唇よ、熱く君を語れ

 小牧幸助氏主宰による、『シロクマ文芸部』。

 とても門戸の広い企画でありつつ、執筆期間の短さがスリル、というギャップがいいですね。トロい自分にはムリかなと思っていたら、気づけば7ヶ月で10数篇ほど粗茶を淹れておりました。飲んでくださった皆様有難うございます。
 短期間でゼロから書くとなると私の場合、勢いでいてこますほか無いのですが、そうすると素のじぶんに恥ずかしいほど近いようなもの、逆に何コレ? と言うほど果てしなく遠いものが現れたりして、完成度はさておき面白く感じています。投稿後一週間ほど直しを入れ続けるのも、シロクマあるある? そうでもないのかな。皆様は如何様にお楽しみでしょうか?


 さて此処で何が言いたいかと言うと、感想文です。
 現在総作品数のべ3694!という勢いのなか私が読んだのはせいぜい100〜200ぐらいですが、感想文……というほどでもないメモながら溜まってきたので出してみようかと。
 飽くまで好みだけに基づいた食べ歩きブログみたいなもんです。頓珍漢なことも言っているかと思いますがテキトーに聞き流して戴けると幸い……
 リンクは貼りません。順序は時系列です。


◆『イチゴシロップ駅にて』小牧幸助

 お題が「舞うイチゴ」。「人とはちがう毎日を送りたくて絵を描く仕事に就いたはずが……」と嘆息する主人公ですが。いつもと違う日なんて何処に潜んでるか解りませんよ〜と言いたいのかさえ判然としない、非日常の滑り込ませ方が不意打ちというか逆に恐ろしいほどナチュラルというか。オチがなくても良いから永久に主人公というかこの街の朝から晩迄を追っていたい心持ちになります。小牧部長のレンズには日々このような風景が映っているのかもしれません。


◆『二十億光年の朝マック』ヱリ

 お題は「銀河売り」。難しかったですね。
 ストーリーとしては凄く大雑把に言えば「遠くへゆく夫と見送る妻」で、油断すると泣きそうなぐらい切なさやヒリヒリ感があるのですが、出てくるアイテムやシチュエーションが、タイトルの示すように生活感溢れるものと逆に遠過ぎるものとで訳の解らない絡み方をする……
 しかし、ブレない。理路整然としない中の何処かに、脳に拠るものでは(あまり)ない皮膚感覚や脈動が、内と外で質感とテンポを噛み合わせたりズッコケるほど合わなかったりしながら、理路よりある種生々しい別の理路を生み出す。「離れて淋しいラブストーリー」の範疇を超えた哀しみ、遣る瀬無さ、そして可笑しみのツボを圧し、読後に品のある香ばしさをのこす。
 いぬいゆうた氏による朗読があります!


◆『街クジラ・オフィスカラス・人混みネズミ・家イモムシ』泥辺五郎

 シロクマ文芸部から生まれた『殺され屋』シリーズも要注目の泥辺さん。それ迄は(知る範囲では)あまり見られなかったユーモラスな側面を全開に、台詞の応酬が映画か舞台の如く華やかで最高なのですが。
 私的に最も好みなのは此方の路線。別枠で続けていらっしゃる『千人伝』シリーズのスペシャル版的な趣もあります。キャラ達がまるきり無関係なようで、蝶の力学的に絡み合うような……描かれるのは所謂ディストピアですが、SFというよりは根源的で生臭くてそして美麗な泥辺ワールドであります。語り手は泥辺さん自身かマスコミ的な人間か或いは神様か……と混乱させられる感じもまた。


◆『嘘つきと街クジラ』納豆ご飯

「街クジラ」、これもトップクラスに難易度高いお題だったと思いますが(街クジラも銀河売りも私は早々に諦めてますけども。笑)。
 本作は大人による少女期の回想から始まり、あっさり口車?に乗せられ「街クジラって昔よく言ったっけ?」ってある筈もないノスタルジーに包まれてしまいます。包まれたならきっと目に映る総てのワードがメッセージ。私は納豆ご飯さんの世代ではない(DSでなくファミコン。笑)ですが、それでもあの頃の長くみじかい夏休みに導いてくれました。今なら「そんなことでアナタ」と笑えてもあの頃はドン底まで落ちる、そんな繊細さと稚さも懐かしくいとおしい。そして終盤のダイナミックさと、クールな締め方も心地好い。ホントでも嘘でも、いいじゃないの幸せならば。


◆『どさくさまぎれ』吉穂みらい

 お題が「私の日」でしたが、初っ端から効かせるヒネりにニヤリ。そしてタイトル通りどさくさに、したたかに紛れまくった戦後の男女の世界へと、冒頭の数行で夜のような黒い腕でぐいんといざなってくれます。
 直にその世情や空気感を知る人がいない若しくは少ない昔話、ましてあのように濃いシチュエーションって、ファンタジーとほぼ同様に読者へ説明しながら進行させるのがそうとうに難儀かと思います。様式美の世界。一言でもミスればヒビの入る壊れ物。しかし吉穂さんによる時代を限定・象徴する言葉やルビを振る部分等のチョイスがさりげなくもデコラティブで、男・女それぞれのクセや色香も自然とむせそうなほど匂いたちます。『にごりえ』みたいな、オムニバス映画の一本のよう。
 とは云えこれは映像にできそうで昨今の役者たちではきっと無理な世界観ですよね。今のイケメン俳優に胸のアレは似合わなそうだしなぁ。


◆『オリーブ色の付箋』Marmalade

 お題「私の日」。Marmaladeさんらしい、日常とメルヘンが陽のそそぐなか有機的に牧歌的に御近所付き合いしているような(というか現実にしておいででは)描写。本作は寓意というよりは英国在住のMarmaladeさんならではのカルチャーショックを感じさせるお話ですが、それでも読み聞かせ風の童話とおなじテクスチャーで、喉越しとても良く楽しませてくれます。とはいえ読み終える迄ちょっと「(主人公が)大丈夫か?」と心配にはなりましたが(笑)。そんな邪な私には逆立ちしたって創れない作品です。
 童話ものでは『ルミと小鳥』が好きです。改めて読むと「お父さんの足のサイズ」に笑いました。因みにジャイアント馬場は34センチだったそうですよ。


 後半につづく。

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