秋の残像
夕ぐれの迫る野面を薄く煙が漂っている。懐かしいような野焼きの煙だ。辺りにはそれを見守る人影もない場所。大津絵の鬼の目のような、赤い炎がちらと見えたりすると、まるで、野原が自分の意志で燃えているような錯覚を持つ。
地上に低く重く漂う煙のなかに、真紅の紅葉が無数に散り込む。この間まで畔道に溢れていた彼岸花の群生は、もう、土に溶けてしまったのだろうか?いつの世も語り尽くせぬままに消えていく秋の絵草子。
静かな煙の結界を通して、こちらを眺めている物の影が視えてくる。
煙の漂うあわいにすでに姿のない花たちの悲話だけが、きれぎれに聞こえてくるような。
私と過去世とのすれ違う瞬間のように。野焼きのけむりは忍びやかにどこまでも広がってゆく。、
彼岸花残像のみが揺れて立つ野の遊女のごと頬の褪せて
極まりし炎の異相と思ふまで彼岸花野を昏き方へとながるる