見出し画像

「創作してみたいと言いながら何も作らない人」の胸中(実況中継)

実況「さぁ、始まりました!『創作してみたいと言いながら何も作らない人観察2024』実況はわたくし実況が務めます。解説は甘やかし担当『アメ』と辛口担当『ムチ』です」
アメ「第一回にお招きいただき光栄です」
ムチ「第一回で終わりにしたいです」
実況「ここからは、何かと理由をつけては創作活動に踏み出さないごくフツーの一般人、汕ミモザの胸中を通じて、結局何も作らない人の心理を明らかにしたいと思います」
アメ「実況という形式をとったのはいいですね、自身と距離を取って客観視できます」
ムチ「恥や恐怖をごまかすのに他人事という建前は有用だしね」
実況「それでは現場の様子を見てみましょう!」


「みんなスゴい」は本音であり防御

実況「でました!ミモザの得意技、『みんなスゴい』!今日も身の回りの創作者たちを褒め称えています。彼女の周りには小説、詩、音楽、写真、イラスト、漫画、手芸など、バラエティ豊かな創作者たちがいます」
アメ「素敵な作品を享受できる素晴らしい環境ですね」
実況「彼女は感想を言語化して創作者本人に伝えたり、周りの人に作品の好きポイントを語ったりしています。どうやら全部本音なようです」
ムチ「感想を言うときはあんなに生き生きしているのに」

実況「おや、『私は作ったことがないから』がでました!連携技としてよく使います」
アメ「特にアドバイスを求められた際、創作者にリスペクトを忘れないことは何より大切ですからね」
ムチ「尊敬して棚に上げて、また距離を取る」
実況「しかしミモザ、発言は明るいのにどこか遠い目をしています。さっきまでの水を得た魚の姿はどこへやら!」
アメ「『みんな』に自分が含まれていないことを知っているのでしょうね」
ムチ「お前が自分で除外してるんだろ」
実況「自分と創作者の間に、一定の距離を保つことを意識しているようです。何かを怖がっているのか?」
アメ「距離を保てば『そういう人』のポジションを得られます。つまり『あの人は作らない人』として、作らないことを許されるのです」
ムチ「作らない人ポジに回れば創作力のなさがバレない、小心者の防御策ってこと」


「怖い」は「恥ずかしい」?

実況「『みんなスゴい』は、裏を返せば『私はスゴくない』でもあります。自他の境界線を頑なに守る、その理由は『怖いから』と供述しています」
アメ「創作の苦悩を知っているからこそ、創作者を半ば神格化している状態ですね。皆様の才と努力の足元にも及ばない自分がバレるのが怖いようですね」
ムチ「『怖い』なんて被害者ぶってるけど、その中身って『恥ずかしい』だからな」
実況「かつて高校の国語で読んだ『山月記』の李徴を彷彿とさせます。李徴は己の才能を磨かなかったがために、自分よりできないと思っていた人に抜かされた恥ずかしさと悔しさから虎になりました」
ムチ「解釈浅くない?」

実況「おっとミモザ、ここで『自分がバレるのが怖い』について考えだしました!自分が『誰に』バレるのか、目的語の欠如に気付いたようです」
ムチ「自分の無能が『創作者に』バレるのを恐れてるんだろ。彼らに散々上から発言してきたのに、蓋を開けたらこの程度の実力なんて、恥ずかしすぎる」
アメ「『自分に』バレるのも怖いようですね。観察眼は鍛えているから、己の短所も当然たくさん見つけられます。何をやっても今更追いつけない、それに自分で気が付いてしまうのは恐怖ですね」


「プライドなんて捨てよう」は全然無理

実況「なんと今度は、怖さに手をかけて引っこ抜きました!怖さの根源が知りたいようです。引っこ抜いた怖さの根っこがあらわになりました、が、まだ地面と繋がっています」
アメ「これは立派なプライドですね。自分がスゴい奴である可能性を養分に、すくすくと育ったようです」
ムチ「可能性を失いたくないから作らない、作ったら可能性なんてなかったことが露呈するからな」
実況「つまり彼女は、中身の存在しない無栄養な可能性を吸わせて、プライドを肥え太らせていたのです。プライドは地中深くに根ざし、簡単には抜けません」
アメ「プライドからルサンチマンを抽出して、作品にするのは?」
実況「それには質が悪すぎるようです。もっと本気でぶつかって何かを作っている人と比べたら、怖いとか言って逃げてる時点で中身スッカスカですから」

