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学校で起きる諸問題解決のカギは、「多重関係の禁止」にある!


 学校では日々いろいろなトラブルが生じるが、それらが「こじれてしまう」原因は、実は構造的欠陥ではないか?

 というのが今日のお話。

 浅学な武庫川さんが今日はじめて知った言葉があり、それは

「多重関係の禁止」

というものだ。

 もちろん、そうした概念があることはふわっとは理解していたのだが、明示的に「多重関係、二重関係はダメですよ」と決まっているなんてのは、全然知らなかった。

 これ、どういう内容かというと、基本的には心理学界隈やカウンセリングの現場で用いられるものだそうで、

「カウンセラーとクライアントという、ひとつの関係性以外になってはいけませんよ」

というものだ。

 たとえば、「上司と部下の関係」や、「知り合いのママ友との関係」、あるいは「友だち」といった『ほかの関係性』がこの「カウンセラーとクライアント」の関係に加算されてしまうと、利害関係がごっちゃになるので、適切な心理的サポートができなくなる、ということである。

 この考え方そのものは、他の仕事や場面でも見られるので、それほど珍しかったりおかしなものではない。たとえば、「警察が身内の捜査に関わったら、いろいろとまずいだろう」なんてことは容易に想像がつくし、そういう場面はドラマでも描かれる。

「◯◯君、きみはこの現場からは外れたまえ。お姉さんが殺されたんでは冷静な判断ができないだろう」

みたいな場面である。わたしたちはそれを見て、ふつうに納得し、「そりゃそうだろうな」と思うわけである。


 このように、心理学界隈、カウンセラー界隈では、多重関係や二重関係は禁止されていて、それは明示されている。

 ところが、学校現場においては、この「二重関係の取り扱い」が極めてあいまいなのである。

 たとえば、従来からも「生徒との個人的な関係」を持つことは望ましくない、あるいは禁止事項である、ということは周知されている。

 なので、たとえば生徒とお付き合いをする教師や、のちに結婚したりする教師は眉唾ものとして見られたり、あるいは状況によっては保護者から訴えられたり、場合によってはとっ捕まる場合もあったりするわけだが、それは実は「その教師と生徒が、二重関係に陥っているから、そのために断罪されるのである」という単純な解釈だけではないのだ。

 「教師と生徒の関係」に「恋愛関係」が加算されていることがマズイ、というのであれば、それは二人の個人的な問題であって、倫理上は問題だが、ぶっちゃけ「個々の事情の領域に公が踏み込むべき問題ではない」という解釈も成り立つ。ところがだ。

 実際にはこの場合、「公は個々の事情に踏み込み、二重関係を生じさせた教師をクビにすることができ、あるいはクビにすべきである」という運用がなされる。

 なぜかというと二重関係を生じさせた教師はすでにその時点で「公教育の公平性を担保できないから、公教育への信頼性を失わせた者であるとして信用失墜行為でクビにされる」のである。

 つまり、ダブルの問題が起きているわけだ。

■ 生徒との個人間で二重関係を生じさせてしまった問題

■ 二重関係を生じさせたことで公平性への信頼を揺らがせたという信用失墜問題

のふたつである。


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 とまあ、教科書どおりの説明をすれば、「学校現場において、二重関係は望ましくない。いや、望ましくないどころか、これまたカウンセラー業界と同じようにそれは禁止事項だ!」とはっきり言うことができる。


 ところがどんどこしょ。そう事態は単純ではない。


 じゃあ、実際に学校現場で何が起きているかというと、実は真逆の運用というか「ひっかけ、トラップ」がたくさん仕掛けられているのである。

 たとえば学校で盗難が起きた場合、それまでの「教師と生徒の関係」をいったん断ち切るような「捜査」を行わないといけないし、あるいは生徒指導上の「断罪や裁判」めいたものを行わないといけない。

 生徒指導部長は起きた事態に対して、停学などの判断の提案をしなくてはいけないが、もうその時点で二重関係である。

「教師と生徒」「部活の顧問と部員」「盗人と警察」「被告と裁判官」

みたいなのが、同一の教師と同一の生徒の間でなされることは、現場ではよくある。

 そもそも警察と裁判所(ジャッジするもの・裁定を下すもの)という立場と生徒を守るべき教師の立場は相反するので、利害関係がぐっちゃぐちゃなのだ。

 仮にそのA先生とB生徒が、担任と生徒、部活顧問と部員とかではなく、まったく離れた関係であっても「その学校の教師と生徒」というだけで

「守る・守られるべき関係」と「断罪される関係」は相反する

ということは容易に想像がつくだろう。

 だからタバコを吸った野球部員を高野連に報告しないで、あとでバレる、みたいなことが多々生じるのである。

 そもそも、教師は生徒をドライに裁くことなどできないからだ。


 同じようなことは「いじめ」事態があったときにすぐ生じる。現場に矛盾が生じるのは

「教師は生徒を守るべき」な関係と、「いじめる生徒を追放するべき」な状態

というダブルバインドがあるからである。(校長には懲戒権や、退学させる権限がある)

