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鉄の処女 短歌を詠む。

◆短歌を詠んだきっかけ

 隣席歌会。隣の席で本と映画の話をめっちゃしてくるVtuber古書屋敷こるのちゃんが主催で、「隣の席の諸君」(こるのちゃんのファンを指す)から短歌を募るという企画です。

 私は、中世ヨーロッパ出身の鉄の処女。とうぜん歌の心などというものはよく分かっていません。
 そもそも、日常の中で短歌にふれる機会ってあんまりないんですよね。

 短歌クラスタってやっぱり、日常でもグッとくるシチュエーションに遭遇したら、即興で歌を口遊むのかな……? 
 いや、そもそも歌を詠みたくなるシチュエーションってなんだろう。美味しいご飯を食べた時とか? でも、近所の定食屋さんでご飯を食べてる中で31字で想いを綴ってる方って私の浅い人生経験の中で、ついぞ出会ったことがないんですよね。
 そういうシチュエーションは歌うタイミングではないのかもしれない。

 そんな私が興味本位で見ていた歌会配信。こるのちゃんはとても丁寧に集まった歌の解釈を語りながら、その歌の面白さを解説していきます。
 私がパッと見でよく分からない歌も、彼女の解説によって理解が進みます。歌の理解の勘所みたいなものがわかってくると、思わず「なるほど!」と唸ってしまう。

 ちなみに、「隣の席の諸君」も基本的に文芸クラスタで読解力に長けているため、私が歌の意味が読み取れず「……?」となっている最中にも「ふうん、なるほどね……」「フッ、そういうことか……」と言わんばかりにしっかり解釈したコメントをしていらっしゃるので、「ど、どういうことだってばよ……」という気持ちになる。

 さて、ここで私の中で、ふいに浮かんだ悪だくみ。

「歌の心とかが分からない私が歌を読んだら、彼女は一体どんな解釈をするんだろう?」



◆心の分からない悲しい怪物が歌を組み立てる


 言ってはなんですが、私はこれでも『文学』ってやつを学んできたんですよね。
 ところが、文学の根底にある精神性? みたいなものについてはすっぽり抜け落ちているんですよ。鉄の処女なので。

 なので、私の歌は情緒とか感情とか、そういったものが分からない生物が、見よう見真似で人間のまねごとをしているようなものです。
 以下に、その制作プロセスを備忘録程度にまとめてみます。短歌の好きな人にとっては噴飯ものかもしれないです。読むときは口にものを含んでない状態読んでくださいね。


●フックになる単語を考える。


 隣席歌会、テーマが決まっています。4回目のテーマは「火」でした。

 まずはテーマから想起する単語を考えます。火……。火。花火とか。太陽……爆弾? 脳裏にいくつか単語が去来しますが、いずれも「ぼーん! バーン! ドカーーーン!!!」という感じで……こう。なんていうか。勢いが強い。
 花火とかもう陽キャシチュエーションじゃないですか。
 
陰湿な人生を歩んできた私がそんな歌作れるわけないでしょ!!

 ほかに何かないかな……。英語とかどうだろう。現代短歌だから英語とかあったほうが面白いかもしれない……。ファイアー……マリオ……。ファイアマリオ……。

 ファイアマリオって単語は面白そうです。あまり歌に組み込まなさそうだし。あと、妙に具体的なので全体的に抽象化になりがちな短歌のフックになりそうだし、現代短歌っぽい(?)し。
 あと、6音? なので短歌のリズムに組み込みやすそうですね。


●シチュエーションを考える。


 フックになりそうな単語が思いつきました。次にこれが登場しそうなシチュエーションを考えます。
 
順序、逆じゃないかな。大丈夫?

 まあ、手っ取り早いのは「スーパーマリオ」とか「マリオカート」とかやっている時なんでしょうけれど、それは短歌としてどストレートな気がするので、もうちょっとひねりが欲しいです。
 ファイアマリオって要するに、ファイアフラワーをとってパワーアップしたマリオなんですよね。

 つまり、パワーアップの例えとか比喩に使えそう、な気がします。マリオを遊んでいないと伝わらない文脈ですが、まあマリオみんな遊んでるよね……(実は、こるのちゃんがこの文脈を理解できない可能性はずっと捨てきれていなかったです。なんか、マリオ遊んだこと無さそうなんだもん)。

 なので、花をみて元気が出た女の子というシチュエーションが思い浮かびました。
 
花をみて 私のこころは ファイアマリオ

 なんとなく第一段階。「私のこころは」のあたりにダサさが残りますが、まあ、とりあえずこのへんをやりくりしながら、31文字埋めていきましょう。


●緩急を整える。


 さて、第一段階だと、めちゃくちゃストレートに元気ですね。「ぼーん! バーン! ドカーーーン!!!」って感じで、このまままとめてしまうと、主催から「頭の悪い歌だ……」などと思われかねないので、上手くテンションをコントロールする必要があります。
 パッと見でよく分からない方が現代短歌っぽい感じがするし(誤学習)。

