山の端のむらさき

 私は女子大生になることに憧れていた。
政略的に、故郷を遠く離れて、大学生活を送るには女子大しかないだろうと考えたわけではない
 場所は絶対に京都
いわゆる古典オタクだったので、菅原孝標女ではないが、「源氏物語」も「枕草子」もすでに少女の頃から、耽溺していた。
教室の窓から、遠く清水寺を望み、清少納言が清水寺を詣でる段の枕草子の講義を聞くなんて、これ以上の贅沢があろうかと、満足の吐息をついていた。
 アドヴァイザーの教授は中宮定子の話になると、目に涙を浮かべて、彼女の悲運を嘆き、しばし、瞑目するというような方であった。
生涯にわたって、「定子の墓守」を任じ、お命日には墓参、香煙を絶やすことがなかった。
「一帝二后」という道長のごり押しで、十二才の彰子の入内の日、中宮定子は華々しい後見もないままに、第一皇子の敦康親王を出産している。(涙)。
そして、その九年後、彰子が第二皇子、敦成秦王を出産したことで、第一皇子の天皇への道は閉ざされてしまった。(涙)
父、道隆の悲願である外孫の天皇への道を考えると、中宮定子の運命はまさに悲劇といえようが、女性としては、一条天皇との真実の愛を全うしたのではなかったろうか?
 紫式部の良き薫陶を受けた彰子もまた、物語好きの一条天皇の心を源氏物語を中心に、和泉式部など女房文学の華麗なるサロンのマダムとなって、魅了し、藤原摂関政治の礎となる大刀自としての成長を果たしたこと。
 桜の季節も終わり、葵祭の近づくこの頃、千年の昔の女人の悲しさ、強さをふと考え込む。

夏牡丹花びら落とした暗がりをひたしゆく真夜の静けさ
むらさきの房うすれゆく夢の序列遠ざかるもののみ香る
季ゆきて風過ぎゆきて花穂なすむらさきのものがたり夢のかたちす
遠き世の水売りの声ひばりの声零して銀をかたみに数ふ



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