「作ったことがない」というウソ

実況「ミモザ、プライドを処理できず一旦放置しました。と、恐る恐る何かを覗いています。あれは……中学時代に執筆した二次創作です!」
アメ「しかも、そこそこ好反応を貰っていますね。大好きな絵師さんや字書きさんから頂いた感想を、大事にスクショしています」
実況「これがプライドにときどき供給される、貴重な栄養素だったのでしょう。それなら何故、作ったことがないなんてウソを?」
ムチ「今読み返すと技術不足が分かるからだろ、短歌なのに『俳句です』とかツイートしてるし」
実況「しかし、作ったことがないというウソは、当時好きと言ってくれた人たちの思いをなかったことにする行為では?」
アメ「まだ削除していないのは、彼女なりのその人たちへの感謝でしょう」
ムチ「違うな、このセリフの本質はやっぱり小心者の防御策だ。要するに、創作経験が無いことにすれば、万が一何かを作ったときにダメダメでも『初めてだから』の言い訳が使える
アメ「実際、彼女に『二次創作は創作ではない?』と問えば、まず間違いなく『創作です』と答えるでしょう。作品から新たな世界を生み出せるのは、立派な想像力/創造力だと思っていますから」
実況「はい、ここで保身判定が出ました。『作ったことがない』は、保身のためのウソだったということですね」


立ち止まっていると距離は開く一方

実況「遠くから創作者を眺めるミモザ、かつてはそこにいたのに、いつの間にか距離をとって観察者になっていました。にもかかわらず、どうして今更あちらを気にしているのでしょうか」
アメ「幸運にも、文芸部に入部したことがきっかけですね」
実況「彼女は最近、お気に入りのカフェの店長と常連の始めた文芸部で編集長を務めています。ここでも『作らない人』に徹しているわけですが、やはり創作者のそばにいるほど、創作欲が刺激されるようです」
ムチ「部員にできなさがバレるのは怖いけど負けるのは悔しい、これもプライドか」
実況「文芸部は一緒に少しずつ成長していこう、という和やかな雰囲気ですが」
アメ「とても良い空気だからこそ、汚したくないという遠慮と謙遜が見受けられますね」
ムチ「何でも聖人のセリフに還元できるな」

実況「ここで、ミモザがあるツイートを見ています。『やりたいと言っている人は、やった人には敵わない』。自分の身に置き換えて考えだしました」
アメ「残酷ですが、それが実態ですね。想像の100点より、現実の60点の方がよっぽど価値がある。作ってみたいと足踏みしているだけでは、どこにも辿り着けないというわけですね」
ムチ「追いつくなんて考えず、まずは作らないと話にならない。しかしそれは自分のできなさがバレるので怖い、と」


ちょっと深淵の怖い話——やる気のすり替え

実況「あれ、ミモザが机に向かって勉強しはじめました。創作は?」
アメ「やりたいことよりやるべきことを優先していますね。彼女は一か月前からテスト勉強をする優等生タイプです」
ムチ「その勉強ってやつ、大切だけど、この場合は逃避行動だな」
実況「というと?」
ムチ「本当はやりたいことがあるけどやらずに、中途半端にくすぶったやる気を『やるべきこと』に向ける人間がいる。でもそれは、本当にやりたいことから逃げているに過ぎない」
アメ「やる気の標的をすり替えることで、やるべきことをこなすテクニックとも言えますね」
ムチ「勉強はとりわけ逃避にうってつけだ。ソシャゲやYouTubeなんかは『やりすぎはよくない』と言われるのに、勉強なんて『すればするほどよい』と言われるわけで。しかしそれは、本音から逃げているという点では何も変わらない、やる気のすり替えだ。のめり込むほど、どんどん本当にやりたいことから遠ざる。最後には、やるべきとされることをやっただけの空虚な自分が残るだけだ」
実況「実際、あらゆるやりたいことを『卒論が完成したら』と後回しにしていた彼女ですが、卒論を提出した今も『修論の準備が』と言って逃げています。一見、計画的で真面目に見えるのが怖いところで、逃避行動には見えません」
アメ「計画性自体は大切なことです。しかし、先を見てばかりで今この瞬間やりたいことを放棄するのは、生きていると言えるのでしょうか」


辺りを見渡したら「みんなスゴい」

実況「おっとミモザ、深淵への落下を避け、辺りを見回し始めました。文芸部のみんなが苦悩しながら作った作品をぞくぞくと持ってきてくれます」
アメ「作品を読んで感想を書く、至福のひと時ですね」
実況「編集長なので、一応、誤字や整合性チェックもしています。ペチュニアの開花時期は11月までなのでこの時期はセーフ、っと」
アメ「漢字はまだまだ難しいようですが、編集長の役を素直に楽しんでいますね」
実況「『先生、次の締め切りは三日後ですよ!』とか言って、周囲の創作者たちが苦しんでいる様子をからかっています。しかし彼らの作品を読むときは、本気で尊敬しています」
ムチ「怖さを乗り越えて、あるいはそんなもの感じずに作品を人に見せられること、その勇気に『みんなスゴい』でまた距離を置く」
実況「どうやら彼女が一番憧れているのは、作品の完成度が高い人ではなく、作るしかなかった人、延いては自然と創作に足が向いてしまう人のようです」
アメ「そちら側ではなかったからこそ憧れる、隣の芝は青いですね」
ムチ「また他人事、出発点が違っても作るという行為は同じなのに」

実況「周りの創作者たちは、苦しみながらもどこか輝いています。ミモザ、今度は彼らのことを観察し始めました」
アメ「きらめきの根源は不明ですが、みんな真剣に作っていることは分かったみたいですね」
実況「何度も練習してライブで最高の曲を演奏する友人、書いては消してをくり返して人の心を揺さぶる文章を書く友人、それぞれが誠実に向き合ってやっています」
ムチ「あの人らは『そんなことない』と言うが、作らない奴から見たら一歩踏み出した時点で真剣だからな」

