ワシントンポストの「多様性&インクルージョン担当編集局長」
少し前に、The Washington Postが「Managing Editor for Diversity and Inclusion」の募集を開始していた。無理やり日本語にすると「多様性&インクルージョン担当編集局長」だろうか。
この職種の役割は「シニアエディターや他のスタッフと連携し、あらゆる報道やオペレーションにおいて多様性やインクルージョンが保証されている状態」を達成するための取り組みをリードすること。具体的な仕事内容としては、以下のような項目が挙げられていた。
・雇用や昇進などの意思決定における多様性を推進する
・人種やアイデンティティにまつわる報道について部署を超えた議論をファシリテートする
・より多様な経験や視点を持った人々を取り上げるインクルーシヴな報道を促進する
・人種やエスニシティ、アイデンティティなどセンシティブなトピックにまつわる報道をレビューする
・それらのイシューにまつわる懸念に耳を傾け、報道部の上層部に共有する
Managing Editorとある通り、報道内容だけでなく、報道のプロセスや人事評価などにおいても、多様性やインクルージョンを担保する役割を担うのだろう。
米国大手2紙のダイバーシティ&インクルージョンの取り組み
この新職種の求人は、BLM運動を受けて、The Washington Postが発表した改革の一つだそうだ。
CEOのFredRyan氏は社内メールのなかで、自らの組織において「より強固な多様性と公平の文化を築く」ため、そして米国において人種や多様性の議論を率いていくために、新たな役職を追加すると綴った。そのために、前述の職種以外にも、HR部門において「director of diversity & inclusion in Human Resources」を募集すると発表している。
改革の中身は新たな職種の設置だけでなく、従業員向けのフェローシッププログラム「Unconscious Bias Training 」や米国における多様な課題を扱った動画シリーズ「Race in America」の拡大、HR部門における「Unconscious Bias Tranining」の実施など多岐にわたる。
雇用主として、報道組織としての課題
NPRの記事によると、The New York Timesも「より多様で公平、包括的な企業」を目指すためのアクションについて社内メールで共有したようだ。
メールでは報道組織としてだけでなく、雇用主として、社内の誰がどのような課題に取り組むかが記されている。
例えば、いち雇用主としての課題には次のような項目がある。
有色人種がリーダーシップにおいて十分にレプリゼントされている状態を保証するためにどのような改善が必要なのか?
どのように公平な雇用、昇進の慣習を保証できるのか?
どのように社内のリーダーやマネージャーは改善への責任を負うべきか?
有色人種がよりオープンかつインクスーシブに感じられる文化をどうアクティブに形成していけるのか?
上記を可能にするために、どのような新しい振る舞い、ケイパビリティ、リソース、プロセスが必要になるのか?
いち報道組織として向き合わなければない課題には次のような項目がある。
ニュースルームにおける重要な意思決定において多様性が反映されているとどのように確かめられるのか?
ストーリーを受け取り、構築し、編集する方法に多様な視点が反映されているとどのように確かめられるのか?
どのように私たちの報道をより広く多様な人に届くよう進化させるべきなのか?
二社の取り組みに共通するのは、報道組織として何をどう報じるかだけでなく、いち企業として組織内にある差別を厳しく見つめ、自覚し、アクションを起こそうとしているところだ。
大手の新聞社がそうした改革を率先して行なっていることは、ポジティブな動きだと思う。一方で、米国でもここまでの事態にならなければ変われないのかという暗い気持ちもある。better late than never(何もしないより遅いほうがマシ)という英語のフレーズは大好きだけれど、軽々しく使えない場面も多いなと思う。
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ちなみに、この2紙の動きを報じたNPRは、5月に「Unarmed Black Man(凶器を携帯していない黒人男性)」という言葉の使い方にまつわる記事を掲載している。特定期間における自社のニュース文を分析したところ、「Unarmed Black Man(凶器を携帯していない黒人男性)」は複数回登場していたのに、「Unarmed White Man(凶器を携帯していない白人男性)」は一切使われていなかったと、無自覚なバイアスを謝罪した。