ものがたりよりも物語的な、、。

 光源氏のモデルは何人かいる。モデルを誰にするかで、物語に対する熱量も決まってくると私は思う。
物語好きな一条天皇の関心を惹きつけ、中宮彰子のサロンをより魅力的にするためにと、式部に貴重なる紙を潤沢に与えたパトロン的藤原道長。あるいは、プレイボーイとしても名高かった夫、宣孝から男女の恋の綾を知ったとの説もある。
 桐壺帝の溺愛をバックに恐いもの知らずの青年であったころの源氏と、須磨、明石へと流浪の旅をして、世界の裏側に身をおき、人心の表裏を知った後の源氏はさながら別人のごとき、表情を見せると思う。
源氏は変わっていく。どんどん変わっていった。(このあたりに、モデルの多様性がある。)
 壮年になって、いよいよ華やかな生活をする源氏は幸福な恋をすることは。もう、なかったのではないか?。
「野分だちて、、」台風がもたらした、冷気に目覚めた今朝、ふと物語の一節を口ずさんでみる。
遠く天霧に包まれた山並みの向こうに眠る、苔むした小さな墓を思い浮かべる。
光源氏のモデルとされている在原業平の墓だ。容貌にも才能にもめぐまれながら、宮廷人ならば必須の教養、漢籍には見向きもせず、仮名文字で、優れた歌を読み残した。恋と風流の世界のみにスキャンダラスな生涯を生き切った業平。その晩年は謎に満ちていて、ここから、山二つを隔てた在原村という天空に近い山里に眠る業平。
私はこの業平を彷彿させる、十七才頃までの源氏の官能的な破滅の美しさをたたえたまなざしが好きだ。
 源氏物語は世界に誇れるロマンだが、源氏の恋の遍歴の魅力はその頃までと思っている。

炎天の蓮田に燃ゆる火を放つ遠き異端の神話のやうに
冥府とふ炎の色の朱みつる古説話の中なる淋しき鬼
種を投げ火の櫛を投げ言葉投げよもつひらさか夢より逃亡
まぼろしの櫛もつ手はをみなにてたしかに闇をはかりて梳けり

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