いまのキミはピカピカに光って


↑こちらの続きです。


◆『拝啓マーシャル』転調

 お題は「文芸部」でしたがほぼ無関係に、そのお名前通りに転調してゆく痛快さ。
「2周目」というのは今年某テレビドラマで話題になった「失敗した人生の(タイムワープによる)やり直し」ですね。でもドラマとはやっぱり無関係に、転調さんならではの時も国も軽々跨ぐワードセンスがひたすらに楽しく。全体像がとりとめないものになってしまいそうでならない、通底した音楽(私的にはヒップホップよりも新しめのジャズみたいなイメージ)が其処に流れるように感じます。
 今回一作をチョイスするのに最も迷った作家さんでしたが、『拝啓マーシャル』は切なかったり温かかったり笑えたり怖くもあったり、感情を多方向に動かされるところが魅力でした。ミステリーではないながら解かれゆくふうな快感も(因みに『ま行の悲劇』というミステリー作品もお書きです。これも最高)。


◆『通行人A』豆島圭

 お題は「ただ歩く」。長年連れ添った夫婦が地元で撮影される映画の「ただ歩く」エキストラとなり……
 読後、よく考えたらワンシチュエーションだっけ? と思う程、短編らしからぬ奥行きの広さが凄いですね。舞台となる昭和っぽい商店街、ちょろっと語られる夫婦の過去あれこれ、撮影される映画のストーリー……言いっ放しでなくきっちり回収もされ、お見事。特に妻の顔が3Dで浮びます(山下容莉枝や神野三鈴をイメージしました。この役にはまだ若い気もしますが)。
 三人称でも妻でもなく敢えて?夫の一人称なのも、状況をさっぱり理解していない側の人物に状況を語らせる(ホームズを語るワトソンどころでないレベル)ことで却ってストーリーに迫力が増すのが新鮮で興味深かったです。勉強になりました。
 此方もいぬいゆうた氏による朗読があります! これまたなんか、3Dです(笑)。


◆『読む時間』椎名ピザ

 椎名さんも作品選びに迷いましたが。なんとたった313字のこちらを。
 ピン芸人のフリップ芸を観るような、313字ながら、どんだけーとツッコミたくなるほど豊潤な畳み掛け。しかしこれは、というか椎名さんの作品はやはり文面で、オチを知った後もしみじみ読み返したくなります。
 短いので内容言いませんが、私的なツボは「ピカソ」でした。
『月と視聴覚室とヘイ・ジュード』も好きです。此方は作風が異なり、私厚かましくもどこか親近感をおぼえました(笑)。
 あと、『りんご箱とリバースウィーブとアタック25』も大好きなのですが、ここに出てくる小学生って『嘘つきと街クジラ』の主人公??


◆『秋と桜と君と血と』白鉛筆

 シリーズ物は基本取りあげていませんが(単品で語りにくいから)敢えて選びたい『六角形シリーズ』の記念すべき第一作。
 小説って読者にとってはゼロの状態で始まる訳で。例えば1頁書いて「人物のルックスとか事情とか背景とか、何%説明したか」というのを何となく計算しながらやってかないと変なことになる。実は数学的頭脳が存外に重要で(私はその辺がバカ。笑)。
 白鉛筆さんの作品はいつも計算が巧みでらっしゃるというか、美しい。ほそい鍼でも打っていく感じでドラマが血流を生んでゆき、うっとりします。
 コレを選んだ理由は、白鉛筆さんらしいクールさ真摯さ繊細さ、そしてたまに書かれるリズミカルなユーモア、痛快なアイロニーや脱力感も詰っているから。この一作のみでも主人公がきっちり薫っているから。お題の「秋桜」も実物で出ないけど、不思議な形で咲いてます。


◆『逃げる夢を見る男と見ない男』二郎丸大

 お題は「逃げる夢」。こちらも短い作品なので内容言いませんが、設定とムードと登場人物2人の性質が、ちぐはぐなようでいて「ひょっとしたらこんな事あり得るかも」という不思議なリアリティーとバランス感覚で成り立って魅力的です。この後どうなるのか色々想像膨らみますが、私は「きっとあのヒトは大丈夫で、○○は何かしら良いものを噴き出していたのでないか」と思っています。
『りんご箱を置き配するのやめてください』も面白いですね。二郎丸さんは純朴なエッセイでも怖い創作でもそう掛け離れていない事のように、寓話の語り部さながらサラッと綴られるところが好きです。


◆『並木道をとおって』かうかう

 お題は「十二月」。舞台は団地です。そして昭和っぽい。その片隅に暮す奥さんの独白形式なのですが。
 意味ありげな事に微かに触れたり、関係なさげなところへ気持ちが傾いたりしては、またニュートラルっぽい立ち位置に戻る。
 しかし戻ったふうに見えて実は別かもしれない、造りが同じ団地の棟を彷徨ううち現在地を見失ったような、不穏な不協和音、ひりひりする十二月の空気が伝わってきます。向田邦子作品を観るかのような。
 こちらもまた一人称効果が素晴しいですね。「その人しか喋ってない」って、なんて怖いんだろう、と今更思います。もしかしたら一から十まで嘘か思い違いを言ってるかもしれないし(嘘言っちゃいけないルールも小説にはない)。傍から見ればこの奥さんは奥さんですらないのかもしれない……

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