私は、私の存在しない夏が好き。
夏が好きだ。
私の存在しない夏が好き。
「夏が好き」というと大抵「暑いじゃん。」とか、「汗かくのが嫌。」とか言われる。
そりゃ私だって暑いのは苦手だし、汗をかいたら困る。
でも暑いのが苦手なのは、ボーッとして頭が働かない状態で、なお社会規範にそって生きなければいけないからだし、汗をかいたら困るのは、汗をダラダラ流している状態や、それに伴う汗染みとか臭いとか、つまり世の中の人の目が気になるからだ。
そういうものが無ければ、茹だるような感覚も、身体に水滴が流れるのも、別にそんなに悪くはない。
夏に、私の存在は、社会に存在する私は要らない。
昔から夏が好きだった。
どこか懐かしくて、ずっとそこへ行きたくて、それなのに絶対に辿り着けないような場所。この世界じゃない、「もう一つの世界」を感じる。
夏が一番切なくなる。
世界、全部嘘だよ。
今までのもの、全部幻だよ。
と言われそうな気さえする。
あぁやっぱり、全部幻だったんだ、と微笑みたくなる。
目の前にあるのに掴めない青空も、絵に描いたような入道雲も、全ての音を消し去る蝉時雨も、なんだか愛おしくて泣きそうになる。
だんだん暑くなってきた。
まだ少し先だけれど、今年も夏がちゃんと来てくれるみたい。
私は、私の存在しない夏が好き。