迎 颯太

小説を投稿します。すこしばかりの暇つぶしのお供になればと…… 何かございましたら「クリエイターへのお問い合わせ」から連絡していただけると、幸いです。

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マガジン

  • 【小説】親ガチャ

    全9話の小説です。

  • 【小説】ビニール傘

    小説の連載です。ビニール傘が人の生活を見守っています。

最近の記事

親ガチャ(9/9)【小説】完結

https://note.com/mukaisota12/n/n8e6df6e22f3c  パチッという音ともにリビングが明るくなる。  陽菜を見ると、起きる気配がなく、気持ちよさそうに眠っている。 「陽菜すごいでしょ。夜に眠るとちょっとや、そっとでは起きないの。そういう才能なのよ」  そう言って恵は陽菜のずれた布団を整える。  部屋は暖房がついているから暖かいはずなのに、恵のスマホを持つ手に感覚がない。 「で、あなたはここで私のスマホを見て、何をしているの?」  恵は友晴

    • 親ガチャ(8/9)【小説】

         眠れない。  スマホを見ると、すでに2時を回っていた。  眠たい気がしたからベッドに入ったのに、眠れる気配がない。眠ろうとしてから、何回スマホを開いたか分からない。そのおかげか暗い部屋なのにスマホの明るさに目が慣れてしまった。  意味もなくLINEを開いてみる。未だに勇樹のトークが1番上にきている。  『今日はありがとうね』『何かあったらまたよろしく』というメッセージの後に親指が立ててあるスタンプが送られてきた。  勇樹のLINEは初めて会った日に流れで交換した。その

      • 親ガチャ(7/9)【小説】

        『勇樹さんのことよろしくな』  家に入る前に来たのが、武からのLINEでため息がでる。友晴は既読だけつけて、スマホをポケットに戻した。  ドアを開けると、玄関にはいつもより靴が多い。友晴はもう一度ため息をつく。リビングのほうから、女の声とクラシックのような音楽が聴こえる。  友晴は廊下を進み、一応リビングを覗く。やはりずっと流れているクラシックはリビングからのものだった。こんなことは初めてだ。バイオリンらしき音が轟いている。  入口に一番近い場所の床に勇樹が座っていた。  勇

        • 親ガチャ(6/9)【小説】

           『7』の男と『5』の女の素数カップルだ。  コーヒーをすすりながらカフェに入ってきたカップルの頭上の数字を観察する。人の頭上の数字を見て優越感に浸るのがたまらなく気持ち良い。  友晴は自分のスマホを見る。黒画面に反射した自分の頭の上には『100』が浮かんでいる。顔が見えていれば色がなくても、数字は見えるらしい。  『7』と『5』のカップルが隣のテーブルに座る。「この前のゼミでさあ」という声が聞こえるからおそらく大学生だろう。『7』と『5』の癖に幸せそうなオーラを見せつけてい

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        • 【小説】親ガチャ
          9本
        • 【小説】ビニール傘
          2本

        記事

          親ガチャ(5/9)【小説】

           叔父になったらしい。  姉の恵は予定日より早い出産となった。  母親の佳子から、『赤ちゃんが産まれそう』という連絡がきて、友晴は嬉々として、病院へ向かった。ちょうど恵たちに会いたいと思っていた。家族に呼び出されて嬉しいと感じるなんて初めてだ。  安産だったらしく、病院に着いたときにはすでに産まれており、病室に運ばれた後だった。  個室の病室にぎゅうぎゅうに人が入っていて、友晴は出入り口に佇むしかない。 「こんな大事なときにどこ行ってたの?」と病室に着いたときに佳子からお小言

          親ガチャ(5/9)【小説】

          親ガチャ(4/9)【小説】

           人が歩く風景に意識を向けるのはいつぶりだろう。人間なんて見たくなかったから、いつも地面ばかりを見ていた。人の歩く姿が新鮮に映る。  ドトールの窓際のカウンター席から見える大通りでは人がまばらに歩いている。歩調が軽やかな人ばかりだ。駅前のドトールだから、平日ならスーツを着た人々や学生たちが時間に追われて早足で歩いているのだろう。友晴は改めて今日は日曜日だと感じる。  昨日の陽の結婚式は土日休みの会社員に配慮してか、土曜日に行われた。友晴には何の関係もない配慮だった。  友晴は