 いじめ事案が生じた段階で、教職員はそのまま「二重関係」に突入するから、誰しもが判断を誤るのだ。利害関係は、最初からぐちゃぐちゃなのだから。

 そのために「加害生徒にも人権や未来があります」なんてトンチンカンなことを言う校長が出てくるのだ。これは当然の話で、通常は校長は「どんなことがあっても生徒を守る」というミッションを実行しているからである。

 たとえば私は現役時代、窃盗事件を起こした生徒が捕まった時、裁判所から照会状を受け取ったことがある。

 そこには学校生活やふだんの様子がどうであったかを回答して、それを裁判所側が情状酌量の材料として用いるわけだが、学年主任やら多くの先生と相談して「できるだけ本人の利益になるように、寛大な処置を願う文書を書く」のが教師の仕事であった。

 実際、私もそう書いた。学校教師は犯罪者であっても、自校の生徒を守るべきものだからである。

 ただ、これは「二重関係」ではない。

 相手は裁判所の話なので、当方学校教師としては盗人C君の擁護をするが、ジャッジメントをするのはそちらさんだから好きにやってくれ、ということだ。どうなろうと最後は知らない、というか介入できないのである。事件後のC君の処遇についての関係性が存在しないからだ。

 裁判所と学校は他人同士だから、べつに矛盾は生じないのである。


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 奇しくも

教師の仕事は「カウンセラー」も含む

ようなニュアンスの、千葉県教育委員会が発行したらしきポスターがネットで炎上しているが、


 これは学校現場視点では、べつに変なことを言っておらず、むしろそれが求められている。

 私が現職教員になろうとした時、まさに「教師はカウンセリングマインドを持つべきだ」という考え方が導入され、それは今でも変わっていない。

 教員採用試験でも管理職試験でも、そうした内容を面接試験で喋れなければバツであり、落とされる。

 なぜなら、それぞれの個性や事情を抱えた生徒に寄り添った教育を行うためには、そうしたカウンセラーの知識や技能は不可欠だからである。


 しかし、この一見よさげなことを言っていることそのものが「ひっかけでトラップ」なのだ。これは教師をおいつめ、まちがいや過ちを犯させるように仕向ける罠なのである。

 当のカウンセリング界隈が「二重関係は禁止だっつうの!」とあれほど言っているのに、教育界隈が二重関係を現場で実行したらどうなるか。

 個性豊かな生徒の利害が相反するように、そこに自動的に巻き込まれた教師との利害も相反するから、(おまけに保護者の利害も相反しちゃう)もう、収集がつかずうまく落とし込めるはずがない。

 そもそも「二重関係はダメだっつうの!」と言ってるのに、「二重関係を持つべきだよ」と教育委員会(文科省)が言っているのだから、現場の教師は疲弊するか発狂するか、トンチンカンなことを言い出すか、逃げ道はないのである。

 前半で説明したように二重関係を持ってしまったら信用失墜行為でクビなのだから、教師は採用時点から「クビになるような関係性」を望まれているというものすごいトラップを仕掛けられているのである。


*一般の人から見れば、「異性の生徒との関係を持つ二重関係だけがクビだ」と思っているかもしれないが、実際には「大麻に手を出した生徒におめこぼしをしたという二重関係」とかでもじゅうぶんクビになる。色恋沙汰だけでなく、ある生徒と「教師と生徒以外の力関係を結ぶ」ということはじゅうぶんクビをかけた行為なのである。公平ではないからだ。

*なおかつ補足すれば、学校の教師が精神を病むのも、大半はこの「二重関係」に由来する。つねに立場が違うのに同時に処理させられると「二律背反」状態に置かれるため、正義がこんがらがっておかしな状態に陥るのである。


 これらの諸問題の正しいオチは、

■ 教師と生徒の関係
■ 捜査と断罪の関係
■ 部活動指導者と部員の関係
■ 生活や心理面のサポート者と相談者の関係

を全部切り分けて、別々の職員がやる事以外ないのである。

 そのためには、学校警察や学校警備員が必要だろうし、あるいは警察や司法への即時通報体制やら、心理士や社会福祉への通報体制やら、外部スポーツ・文化指導体制への移行が急務だと言える。

 もし「これらの二重関係の解消」が叶うならば、いま現在学校で起きている諸問題は、一気に解決することになるだろう。

 それくらいこの話は、「すべての元凶」に相違ないのである!





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