実況「ビビるミモザ、と思いきや、大学で学んでいる美学の教科書を手に取りました。またも逃避か?」
アメ「いや、あのページは芸術の定義です。『かたちとして世に出すことで、初めて作品となる』
ムチ「他にも聞いたな、『完璧を目指して提出しないより、未完成でも出す勇気が大切』」
実況「おっと彼女、ここで完璧が完成する日など来ないことを理解しました。同時に、周囲の創作者たちが、肌感覚でそれを知っていることにも気が付きます」
アメ「みんなそれなりに割り切ってやっていること、それでもあんなに素敵な作品を作れること、奇跡的ですね」


「みんな」の輪に、そろりそろり

実況「ここで彼女、みんなの輪を離れ、もう一度自分を見返しています」
アメ「今の自分にしかできないことを考え始めました、いい一歩ですね」
実況「みんなはもう踏み出している、私はまだ立ち止まっている、では、止まっていることを肯定してから前に進むには、どうすればいいのでしょうか」
ムチ「恥を捨てて己の今を残す、それしかできない」
アメ「それしかできないは、私にしかできない、でもありますね。みんなは進んでいますから」
実況「おっと、おもむろにnoteの『つくる』をタップしました。ようやくすり足で一歩進んでみようとしています。そろりそろり」
ムチ「深夜0時から始めてもうAM3時、何の意味も価値もない駄文をよくもまあ」
アメ「一気に駆け抜けないと、二度とこの衝動を掴めないと直感していますね。明日の予定など二の次、思い立ったが吉日です」
実況「ミモザ、本当は美しい文章や技巧の光るプロット、自然美を切り取った詩などを書きたいようですが、今や一心不乱にへんてこな実況を書いています」
ムチ「これも逃避に違いないが、カッスカスのルサンチマンをどうにか一度吐ききるしか先はないからな」


ここは戦場ではなく、「あそび場」

実況「ん?何かに気が付いた様子。辺りをきょろきょろと見まわしています」
アメ「ルサンチマンとは、弱者が強者に抱く恨み妬みです。ですが、強弱も何も、自分は最初から誰とも戦っていなかったことに気が付いたのでしょう。創作は勝ち負けではないのですから」
ムチ「甘いこと言って、コンクールとか他の部員とかと競い合う姿勢はあるくせに」
実況「おっとミモザ、悔しさのバネでホッピングをしています。ホッピングといえば学童のおもちゃ界のプリンス、懐かしいですね」
アメ「つまり、悔しさも恥ずかしさも怖さも、全てをびよんびよん乗りこなして遊んでみれば、案外このおもちゃも楽しいということです」
ムチ「高さを競い合う大会にはまだ早いしな」
実況「そもそも勝ちを狙いに行く必要などなかったと気が付いて、ぴょんぴょんしています。と、早速転んでいます!でも、跳ねた分だけバネは着実に弾力アップします」
アメ「遊びだからこそ、真剣にやっていますね」


おわりに——結局「みんなスゴい」

実況「ホッピングを楽しんだミモザ、その辺に放置していたプライドをもう一度手に取りました」
アメ「もう一度、プライドを地面に植え直しています。あそび場の彩りになりますね」
実況「プライドの根っこが埋められて、雑草のような『怖さ』がまた地面から顔を出しています。今や雑草は、あそび場を豊かな緑に変えていきます」
ムチ「よく見たら汚いけど、遠くから見る分には、まぁ」
実況「noteもそろそろ終わりにしようと、もう一度文章を読み返しています。さて、自分への感想は……?」

アメ「結局『みんなスゴい』が最初に思い浮かんでいます。でも、今度は『みんな』のはじっこに自分を含めようとしていますね」
ムチ「さっきまで距離を取っていたのに、おこがましいことこの上ない」
実況「恥ずかしいから消すかどうか迷っていますが、『恥を捨てて己の今を残す』、これに勇気づけられました」
アメ「時間差で効くファインプレーですね」
ムチ「(衝動で書いてるから、解説の声が届いてるバグとかには目をつぶること)」

実況「最後に『かたちとして世に出すことで、初めて作品となる』のメモを見返す彼女。きっと明日にはnoteの『公開に進む』を押すことでしょう。もはや眠さで目が閉じかけている」
アメ「明日平日なのに」

実況「では、六千字を突破したところで、『創作してみたいと言いながら何も作らない人観察2024』を閉幕したいと思います。お二方コメントをどうぞ」
アメ「ダメでもともと、一歩でも踏み出したなら上出来ですね」
ムチ「完璧なんて作れないんだから、ボロボロのまま出せ」
実況「それでは長らくお付き合いいただき、ありがとうございました!最後に彼女が所属する文芸部のモットーと共に、お別れしたいと思います」


実況・アメ・ムチ「うるせぇ、やれ」



おわり






いいなと思ったら応援しよう!