無題
恋をしていた。
わたしはいつからか、己の中でなされるがままに彼に恋をしていて、そして近くて遠い距離から彼を愛していた。
魂の記憶のような、かつて叶えられなかったことへの切望と、強いられた別離への苦しみがわたしの中で渦を巻いて、
感情は、わたしを癒してまた飛び立たせるために、自らの中にある愛と痛みの存在を教えた。
ノスタルジアにも似たかつての想いが、そうあるべきだった身体を借りて溢れ、ようやく空へ解けていった。
わたしのなかの知らない記憶の残音が、やっと許されたかのように最期の騒々しさを響かせ、ゆっくりと静まり返っていく。
あなたのことを愛していた。
それはいつのことだったのか、もう分からない。
戻ることのないその場所は、それでもそこにあったのだろう。
消えてしまっても、そのことを忘れてしまっても、
それでもそのことにきっと意味があったのだから。
遠ざかる街明かりと知らない人の影。
まだ出会っていないあなたと、もう過去になったいつかの出会い。
わたしは過去であり未来であり、そして私そのものである。
あなたを愛していた。
できるならいつかの未来でも、きっと。