラに一目惚れしたの。それからしばらくして、あのスタイルの音楽がアンダーグラウンドで流行り出してて、それが今では”シンセウェイブ”って呼ばれているわよね」

ニコラス・ウェンディング・レフン監督の2011年の映画『ドライブ』。
どこかレトロな空気の現代を舞台にした西部劇のような激エモ映画なのだが、その主題歌となった『A Real Hero』を歌うのが、フランスレトロウェイブの始祖の一人であるバンド・Collegeなのだ。

この80sテイストの抽出と再生産に、皆眼からウロコが落ち、覚醒したのだ。四方宏明さん曰く、彼は自身のブログで80年代への偏執的とも言えるノスタルジー愛を語っていたそうで、Valerie Collectiveというカルチャー集団の首謀者でもあるそうだ。常日頃から研いでいたBack to 80'sのスピリットが本作で炸裂したのだろう。

それ以降、80'sの再生産は至る所で行われている。

NETFLIXの人気ドラマ『ストレンジャー・シングス』は、80年代のアメリカの片田舎を舞台に、少年少女が異次元の怪物たち、そしてそれをコントロールしようとする政府の秘密組織と立ち向かっていくSFアドベンチャーだ。

本作のテーマソングからは、シンセウェイブの影を色濃く読み取れる。

また、映画では2020年公開の『ワンダーウーマン1984』は、まさに80年代が舞台となっている。

予告でもシンセウェイブがバリバリである。最高である。

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当時を生きなかった者たち。

彼らが夢見る80年代の未来都市と、本当の80年代の都市は、おそらく違うのだ。

そんなものは、存在しないのだ。

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「行ってみたいなぁ……」

このどうしようもない“別の世界線への郷愁と再生産”こそが、シンセウェイブの本質のように私には映るのだ。

たどり着けない過去の未来都市へ向けて、デロリアンを走らせる音楽ムーブメント。それが今、同時多発的に生まれているのだ。

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熱狂

歓喜

スタンドアローンコンプレックス

「シンセウェイブ」それは、俺たちの音楽。

俺たちが、今、生み出すことでのみ覗くことができる世界なのだ。


この想いを込めて書いたのがこの作品です。

いいもんだろ、シンセウェイブ。


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