 元気が出てファイアマリオになったということは……裏を返せば、それまで元気がなかったんですよね、多分。ちびマリオ状態。

 ちびマリオって、マリオだと初期状態です。
 で、マリオって最初のステージってめちゃくちゃ青空の下の草原を舞台に楽し気なBGMが流れてて、まあ、とにかく「ここからとっても楽しいゲームが始まるよ!!」感いっぱいなんですよ。

 でも、ちびマリオは基本的には一番弱い状態のマリオなので……。牧歌的なステージの雰囲気と対照的に、マリオ本人は死に物狂いなのでは……。
 クリボーに触れただけで死んでしまう、今のマリオには、もしかすると綺麗な青空が広がる牧歌的なステージ背景を楽しむ心の余裕がないかもしれない!!

 これです、これです! きっと青空を見てる余裕がないんですよ。女の子には。だから、うつむいてるんですよね。そしたらそこで花を見つけて元気が出る、みたいな感じでまとめてみましょう。

青空● ●●●●●●● 花をみて 私のこころは ファイアマリオ


 第二段階。青空という単語を頭にもってきたので、全体的に明るいイメージですね。でも青空っていう単語がちょっと漢字だと見た目が「黒い」のでひらがなにします。
 こういうのは、短歌だと「開く」っていうんですかね? 私の場合は文字の黒さとか重さとか……まあ、そういうものを視覚的に見てバランスをとってる感じです。短歌の「開く」のもつ作用はもうちょっと違う意味合いなんでしょうね。

 「あおぞら」はポジティブな単語ですし、「花をみて~」以降もポジティブな展開なので、間にネガティブな展開を差し込んで、ポジ→ネガ→ポジという感じの緩急をつけると、テンション自体がリズミカルになって楽しそうですね。

 青空を楽しむ余裕がなくて、うつむいている、ということは、見てないんですよね、青空。見ていない、視線を逸らす、そっぽを向く……。

 ああ、そっぽを向くとか面白いんじゃないかな。なんか可愛いし。

 そうすると、「花をみて」だと能動的ですよね。意図せず見えた花なんだからきっと「見えた花」とかのほうが妥当かな。
 あと、「私のこころは」も微妙に口にした時に言いにくいですね。ラストのファイアマリオがフックの歌なので、それまでの展開はなるべくするっと流せられる方がいい気がします。

 こころ、みたいに比喩感を出すんじゃなくて、そのままダイレクトに「ファイアマリオになったぜーー!!」ってした方がいいかもしれない。心情を詠んでる歌の中で「こころ」とか入れちゃうと解説的すぎるかな。
「いまのわたしは」にしましょう。「今の私は」とかだと、字面が縮こまってみえて、ファイアマリオになってる開放感がないですからね。

 あ、「開く」ってこういうことなのかな。

あおぞらに そっぽ向いたら 見えた花 いまのわたしは ファイアマリオ

ということで、完成しました! 見よう見まねのテクニックだけで構成したマイ短歌!! この歌が、こるのちゃんによってどのような解説や評価をされているかは、配信を確認してみてください。


◆反省点

 隣席歌会には、最後にみんなのお気に入りの短歌がどれかを選ぶタイミングがあります。私の歌は残念ながら、該当なし!!
 うーん! まだまだですね。
 いえ、他の方の歌が素晴らしすぎて当然の結果なのですが!!
 以下は、今後に向けての反省点です。


●テクニックに拘りすぎて、単語のチョイスが甘い。


 単語はもう少し精査すべきだったかもしれません。ボキャブラリが本当に小学生とか中学生のそれになってしまっていて、学生の課題短歌みたいな雰囲気になってしまいました。

●表現や感情のギャップや転機にもうひとひねりほしい。


 せめて、あと半回転あっても良かったかもしれないですね。ファイアマリオになってもなお、元気になりきれない、くらいのシニカルさとか諦念感みたいなものがあっても良かったかな……。

●フックが弱い。


 単語のチョイスにも関係してますが、やっぱりファイアマリオだけだとフックが弱くて、するっと聞き流されてしまいますね。のど越しが良すぎました。引っ掛かりが弱いと、3時間近い歌会が終わるころには「あったね、そんな歌」くらいになっちゃうので、もうちょっと意図的な読みにくさや聞きにくさを意識したほうがよかったかも。

●ニーズを読めていない


 お気に入り短歌に選んでもらえるなら、相手の好みを研究しておかないとですね!! そこの意識がまだまだ弱いです。
 例えば空を見上げてるシチュエーションとかを、「リストカットしてあおむけに倒れてぼんやり空を見上げてるけれど、目にさす太陽の光がうっとおしくて目をそらした」にすると刺さりそうな人とかいそうなんですよね(偏見)。


 などと、反省点を胸に、きっとあるであろう第5回では、みんなの心に爪痕を残したいです。
 テクニックだけで中身のからっぽな歌でどこまで勝負できるか……。
 短歌シロウトの私の歌が、いつかみんなを騙せる日が来ると良いですね!

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