イノベーションはユーザーが起こす(最終) ― ITが普及する要因

今回、前回までの議論の結論に至ろうと思う。
これまでの議論を振り返ると、ユーザー自身がイノベーションを起こすのは、ユーザーが情報の粘着性の高い情報を持ち、メーカーに伝達できないから。これは、ITの導入についても言え、業務面、技術面、導入方法面に粘着性の高い情報が存在する可能性がある。

IT導入にかかわる分析のフレームワークを示すと下図のようになる。

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IT利用者(ユーザー)においては、例えば業務の課題が、導入に関わる者においては、導入の方法論が、IT製品ベンダーにおいては製品固有の技術が、それぞれ高い情報の粘着性を持つ場合がある。また、情報の粘着性議論の以前に、前提として、IT利用に関する外部環境(例えばインターネットの整備状況)、社会的要因(例えばSNSの普及)等がある。
本フレームワークを用いると、注目されたITの導入が進む(つまりITが普及する)理由を説明することが可能になると考える。

例えばERPの導入では、複雑な業務を、固有の製品技術で解決していかなくてはならない。両情報の粘着性はとても高いため、IT利用者、IT導入に関わる者、IT製品ベンダーが役割分担すると情報を伝達することが難しく、ユーザーが望んだシステムを構築することが難しくなる。そのため、徐々にしかERPの普及は進まない。
一方で、最近のSaaSで提供されるSFAやRPA等のいくつかの製品については、ユーザーの情報の粘着性が低いわけではないが、IT製品が、比較的容易にITユーザー部門で自ら解決(機能拡張)可能となるため、ユーザー自らが問題を解決し、ITを導入することが可能となる。そのため多くの企業にITの普及が進む。
さらに、ビジネスチャットやオンライン会議については、業務面、製品固有技術面で、ともに高い情報の粘着性があるわけではないため、IT利用のための社会基盤が整備され、もしくは社会的な抵抗が低下すると急速に普及することになる。

このように、粘着性の高い情報がどこにあるか(/ないか)、また誰がIT導入・利用に関わる情報粘着性の問題を解決するのかを分析することで、IT導入が進むかどうかを明らかにできる。

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