トキワツユクサの行方
露草を部屋に活けると言うのも、始めてなら、この三か月あまり、一度も花を変えることなく、同じ花を挿していることも始めてである。
露草を備前の徳利と一輪挿しの花瓶に活けて並べたのは、二年前から、行方不明になったトキワツユクサを活けたつもりだったのだ。庭には三種の露草が茂っていた。
楕円形の葉のふちが少し波だち、立派な茎は思案をするように、少し折れ曲がり、そこから、またゆっくりと茎を、伸ばしてゆく。
その姿は普通の露草とは風格が違っていた。
遊びに来たとなりの猫のここがなぜか、この備前の花瓶の露草に目を止めた。鼻を近づけ、目を細めて葉っぱを齧る。
「齧っちゃ駄目、これは食べるものじゃない。」
ここは耳をかさないで、有ろうことか、幸せそうな笑いまで浮かべている。
「ねえ、見て、ここが笑ってるよ」
露草の葉の何枚かはここに齧られて、ギザギザになってしまった。
仕方なく、私はハサミでその部分を切り取る。すっかり新しいのに代えることも考えたが、もうすでに、立派な髭ねがついているのだ。
露草の花が咲いた。あの泪のような清冽な光りの露のような白い花ではなく、普通の露草だった。立派な葉や茎にも関係なく、普通の青い露草の花だった。
ここに齧られたのが原因だろうか?
今朝も水をかえながら、ポーの短編を思い出す。身も凍るような恐怖をあじわうと、一晩のうちに白髪になるというけれど、本来、白の花が青になるというのはどういうことだろう?。
トキワツユクサの花のことを教えてくれた人は、悲しみの白も、いつか、青い微笑に変わることを、知らせ忘れたのかもしれない。
微光放つ卵がひとつ卓の上月守りのごと眠れずなりぬ
訪へば木立の奧は微笑する石佛たちの厚きくちびる
露草の一花ほどの想ひとふ あふみの空やはらかく瞼とぢたり