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家、買っちゃう?

旦那さんとは紆余曲折の末、再婚。5周年になる。ほぼ毎日一緒に酒を酌み交わし「今一番叶えたいこと」を話し合う間柄は今も変わらない。結婚した当初は、一緒にバレーボールをすることに情熱を燃やしていた。彼はいつしか(副業で)バレーボールを指導する立場を手に入れ、アタシは何となく「違うな」と感じ始め卒業した。今となっては眼が悪くなったことも関係していたのかもしれない。

ある朝、彼に「今一番叶えたいこと」を問うと「ゴールデンレトリバーと暮らしたい」と答えた。「バレーボールをできなくなったとしても(そんなことにはならんだろうが)ゴールデンと暮らすことを想像したらワクワクする」と。

アタシは前の結婚時代にゴールデンレトリバー(どんちゃん)と暮らしていた。当時はスマホがない時代で、今みたいに動画撮影なんかできなくてもっぱら写真を撮りまくってはSNSに投稿していた。そして彼(今の旦那さん)は、どんちゃんの(ついでにアタシの)大ファンだったのだ。

今暮らしているのは賃貸マンションでゴールデンレトリバーと住むことは到底できない。彼の望みを叶えるためには戸建てに引っ越すことは必須条件だ。
「これ見て、400万の平家。400万ぐらいやったら払えそうな気ぃする」
「いいねいいね!その感じ!ちょいとドライブがてら見に行こうや」

400万の物件はとんでもなく山奥で「雨が降れば土砂崩れはつきものでしょ」と思わずにはいられないところにあった。草ボーボーだし湿っぽいし爬虫類いっぱい住んでそうだし。
「ここはナシだな」
お互いに喋らずとも感じていることはわかった。
全然ワクワクしなかった。
「帰ろか」

ドライブを楽しんだと思えば満足だ。あとはランチしてスーパー銭湯行ってアカスリして帰ろうかと話していた。ドライブ途中も「平家400万」で検索を続けるアタシ。見つけたのは赤い壁が可愛らしい平家。お庭が四角くて広い980万の物件。なんか、気になって気になって仕方がない。ランチのとき旦那さんに見せた。

「まあ買うのは無理だとしても外から眺めるぐらいしてみようよー」とドライブの距離を伸ばす提案をした。心の中では「400万も980万も一緒やん」と思っていた(いや、全然違うんやけどね)

「うわっ!写真のまんまや!しかも意外と綺麗」
うっとりしているアタシに向かって、背伸びしてブロック塀から庭を覗き込んでいた旦那さんが慌てて走ってきた。
「オッチャンおる!芝刈りしてる!もしかしてもう住んでる人おるんかな。売物件の看板もなかったし。でもいっぺん聞いてみるわ」
旦那さんはこんな時ガツガツいけるタイプの人間だ。聞けばこの方はオーナーさんだった。ご厚意で内覧までさせていただけることに。

「うぉー!間取りもイメージどおり!何より庭が広ーい!」
長方形の庭はバレーボールのコートにも思える(ハイキュー!!の鵜飼監督の家の庭が思い出されて胸キュン)し、ゴールデンレトリバーが走り回っている姿もありありと目に浮かぶ。(あ、やばい。これ本気のやつ(直感)や)
そう思って旦那さんを見やるとこれまた本気と書いて「マヂ」と呼ぶとでも言いたげな表情。
「ええなー、ええわー、理想的すぎるわー、やばいわー、住みたくなってきたわー、てかもう頭ん中で住んでるわー」
(あらら、旦那さんのほうが温度上がってきたやん)

「好きなだけみてくださいね」オーナーさんはとても穏やかな方だ。月に何度か芝刈りや片付け、見回りのために東京からお越しなのだとか。丁寧に暮らしておられたことが伺えるためかすごく居心地がいい。旦那さんじゃないけど「ココに住んでいる感覚」をすぐに感じられる。

すごくリアルな夢を2人で見たような、そんなフワフワした状態でその日も酒を酌み交わしたのは言うまでもなく……。


〜to be continued〜

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