          親ガチャ(4/9)【小説】

          親ガチャ(3/9)【小説】

            目を開けた先にはビールの缶と柿ピーの袋がローテーブル上に散らばっている。  頭痛がする。確実に太っただろうな、と少し出てきたお腹を摩りながら思う。  コンビニから帰って飲み食いした後、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。時計を見ると3時半をまわっている。外は真っ暗だから、夜中だ。まだ1日も経っていないのに結婚式に行ってきたのが遠い昔のように感じる。  空気がシンとしている。普段ならまだ寝ずにYouTubeかXを観ている時間だ。仕事を辞めてから夜更かしすることが増えたから

          親ガチャ(3/9)【小説】

          親ガチャ(2/9)【小説】

          前回の続きです。  靴が増えている。  友晴はげんなりしながら、革靴を邪魔にならないように端っこに置いた。  重い足取りで、リビングに向かう。引き出物が入った無駄に大きな紙袋が重くなってくる。 「おかえりなさい」  ダイニングテーブルに座っている母親の佐藤佳子がこちらを向く。姉の玉井恵はスマホから目を離さない。  友晴は「うん」と返事をして、テーブルに紙袋を置く。広いテーブル上でも引き出物用の紙袋は存在感がある。 「邪魔なんだけど」と恵はスマホから目を離さないまま棘のある言

          親ガチャ(2/9)【小説】

          親ガチャ(1/9)【小説】

           この世には当たりか外れのどちらかしかない。そして、紛れもなく自分は全てに外れてきた。  周りからは浮かれた話声が聞こえてくる。自分が当たりの人間であることを誇示しているかの如くだ。  テーブルの上のお皿にはナプキンがきれいに飾られている。佐藤友晴はネットで予習したことを思い出しながらナプキンを手に取り、恐る恐る膝の上にのせる。隣の席の勝村武も同じようにしているのを見て安堵する。  本当はこんなところに来てはいけなかった。後悔すると分かっていたはずなのに。 「幸せをもらうって

          親ガチャ(1/9)【小説】

          【小説】念願(後編)

          前編の続きです。   よろしければ、こちらからどうぞ。  それでは後編をどうぞ!  洗面台の鏡に映るスーツ姿のロボット。  前職以来のスーツ姿に感慨深さも何もない。  俺はロボットなのだから。  肌寒くなってきて、人間だと思っていたころだと人肌恋しいと感じていただろう。  今から一年と少し前、俺は気が付いた。俺の生きにくさは、人間ではないということを自覚していなかったせいだ。  グーグルの画像認証を解けないことでようやく自分の生き方が分かった。グーグル先生は本当に優秀だ。

          【小説】念願(後編)

          【小説】念願(前編)

           やっぱりそうだったんだ。  ついに認められたんだ、俺は。  手に持ったスマホをもう一度見る。スマホには三×三の九マスの似たような写真がまた出てきている。  今回要求されたのは、この九マスのうち信号機が映っている写真にチェックを入れることだ。  俺は信号機だと思われる写真を順番にタップする。  左上、真ん中、右下は確実に信号機だ。赤、青、黄色が点灯される三つの円がある。これが信号機でなければ何が信号機だろうか。  でも、それらは問題ではない。難問は右のやつだ。  三つの円が映

          【小説】念願(前編)

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(後編)

          三本立ての一応ラストです。 よろしければこちらもどうぞ。 【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(前編) 【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(中編) 『シバルリーの新曲 人気爆発』  実彩子はネットニュースの見出しに目がいったが、気にしないようにそのままスワイプをした。  あれ以降シバルリーという文字を見ないようにしてしまう自分がいる。 『ごめん、少し遅れる』 『わたしも』  画面上部に愛彩、咲良の順番でメッセ―ジが立

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(後編)

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(中編)

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(前編)の続きです。 まだ読んでない方はこちらからどうぞ!    雲が厚くなってきた気がする。  今日は雨が降らないだろう、と高を括ってビニール傘を持ってきていない。そろそろ折り畳み傘が欲しいなと思いつつ、買っていない。お金もないし、まだ持っていなくて困ったことはない。  休みなのに思っていたより食堂に学生が集まっている。  毎年この大学では内定者が出始めた六月に内定者交流会が行われる。  内定をもらった学生が

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(中編)

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(前編)

           ビニール傘はお手軽なツールだ。コンビニから百均にまで売っている。  急な天候の崩れに、重宝される。皆が好んで買うことはなさそうな傘。 誰もが一度は手にとるだろう。  入り口の脇に佇んでいるそれを目に入れつつ、今日もなんとか踏ん張らないといけない。そう思うと気持ちが萎えてくる。 「ありがとうございましたー」  一ミリも思っていない言葉を義務感のみで発する。クレームにはならないであろうくらいには感情を入れるように気をつけてはいる。意味があるのかは分からない。  学校帰りの高校生

          【小説】①売れてゆくビニール傘とどこに行きたいか分からない自分(前編)